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スイスでテレワークの満足度が高い理由

パソコン画面を見つめる女性
コロナ禍をきっかけに、テレワークはスイスで広く浸透・定着する兆しを見せるようになった Josep Maria Rovirosa

コロナ禍によるロックダウンをきっかけに急速に広まったテレワーク。スイスでテレワークが雇用者・被雇用者から広く受け入れられるのはなぜか。企業側から見たその理由と今後の課題を探った。

希望者には永久に在宅勤務を可能にする――。こんなメールがあなたの勤め先から届く日は、そう遠くないかもしれない。コンサルティング調査会社Empiricon外部リンクがswissinfo.chに明らかにした最新調査によると、被雇用者の87%はオフィスと同じように家で仕事ができると答え、約5割が現行体制は自身のワークスタイルに合っており、将来的に恒久化できると回答した。調査は2020年7月から8月末の間、エネルギーおよび行政分野を中心とした、スイスのさまざまな企業に勤める従業員約5千人を対象に行われた。

またオンラインビジネスネットワーク「Xing外部リンク」は6月、スイス、ドイツ、オーストリアの人事専門家や人事管理者1152名を対象に、コロナパンデミックが企業の人事業務に与える影響について調査を実施。スイス企業の85%は、コロナ危機後もホームオフィスやテレワークが可能だと回答した外部リンク

7月下旬には、グーグル、ツイッター、シーメンズに続き世界最大規模のヘルスケア企業ノバルティスが、希望者には恒久的に在宅勤務を許可する方針を発表外部リンク。スイス全国に約4600人の会員を擁する人事団体HR Swissの会長で、Post Finance株式会社のHRトランスフォーメーション専門家を務めるニコール・B・シュトゥッキ外部リンク氏はswissinfo.chに、スイスのテレワークは「コロナ禍を機に本格的導入を要望する声がさらに高まった」と話す。

2019年に連邦統計局が公表した統計では、スイスで在宅勤務を行う人は25%近いが、定期的に行う人の数は労働者全体のわずか3%で、普及はもうひとつだった。

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コロナ禍をきっかけに、ようやくスイスで広く浸透・定着の兆しを見せるテレワーク。スイスのテレワークがここまでスムーズに受け入れられるのはなぜか。企業によるどのような努力があったのか。前出のHR Swissのシュトゥッキ会長と、コミュニケーションコンサルタントで人事に詳しいC-Factor社のフィリップ・メッツラー外部リンク氏に話を聞いた。

アクセス環境

まず、大前提として両者が挙げたのは、スイスの多くの企業でITインフラが整っていたという点だ。コンピュータなどの機材、ソフトウェア、通信回線やネットワークへのアクセスの良さは、スイスでテレワーク導入を簡単にした。「インフラが整っていなかった企業は、短期間でそれを整備した」(メッツラー氏)

また、前出のEmpiriconの調査によると、テレワークに満足できた大きな要因の一つとして、多くの従業員が直属の上司との「アクセスの良さ」を挙げた。Empiriconの分析によると、「経営者および直属の上司が従業員と意識的に連絡を取り合い、部下に十分な時間を割き、必要な支援を行ったことが、被雇用者のテレワークに安心感を与え高い満足度をもたらし」、回答者の大多数がコロナ危機での上司の円滑なコミュニケーションと管理行動を肯定的、もしくは非常に肯定的と評価した。

社内コミュニケーションに詳しいメッツラー氏は「物理的な距離があると、社員を理解することが通常よりも難しくなる。そうすると感情的な距離感が大きくなる。意識的に人間関係を育み、気持ちを伝えることの重要性は高い」と話す。またシュトゥッキ氏は、コーヒーを飲みながら休憩できる仮想空間を設置し、バーチャル社内へアクセスできるようにした企業の努力もあったと話す。

成果主義と自信

ノバルティスのヴァサント・ナラシンハンCEOは7月の半期決算説明会で、恒久的な在宅勤務の導入について、「スタッフ全員が希望する働き方を選択し、最高の結果を得ることができる」と話した外部リンク。シュトゥッキ氏はこのような「オフィスにいることより、アウトプットを大切にする傾向のある」スイスの経営文化も大きく関係したのではと話す。

メッツラー氏はそれに加え、被雇用者がテレワークでも良い成果を出し続け、「従業員が家庭でも仕事を正確に、かつ忠実にこなしてくれるという経営者側の自信」を支えた点にも着目する。

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こうして企業側が常々持ち合わせていた「家で仕事はできないのではないか」という懐疑的な考えは払拭され、雇用側は長期的なテレワークの導入を視野にいれるようになった。

「コロナ禍のテレワークで、多くの仕事は家からでもできることが実証され、また通勤時間が無くなったことで、従業員がその時間を他のことに活用できるようになり、効率性さえ向上した」(シュトゥッキ氏)

導入のさらなるメリット

テレワークを引き続き導入すれば、非常時・有事でも臨機応変な対応がしやすくなる、インフラコストが削減できるなど、利点は多い。

またテレワークの導入で、企業は社会に対し現代的なイメージを与えることができる上、女性を中心とする育児中の労働者や障害者の雇用促進など、多様な雇用機会の創出が期待される。シュトゥッキ氏はこれについて、「女性の就労問題を抱えているため、部分的に在宅勤務ができるようになるのは、女性にとって喜ばしいこと。在宅勤務の定着は男性も肯定的に捉えられている。コロナの前は週に1日程度だった」と話す。

ただ、「在宅業務が多いと視認性が低下する。仕事をする機会は増えるが、出世の機会が減ってしまうという可能性はぬぐい切れない」と、人事における今後の課題を明かした。

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他にも課題はある。情報技術(IT)やサイバーセキュリティー、オフィス用品などの経費負担、保険など、法整備が必要な部分もある。企業のオフィスの使い方も課題の1つだ。テレワーク導入にともなう「ハイブリッドな働き方」を可能にするために解決すべき課題は多い。

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