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チョコのトレンドセッター

フェルクリンのバイヤー、フェリックス・インデルビツィン氏 ( 右 ) と現地に赴き、栽培状況をチェック Max Felchlin AG

一人当たりの消費量は世界最一。年間売上120万トンの「バリーカレボー」やネスレといった世界有数な企業はもとより、スーパーのPB商品も合わせひしめくスイスは、チョコレート王国だ。

こうした激戦地にあって「小規模でも生き延びるため」こだわりを持ち続けた「マックス・フェルクリン社」は10年前、ミルクチョコ文化のスイスにブラックチョコを流行させたトレンドセッターだ。

ブラックチョコの先駆者

 マックス・フェルクリン ( Max Felchlin AG/以下フェルクリン ) は、カカオの輸入から最終商品まで手掛けるチョコレート会社としては国内で最も小さい企業の一つに数えられる。この小さな会社が10年前に発表した「グラン・クリュ ( Grand Cru ) 」は、それまでミルクチョコが主流だったスイスのチョコレート文化にブラックチョコの微妙な味の素晴らしさを伝える革命的な商品となった。仕掛け人はクリスティアン・アシュヴァンデン氏。1992年、フェルクリン家の2代目から継いで最高経営責任者 ( CEO ) に就任した。

 開発には5年間を費やした。世界各地から最高とされるカカオ豆を取り寄せ、味覚に敏感でその感覚を言葉で表現できるワイン専門家の意見も大きく参考にしたという。こうして選ばれたベネズエラのマラカイボ産のクリオリョ豆だけを使い「最高で特別な商品」を作った。1999年に初めて食品メッセで紹介したところ
「顧客がこれほどまでに満足してくれたことに、こちらが驚いたほどです。当時、ブラックチョコは主流ではありませんでしたし、カカオ含有量65%という表記をしたチョコはありませんでしたから」
 グラン・クリュ登場以後、大手チョコレートメーカーによりカカオの含有量を全面的にアピールした追従商品が次々と出回るようになった。

フェアートレードの先駆者

 グラン・クリュの原材料となるマラカイボ産のクリオリョ豆は害虫や病気に弱く採算性の低い種類のカカオだ。質よりも量を求める大手の波にのまれ、隅に追いやられている。フェルクリンの需要もさほど多くはないことから、カカオの卸業者からは採算が取れないことを理由に取引を拒否された。仕方なくアシュヴァンデン氏は、直接生産者とのパートナーシップを作り上げるため、カカオの栽培技術を指導する開発援助団体の協力を得てベネズエラに飛んだ。

 「あくまでもカカオの質を追求したら、現地の生産者との協力が必要になったまで。労働条件、特に子どもの労働問題などは、現地で生産者と直接会えば分かります。現地の生産者を技術的にサポートしながら、手間暇かけたカカオは高く売れることを分かってもらいました」
カカオ豆は収穫してから木箱の中で2、3日発酵させ、その後、ゴザの上で日干しにして水分6.5%になるまで乾かすことで、高級品が作られる。しかし、需用を満たすため、大手から派遣されたバイヤーは、こうした過程を無視したカカオ豆を安値で買い取っていくのだという。

 フェルクリンのビジネスモデルは、最近チョコ業界で重視し始められてきた「フェアートレード」そのもの。
「弊社には以前からあったビジネス方法ですが、今は特にこうした風潮があるので、サイトでも紹介しています」
2代目のマックス・フェルクリン氏がアシュヴァンデン氏を雇った際の求人広告にも大きく「持続性のあるビジネスをする人材」が掲げられてあったという。社の精神はいまも忠実に引き継がれている。

チョコの大使がいない

 フェルクリンは1973年から日本市場にも進出している。その当時の日本には今のようなチョコレート文化は無かった。しかし、本場のチョコを作ろうという日本職人の要求は高く、スイスからショコラティエを派遣し教育もしたという。日本に創設した「フェルクリン会」はこうした専門家のクラブで、会員に限って最高級の商品を扱える特権がある。現在の日本のショコラティエの水準は
「味がヨーロッパのシェフの舌に、いま一つ合わないという面もあるかも知れませんが、芸術性は明らかに世界一。質の追求という面で、私たちの指標となるものです」
 とアシュヴァンデン氏も認める。
 
 しかし日本におけるスイスチョコレートの知名度は、フランスやベルギーと比較して低い。アシュヴァンデン氏はスイスを代表する「リンツ( Lindt ) 」や「カイエ ( Cailler ) 」といったブランドはあっても、カリスマ的なショコラティエがいないと言う。フェルクリンも海外では、フランス人のショコラティエとビジネスすることが多くなった。
「パイオニア精神を持って外国で一旗上げようとする若いスイス人が少なくなりました。スイス人の『チョコ大使』がいないのです」
 
佐藤夕美 ( さとうゆうみ ) 、シュヴィーツ州イバッハ ( Ibach ) にて、swissinfo.ch

1908年創業 
従業員124人。うち製造部門78人。
2009年の生産量 6056トン。売上5100万フラン ( 約43億円 )
5割が輸出向け。おもに、アメリカ、日本、サウジアラビアなど40カ国

スイス 12.4 Kg
ドイツ 11.4 Kg
イギリス 10.4 Kg
ベルギー 10.1 Kg
日本 2.2 Kg
出典 スイスチョコレート協会 ( Chocosuisse )

18万4969トン ( 前年比+2.0%) 、18億1800万フラン ( 約1560億円/同+9.3% )
輸出量 11万1494トン ( 同+1.4% )
総額9億2400万フラン ( 約780億円/同10.9% )
主な輸出国、ドイツ( 14.8% )、イギリス ( 13.3% ) 、フランス ( 9.6% ) 、アメリカ ( 7.4% )など
出典 スイスチョコレート協会 ( Chocosuisse )

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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