スイスの視点を10言語で

ネスレ会長、成功の秘訣を語る

ブラベック氏は2008年にCEOを辞任すると表明している. Nestlé

このたびネスレは記録的な利益急増を計上した。一躍時の人となった会長兼CEO(最高経営責任者)のペーター・ブラベック氏が、スイスインフォの取材に応じてどのように競争に勝ちぬいたかを語った。

オーストリア人のブラベック氏がネスレの経営トップに就いたのは1997年。しかし、2008年の株主総会でCEOの辞任を発表する意向だ。

 レマン湖畔に本社を置くネスレは、飲食料関連では世界最大手だ。140年も前から続く老舗だが、今もトップを走り続けている。2005年には910億フラン(約8兆2000億円)の売り上げを記録し、前年比21%増の80億フラン(約7200億円)の純利益を出した。

 ネスレ会長兼CEOのブラベック氏によると、成功の秘訣は研究開発分野と経営手法の両方の分野を絶え間なく革新していくことだ。

swissinfo : ネスレの戦略で、他の企業と違うところはどんなところですか。

ブラベック : かなり長い間、私たちは合弁などを避けて1つの企業であり続けてきました。その間、一貫して研究開発に多大な時間と資金をつぎ込んできたのです。これは私たちが今日、築き上げた貴重なノウハウとなっています。

 私たちは誰よりも早く世界に出て行きました。南米に最初の工場を建てたのは1921年です。1990年代、グローバル化が流行しましたが私たちには無縁でした。私たちは100年も前にすでにグローバル化していたのですから。

 私たちには「グローバル市場の消費者」という考えはありません。私たちは全ての消費者をひとまとめにくくらず、個人として捉えています。このような姿勢が、激しい競争に勝って固定客を勝ち取ることにつながったのではないのでしょうか。

swissinfo : 一般的には、「ネスレは非常に保守的で、変化を好まない」と言われていますが、実際は組織的に革新を続けてきたのですか。

ブラベック : 私たちの会社は生まれてからずっと革新を続けてきました。そうでなければ140年も続きませんよ。

 私たちにとって変化は特別なことでも何でもありません。革命を起こさずとも変化を続けることはできるのです。変化は私たちの企業戦略の一部となっています。毎年、全製品の20%を入れ替えます。これは並大抵のことではありません。私たちは確かに変化を好む企業風土ではないかもしれませんが、ビジネスのやり方そのものがいつも変化を前提にまわっているのです。

swissinfo :  あなたはかつてネスレを無敵艦隊にたとえたことがありましたね。スペインの無敵艦隊は沈んでしまいましたが、あなたはどのようにこの無敵艦隊で航海していくつもりですか。本社に権力が集中し過ぎるのは良くないとも発言されましたが。

ブラベック : 決定権を分散させることは非常に重要です。現在、「超大型艦隊」の解体に汗を流している最中です。私たちは非常に広い分野に手を広げたので、これを一つのビジネス・モデルに限定するのは無理だと思ったのです。ある種のビジネスに対してはそれに合ったモデルが必要です。

 しかし同時に指揮系統は一つであることは言うまでもありません。これが不安定ではあってはなりません。しっかりした指揮系統と共通の供給系統が重要です。

 分権化は現在着々と進められています。これを需要機能の創設と呼んでいますが、消費者が望むものに敏感に対応して実際に行動していこうという戦略です。けれども、消費者と関係のない所では中央の影響も増しています。

 製造ラインは現地化する一方、供給分野や購買分野は地球的規模で考えるべきですし、いろいろ取り混ぜた企業戦略を取っています。

swissinfo : かつてあなたは「ネスレは株主の利益だけを考えているわけではない」と発言なさっています。ネスレは他にどんな人の利益を考えるのですか。

ブラベック : 株主の利益だけでなく、私たちがビジネスを展開している全ての国、全てのコミュニティの利益について考えなければいけないと思っています。

 同時に、私たちのために働いてくれている何百万人もの農家の人々、25万人の我が社の従業員、必要な物を供給してくれる数々の関係業者の人たち、世界中の貿易相手についても同じことが言えます。

swissinfo : 激しく追い上げる安売り店についてはどのようにお考えですか。危機感を感じるということは全くないのでしょうか。

ブラベック : 安売り店というのは実は新しく出てきたものではないのですよ。スイスのミグロは何十年も前に出てきましたね。

 面白いことですが、私がネスレに入社した当初も、CEOとなった時も、ミグロとネスレは取引関係がありませんでした。ところが今日、ミグロに行けば飲料水からドックフード、お菓子までありとあらゆるネスレの製品を見ることができます。まあ、私たちは彼らと一緒に生き残る道を学んだと言えるでしょう。

 安売り店に対する私たちの去年の売り上げは前年比20%の10億フラン以上(約904億円)でした。危機感どころか、お礼状を書かなくてはいけません。

swissinfo : あなたはこの数年間、ネスレに大変な成功をもたらしました。なぜ辞任しなければいけないのですか。

ブラベック : 私はこの会社の収益を上げて経営に活気をもたらしました。現在進んでいるネスレの変革を見届けたいと思っています。このプロセスが完了するのが2008年ぐらいだと見ているのです。その時こそ、私がCEOにお別れする良い機会だと思うのです。

swissinfo、ロバート・ブルックス、遊佐弘美(ゆさひろみ)意訳

売上高:910億フラン(約8兆2000億円)
利益総額:117億フラン約(1兆500億円)
純利益:80億フラン(約7200億円、前年比21%増)

ネスレは創業1866年で、飲食料関連企業では世界最大手。
従業員は世界中に約24万7000人。

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部