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2023年6月18日の国民投票

スイスの改正CO2法、僅差で否決 2021年6月国民投票

スイスで13日、国民投票が行われた。国の温室効果ガス排出量削減計画を定めた改正法は51.6%の反対で否決された。化学合成農薬の全面禁止など農薬関連のイニシアチブ(国民発議)2件はいずれも否決、改正テロ対策法、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)中に策定されたCOVID-19法は可決された。

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地球温暖化対策が国民投票に

注目の案件は、温室効果ガス削減策を盛り込んだ改正CO2法だ。投票では有権者の51.6%が反対。ジュネーブ州などフランス語圏の州の一部ほか、チューリヒ州やバーゼル・シュタット準州では賛成票が上回ったが、そのほかの州では反対票が大半を占めた。

改正CO2法は、スイスがパリ協定に基づく目標を履行すること、つまり2030年までに、温室効果ガス排出量を1990年比で半減させる。これを達成するため、道路・航空輸送、経済、建物の改修の分野での削減策を同法に盛り込んだ。

同法は3年間の議論を経て昨年9月、連邦議会で可決された。これに対し、「企業や家計にとって非効率的でコストがかかりすぎる」と訴える経済界が、法律に反対するレファレンダムを提起。国民投票に持ち込んだ。署名活動には、気候活動家らで構成する2つ目のレファレンダム提起委員会も加わった。こちらの委員会は、同法では気候の緊急事態に十分対処できないと訴えていた。

シモネッタ・ソマルーガ環境相は13日夕の会見で、否決の要因はまだ明言できないとしたが「法案の適用分野が多岐に渡り、おそらく内容が過多だったのだろう」とコメント。ただ「気候保護そのものへの反対ではない。この法律ではだめだという意思表示だ」と述べた。

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もう1つの環境政策は、化学合成農薬の使用だ。農薬に関しては2件のイニシアチブが出されていた。主に化学合成農薬使用の全面禁止、国の農業・食品生産部門の抜本的な改革を求めたもので、投票ではいずれも6割以上が反対。州の過半数も反対に回った。

2件の目指すゴールは同じだが、アプローチが異なる。イニシアチブ「化学合成農薬のないスイスのために」は、国内農業部門での合成除草剤、殺虫剤、殺菌剤の個人・商用での使用を、全面的に禁止することを求めるもの。またこれらの製品の輸入も禁止する内容だ。

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もう1つの「飲料水イニシアチブ」は、飲料水の品質が焦点だ。だがそれに加え、持続可能で環境に優しい生産方法を取らない農業生産者には、公的助成金を打ち切るよう求めていた。

ギー・パルムラン経済相(兼連邦大統領)は13日夕の会見で「農業政策において連邦政府と連邦議会が取った道筋を、有権者が支持した」と歓迎した。

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改正テロ対策法は56.6%の賛成で可決された。

同法は15年に仏風刺週刊紙シャルリー・エブド本社が襲撃された事件を受け、政府のテロ対策戦略の1つとして同法が制定された。改正法では、テロを起こす疑いのある人物に対し、警察が予防措置を講じることができるようになる。議論の焦点は、「刑事手続き開始に十分な証拠が揃っていない段階」でも警察が介入できる、という点だった。

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左派政党を中心に構成された「恣意的法律に反対する」超党派委員会が、レファレンダムを提起した。同委員会は改正法は権力の乱用だと訴え、国連人権高等弁務官、欧州評議会人権委員も、改正法が「自由を恣意的に奪う」として反対派を支援していた。

カリン・ケラー・ズッター司法警察相は13日夕の会見で「テロリズム対策の穴をこれで埋めることができる」と述べた。

5つ目の案件は、パンデミック対策のため連邦政府に強い権限を与えることを認めたCOVID-19法だ。投票では60.2%の賛成が集まり、可決された。

COVID-19法は、パンデミック中の昨年3月中旬~6月中旬、政府が通常の議会審議を経ずに下した約18件の決定の法的根拠となる。これに対し、市民グループが法律の施行に反対するレファレンダムを提起した。

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連邦制のスイスでは、教育や社会福祉施策を始め州が強い権限を持つ。だがパンデミック中は、緊急事態宣言を理由に、連邦政府が各州にまたがる制限措置を敷いた。このため反対派は、連邦制と直接民主制の政治システムにおいて、国の執行機関が強大な権限を持つことへ強い懸念を示していた。また、政府のワクチン接種政策に対する不信感も背景にあった。

アラン・ベルセ内相は13日夕の会見で「(コロナで打撃を受けた)スポーツクラブへの財政的援助などを引き続き行うことができる」と述べ、投票結果を「喜ばしいニュースだ」と歓迎した。

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高い投票率

開票予測によると投票率は59.64%で、1971年の女性参政権の導入以来9番目に高い数値となった。

(仏語からの翻訳・宇田薫)

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