チューリヒの科学研究ネットワークに米企業が熱い視線
チューリヒの科学研究ネットワークは近年急成長を遂げている。これに世界最大の製薬会社、米ファイザーが関係構築への道を探りだした。
ファイザーの経営陣がスイスインフォに語ったところによると、チューリヒ連邦工科大学(ETH)とチューリヒ大学が持つ研究ネットワークに非常に興味があるという。
ファイザーの科学技術担当副社長、ピーター・コーア博士は4月3日の「チューリヒ新科学技術会議」に出席した。これはスイスの学術界と産業界のつながりをさらに深めることを目的にした会議だ。
チューリヒは高い才能と知識が集まった街なのです
「チューリヒが他の都市と違うのは、基礎研究と応用科学、そして病院での臨床医学の分野がそれぞれ常に近い協力関係にあることです」とコーア博士は言う。「だからこそ、こんなに科学技術の研究に活気があるのでしょうね。チューリヒは高い才能と知識が集まった街なのです」
「この会議はこれからも学術界と産業界の両方の分野に、非常に大きな利益をもたらすでしょう。私たちはこのような場所と協力関係を構築したいと思っています」。コーア博士は、例として調査研究の相互協力、技術開発、製薬に対する新しい成分開発などを挙げた。
チューリヒは2004年、バーゼル大学と共にシステムスX(SystemsX)という研究ネットワーク・プロジェクトを立ち上げた。それ以来、自然科学分野で国際的な名声を高めている。
システムスXのネットワーク
システムスXには、「チューリヒ癌ネットワーク」、「チューリヒ神経科学センター」、「チューリヒ・バイオテックセンター」なども参加しており、新薬開発に欠かせないバイオロジー機能の研究を行っている。この他にも世界的に有名な伝染病研究センターや動脈硬化や糖尿病などの代謝異常症候群を研究するセンターなども傘下に入っている。
また、システムスXはチューリヒ大学病院やチューリヒ・テクノパークとも緊密な関係にある。これに加え、2010年までにはETHのキャンパス内にサイエンス都市を創設するプロジェクトが着々と進んでいる。
この動きをスイスの製薬会社が座して見ているはずはない。製薬大手のロシュは2005年12月に、システムスXが3年かけて行う糖尿病研究プロジェクトに年間210万フラン(約2億円)を投入することに合意した。
ETHのエルンスト・ハーフェン教授はこのたびのチューリヒ新科学技術会議で、「他の組織との協力関係をさらに求めていく」と発言した。
選択の時
ファイザーのコーア博士は「スイスは、近い将来、世界の科学を引っ張るリーダーになるでしょう」と言っている。しかし博士が懸念するのは、スイス政府が金銭的なバックアップや科学教育に対して充分に力を入れないことだ。政府の強力な後押しがなければドイツの二の舞になる可能性がある。
「昔は、世界で医学といえばドイツ、というのが常識でした。彼らの製薬会社が世界を大きくリードしていたのです。しかしドイツ政府は過去15年、大きな間違いを犯しました。彼らは研究費を大幅に削減し、沢山の優秀な分子生物学者が国内から出て行ってしまいました」
コーア博士はスイス政府に警告する。「スイスは今、未来を目の前にしてどんな道を取るか選択の時に来ています」
swissinfo、マシュー・アレン、 遊佐弘美(ゆさひろみ)意訳
‐2010年までにETHは、4億フラン(約363億円)かけてサイエンス都市プロジェクトを開始する。
‐米ファイザーは世界最大の製薬会社で2005年の売り上げは510億ドル(約6兆円)、純利益は80億ドル(約9500億円)。
「システムスX」はETHとチューリヒ大学、バーゼル大学の研究ネットワーク・プロジェクトとして2004年から開始された。
スイス大学会議から創設資金として1000万フラン(約9億円)が拠出されている。
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