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国際都市ジュネーブ、窃盗が激増

人口約50万人に対し、昨年の軽犯罪数が7万2821件あったジュネーブ州 Keystone

ジュネーブ州でのスリ、ひったくり、空き巣がここ数年激増している。ジュネーブ州警察の発表によると2011年は特にひどく、前年比でスリが43%、ひったくりが28%、空き巣が17%増加した。こうした窃盗を数でみると50万の人口に対し7万2821件に上った。

またジュネーブ市だけに限ると、住民1000人に対し217件になり、スイス全都市でトップとなった。

 国際都市ジュネーブ。国際機関がひしめくこの街では、一般市民はもちろん、多くの外交官や旅行者も窃盗の被害に遭っており、ジュネーブの安全性のイメージは損なわれようとしている。これに対し、ジュネーブ州警察はようやく具体的な対策に乗り出したが、「遅すぎる感が否めない」という声が外交官の中から上がっている。

軽犯罪の増加にショック

 「ジュネーブの日本代表部関係者の中で空き巣、スリなどの被害は2011年度で16件。これは、世界の日本大使館や代表部の中で最高の数だ」とジュネーブ国際機関日本政府代表部のセキュリティー担当官は嘆く。

 被害は政府関係者だけに限らず日本の旅行者にも及んでいる。在ジュネーブ出張駐在官事務所の石田達識(たつのり)領事は、「パスポートを盗まれたと届け出る日本人旅行者は週に1人の割合。昨年は年間50件。今年も同じ数になると予想される。しかし、領事館が把握できるのはパスポートの届け出だけだ。サイフなどを盗まれた人も含めるとスリの被害件数はもっと多いのではないか」と対策の緊急性を語る。

 日本人旅行者が被害に遭う地域は、ジュネーブ市が中心でそれにヴォー州のローザンヌ市が次ぐ。

 石田領事は約30人の各国領事から成るグループの1員として州警察に対策強化を訴えてきた。同グループの幹事役を務めるサウジアラビアのナビル・モハメッド・アルサレ領事は、「ジュネーブでの、ここ10年間の軽犯罪の増加にはショックを受けている。各国の領事館関係者や外交官全員が何らかの形で被害に遭っている」と話す。

 サウジアラビアの領事館では3カ月間でスリに遭ったスタッフが6人。ジュネーブに滞在した多くのサウジアラビアからの旅行者もスリに遭っている。「世界貿易機関(WTO)で働く同僚と副領事のアパートに空き巣が入った。以降、領事宅にはガードマンに常駐してもらい、監視カメラも設置した」と付け加える。

5人に1人が被害者

  こうした話は数字の上でも明らかだ。ジュネーブ州警察の発表によると昨年2011年、人口約50万人のジュネーブ州内の軽犯罪で刑事事件として取り扱われたものは前年に比べ18%増加し、7万2821件に上る。

 これをジュネーブ市だけに限ってみると、2011年は住民1000人に対し217件の犯罪が起き、スイス国内でトップを占め、およそ5人に1人が被害者という計算になる。

 特に空港や駅周辺、レマン湖周辺、旧市街など、旅行者が多い地域でのスリ、ひったくりの増加は、シェンゲン協定の「人の自由な移動」が認められるようになり、フランス経由で不法にジュネーブに入ってくる北アフリカからの犯罪者のせいだという。この犯罪集団がスリの32%、ひったくりの40%を占める。

 業を煮やした州警察は、対策の一つとしてこうした公の場でのスリ、ひったくりだけを対象にした特別なオペレーション「バック(BAC)」を1カ月前にスタートさせている。18人の警察官から成るバックの責任者オリヴィエ・ユベール氏によれば「300~400人の犯罪者がジュネーブに入り込んでいる。いつも同じ顔を見かけるからだ」という。バックでは、こうした常習犯についても予防として職務質問を繰り返している、と強調している。

遅すぎる対策

 「こうした窃盗の基本的な問題は、ジュネーブ州に警察官の数が圧倒的に少ないことだ。それは明らかだ。バーゼル州では住民200人に対し1人の警察官がいるのに対し、ジュネーブ州では住民400人に1人の割合いでしかない。これは20年間全く変わらなかった。今ようやく関係当局の上部が目覚め、警察官数を増やそうとしている」と語るのは、ジュネーブ州警察署長補佐ジャン・サンチェ氏。元警察官としてパトロールに当たっていた経験から、知り合いの外交官たちがこうした状況を嘆くのを歯がゆい思いで聞いてきた。

 今年に入り、ジュネーブ州警察・安全局長のイザベル・ロッシャ氏は「今後3年かけて250人の警察官を増やす」と発表した。現在1350人の警察官が将来1600人になる計算だが、「それでもバーゼルの数には及ばず、住民300~350人に対し警察官1人の割合だ」とサンチェ氏。

 同氏によれば、もう一つの問題は刑法の緩さと犯罪者を拘束する場所の少なさだ。「現在1回のスリでは拘束されないが、2回目からは1、2週間拘束される。だが、3回目からもっと長期に拘束すべきだが、その場所がない。また刑法自体が緩やか過ぎる。現在、ジュネーブやローザンヌの政治家が、連邦議会内で刑法改正を訴えているところだ」と言う。

 こうした後手に回っている州警察の動きに対し前出のアルサレ領事は、「ロッシャ氏が対策をまったく行わなかったわけではない。しかし、犯罪は増え続けた。実際、我々はそんなに難しいことを要求しているのではない。警官を増員してほしいと言っているだけだ。特に湖畔の高級ホテルが並ぶ辺りにはお願いしたい。外交官や旅行者が、夜怖くて外出できないとこぼしているからだ。この小さな街でこうした対策がとれないはずはない」

 

 「また、国際機関が集まり、重要な人物、それも王や大統領、首相などが訪れるジュネーブは世界で最も安全な場所であるべき。そのためにジュネーは全力を投入すべきだ。また犯罪者を出身国に送り返す2国間の合意も進めていくべきだ」と結んだ。

昨年2011年の州内の軽犯罪で刑事事件として取り扱われたものは前年比18%増加し、数では7万2821件(人口約50万人)。

しかし、暴力事件、性犯罪はともに減少し、前者が9%、後者が7%減った。

窃盗だけに限ってみると、2011年は29%も増加した。空き巣は1日50件の場合もあり、17%増加。スリは43%増加し、バッグなどのひったくりは28%増加。車からの窃盗は45%増加。

ジュネーブ州警察によれば、ジュネーブには、特別な犯罪集団が三つ見られる。一つはバルカン半島の、中でもルーマニアから入ったギャング団で、昨年秋に多数の空き巣を働いた。

また二つ目はミラノにベースを置く、バルカン半島からの若い「ロマ」で、彼らはパリとイタリア間で空き巣を働き、ジュネーブにも入ってきた。

三つ目は、ジュネーブに不法に住む北アフリカの人々で、主に通りでのスリや暴力事件に関わる。「アラブの春」でその人数は増え、通りでのスリなどから空き巣の犯行に移行する傾向がある。

この、北アフリカからの犯罪者が主にジュネーブのスリとひったくりの増加の原因だという。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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