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チューリヒに小さな大都会

シールシティでショッピング。広場での休憩には、緑色の「振り子バンク」でどうぞ swissinfo.ch

チューリヒ市内の最後の工場があった土地が3月22日、総賃貸面積9万7000平方メートルの巨大なショッピングモール「シールシティ ( Sihl City ) 」として生まれ変わる。民間の建築・不動産会社グループによって建築され運営されるスイス最大の建物になる。

シールシティは、小売店80店舗、レストラン13軒、ホテル1軒、9つのスクリーンを持つ映画館、ディスコ、教会、病院、ウェルネスセンターなども完備。1日平均2万人の訪問客が見込まれている、総合エンターテイメント施設だ。

 ショッピングセンターといえば、都市郊外にあるのが主だ。しかし、投資額6億フラン ( 約580億円 ) のシールシティは、チューリヒの中心地から路面電車で10分の距離にあり「チューリヒ市に融合した施設」と企画責任者のコンラディン・シュティッフラー氏は強調する。

将来のニーズに応えたコンセプト

 もともとここには、スイス大手の製紙工場が150年もの間操業していた。シールシティの「カランダ広場」には赤レンガの高い煙突がそびえたつ。工場の名残である。近くにはシール川が滔々 ( とうとう ) と流れ、川と平行して高速道路が走る。

 今から30年前、工場跡にオフィスビルを建てる計画があった。しかし、チューリヒ市当局などの反対にあい、連邦最高裁では勝訴したものの、実現されないまま時が流れていった。その後、当初のコンセプトは時代にそぐわないものと判断され、総合エンターテイメントをうたうシールシティが生まれた。

 入居するのは、ドイツから初進出という衣料品店などもあるが、主に大手スーパーや市内でもお馴染みのブランド店や飲食店が大半を占める。チューリヒのショッピング街をそっくりそのままここに移してきたともいえる。月曜日から土曜日まで、店舗は朝9時から夜8時まで営業し、レストランや映画館、ウェルネスセンターなどは深夜まで開いている。

チューリヒ市の一部として

 シールシティのオープニングに伴い路面電車の路線が1.7キロメートル延長され、停留所がシールシティの入り口に隣接する。チューリヒ市の交通担当アンドレアス・トゥーラー氏は「民間企業との協力で、8カ月で路面電車の延長が実現した」と喜びを隠せない。チューリヒでは、路線計画が立てられてから実現まで、10年かかることも珍しくないからだ。今年末までの運営費が、シールシティから保証されていることも歓迎するという。

 公共交通機関の充実は、管理運営会社にとって不可欠な問題である。駐車場が850台分しか備えられていないのである。これは、同じくチューリヒ市郊外にあるスイス最大のショッピングセンターの5分の1。訪れる人には路面電車、バスの利用を呼びかけ、買い物荷物のデリバリーサービスも設けた。しかし、2年後には近くにある小山にトンネルが貫通し、増えるであろうと見込まれるマイカー族への対応が課題となる。

市中心部との綱引きか

 チューリヒのメインストリートであるバーンホフ通りの店舗が中心になった市内商店協会のハイディ・ミューレマン氏は「シールシティは他のショッピングモールと同じような役割を果たすだけだ。バーンホフ通りの客がそちらに流れるという懸念はない。シールシティの客層は若者に限られるだろう」と強気である。
 
 また、シールシティの集客力を疑問視する声もある。たとえば9スクリーンを有する映画館「アレナ ( Arena )」。ポルノ映画のプロデューサーで市内に映画館を所有するエディ・シュトゥックリ氏が運営する。「映画の選択は、家族を念頭に置く」とシュトゥックリ氏。しかし、市内とその近郊合わせて人口100万人のチューリヒで、市内のスクリーン数はすでに52。アレナの維持には年間70〜80万人の観客が必要と見られている。チューリヒ地方紙の2006年9月6日付けリマントタール・タクブラットによると、スイスの大手映画館「キタック ( Kitag )」 は、新映画館の集客力を疑っているという。

 シールシティに投資するクレディ・スイスのマルクス・グラーフ氏によると、年間賃貸収入は当初予定していた4000万フラン ( 約39億円 ) を越え4600万フラン ( 44億6000万 ) に上る。「ほぼすべて賃貸し切ったが、いまだに問い合わせの電話が絶えない。利回り7.6%と非常に有望な投資だ」と将来の不安などはまったくないようだ。

swissinfo、佐藤夕美 ( さとう ゆうみ )

敷地4万2000平方メートル。
賃貸面積10万平方メートル。
小売店 ( 80店舗 ) 、レストラン ( 13軒 ) 、ホテル( 132室 ) 、映画館 ( 9スクリーン ) 、ディスコ、教会、病院、ウェルネスセンター、ベビーシッター用施設、図書館、コンサートホールや展示場のある文化センター、マンション16戸、事務所等。
建設費用 6億フラン ( 約580億円 ) 
労働人口 2300人
予想訪問客数 1日に2万人
駐車場 850台
アクセス : 路面電車5番、13番、バス33番でUtobrücke下車、バス89番、郊外近距離電車S4でSaalsporthalle下車 チューリヒ市中心地パラーデプラッツ ( Paradeplatz ) から公共交通機関を使って10分。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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