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スイス経済に「スキー場」が重要な理由

スキー場
スイス南部ティチーノ州アイロロのスキー場が12日、オープンした。マスクの着用が義務付けられている Keystone / Alessandro Crinari

新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、一部のスイス周辺国はスキー場を閉鎖した。それとは対照的に、スイスはスキー場の営業を原則認めている。アルプス地方の経済は、スキー場と冬場の観光に大きく依存している。

今月中旬、スイスのスキー場が外国メディアの注目を集めた。スイスに隣接する国々は、新型コロナの感染拡大を防ぐため、国民がクリスマス休暇にスキーに出かけることを禁止する、あるいは少なくとも思いとどまらせることを決めた。その一方で、スイスは今のところ一定の条件下でスキー場の営業を認めている。隣国からの圧力は、国内の利害関係者や山岳地域の州の代表、大多数の国会議員の反対にはかなわなかった。

未曽有の事態を受けて、スイスのスキーリゾートの活動は精査されることになりそうだ。しかし、論争はすでに始まっている。先月中旬にはスイス南部のツェルマットで、今月初めにはヴェルビエで、ソーシャルディスタンシング(社会的距離)のルールを無視して寄り集まるスキー客の映像が、国内や欧州のメディアから厳しく非難された。

この「天からの授かりもの」を放棄することは、経済的観点から危険だと言わざるを得ない。スイスでは、山岳地域が国土の3分の2近くを占め、人気の高い観光地となっている。連邦統計局(OFS)によると、2018年と19年には、ホテルの総宿泊数の54%がヴァレー(ヴァリス)地方、グラウビュンデン地方、ベルン地方で記録された。山岳地域では、5フラン(約574円)につき1フランが観光業によって直接・間接的に生み出され、4人につき1人が同産業の被雇用者だ。

主要なスキーリゾートがあるこれらの地方にとって、冬は一番のかきいれ時だ。ダボスなどグラウビュンデン地方の宿泊数の半分、ツェルマットなどヴァレー地方の宿泊数の40%以上が12~3月の間に記録された。

「冬場の観光業はスイスの国内総生産(GDP)の約1%を占めるが、ヴァレー地方やグラウビュンデン地方のような山岳地域では10%以上になる」と指摘するのは、「雪と山の観光に関する国際調査報告書外部リンク―スキーリゾートの主要産業データ概観―」を執筆したロラン・ヴァナ氏だ。同氏はswissinfo.chに対し、冬場の観光業は全体で年間約50億フランを生み出すと話す。

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索道は山岳リゾートの心臓部

スイス観光協会外部リンクによると、近年、スキーリフトやゴンドラなどの索道とスキーは、わずかだが一定して減少傾向にあるものの、地域レベルで直接・間接の経済的利益を生み出す山岳リゾートの主たる原動力であることに変わりはない。また、「一番多くの観光客を受け入れることができるインフラストラクチャーでもある」とヴァナ氏は指摘する。

18~19会計年度(19年夏を含む)で、索道事業部門は計15億フランの売り上げを計上した。その4分の3が冬に生み出された。また、スイス・ケーブルカー協会外部リンクによると、同産業の被雇用者は約1万7千人に上る。

スイスのスキー場では、19~20年冬季の総利用日数(来場者1人が1日に1回以上リフト券を利用すれば1日と数える)が2000万日を超えた。しかし、パンデミックによるスキー場の早期閉鎖や雪不足のせいで、18~19年冬季と比べて20%近く減った。過去5年の平均は2300万日前後だった。スキー客の約7割がスイス国内から、3割は欧州連合(EU)からだった。

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ほとんどの国で、スキー客の大部分を占めるのは国内客だ。しかし、世界で2カ国だけ例外がある。アンドラとオーストリアだ。ヴァナ氏の報告書によると、外国人客がどちらの国でも90%を占め、スキー場の総利用日数の3分の2を占める。

フランスやオーストリアの大半の山岳地域にとって、冬場の観光は1番の収入源だ。フランスのスキー場運営者組合外部リンクによると、サヴォワ地方の経済の半分は、直接・間接的にウィンタースポーツに関連している。フランスのスキーリゾートは年間10億ユーロ以上の売り上げを生む。支出が約100億ユーロと推定される市場であり、仏観光経済の5~10%を占める。また、毎シーズン1万8千人の直接雇用と12万人の間接雇用を供給している。

オーストリアでは、18~19年冬季の索道産業外部リンクによる売り上げが15億ユーロを超えた。ウィンタースポーツ愛好家による総売上高は110億ユーロ以上で、オーストリアのGDPに60億ユーロ近く貢献したとされる。また、直接雇用と間接雇用を合わせて約12万6千人の雇用が同産業で創出された。

スイスは世界のスキー産業の主要アクター

ヴァナ氏は、冬場の観光業は欧州レベルで330億ユーロ、世界レベルで690億フランに上ると話す。世界のスキー客訪問数の40%以上を占めるヨーロッパアルプスは世界最大のスキー市場だ。

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スイスは1シーズンのスキー場の総利用日数が平均2300万日で、米国、フランス、オーストリアには大きく引き離されているが、人口比ではオーストリアに次いで世界第2位だ。

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世界には、最低5基の索道を備えたスキーリゾートが2千カ所以上ある。米国、日本、フランス、イタリアが最も多く、そうしたスキー場がそれぞれ200カ所以上ある。絶対数では、オーストリアが世界第5位(200カ所)、スイスが第6位(90カ所)だ。しかし、1千平方キロメートル当たりのスキー場数が2カ所を超えるスイスは、日本、オーストリアに次いでスキーリゾートの密度が高い。

また、世界には、1シーズンのスキー場の総利用日数が100万日を超える主要リゾートが50カ所ある。そのうち80%がヨーロッパアルプスにある。オーストリアが最多で、次いでフランスに多い。

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スイスは世界第4位で、主要リゾートが6カ所ある。ツェルマット(ヴァレー地方)はスイスで最もスキー客が多く、アローザ・レンツァーハイデ(グラウビュンデン州地方)、アーデルボーデン・レンク(ベルン州)、ダボス・クロスタース(グラウビュンデン地方))、ヴェルビエ(ヴァレー地方)、サン・モリッツ(グラウビュンデン地方)の順に続く。

スイスでのウィンタースポーツには隣国より明らかに多くの費用がかかる(昨シーズンでは、オーストリアとフランスより約30%高かった)。しかし、スキーリゾートへのアクセスを制限する隣接諸国は、今シーズンの客足がスイスへ流れるのではないかと懸念する。そのため仏・伊政府は、クリスマス休暇中にスイスへスキー旅行に行こうとする人々を思いとどまらせようと、帰国時の隔離義務を導入した。

(仏語からの翻訳・江藤真理)

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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