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ノーベル化学賞にビュートリッヒETH教授

クルト・ビュートリッヒ教授 Keystone

2002年ノーベル化学賞は、連邦工科大学(ETH)チューリッヒのクルト・ビュートリッヒ教授(64)、島津製作所の田中耕一氏(43)、米バージニア・コモンウェルズ大のジョン・フェン教授(86)の3人に送られた。

受賞理由は「タンパク質など生体高分子の構造解析のための手法の開発」で、ノーベル財団は「3人の研究なしでは現代の医薬品開発はない」と讃えた。

賞金の100万ドルはビュートリッヒ教授に半分、フェン教授と田中氏に4分の1ずつ贈られる。

化学賞を受賞した3人が開発した手法は、ガンの早期診断やスポーツ・ドーピングのモニター、環境汚染の分析に応用できる。現在チューリッヒとカリフォルニアの研究所に兼務するビュートリッヒ教授は、医療用のMRI(磁気共鳴画像化装置)にも応用されている核磁気共鳴(NMR)という現象をタンパク質の立体構造と細胞内での働きの解析に応用する手法を開発した。

受賞の知らせを受けたビュートリッヒ教授は、「とても驚いたが大変うれしい。とにかく素晴らしい。大勢の人が電話をかけてきて、頭が変になりそうなのを心配する暇も無い。」と述べた。研究の目的についてビュートリッヒ教授は「生命のメキャニズムの理解と、その機能不全への対抗手段の発見に貢献すること」と説明し、「これで夢がかなった。」と語った。

91年のスイス人ノーベル化学賞受賞者リヒャルト・エルンスト氏は、ビュートリッヒ教授の研究はバイオメディカル・プロセスの意義深い情報入手を可能にしたと、swissinfoに語った。ビュートリッヒ教授は、BSE(狂牛病)とクロイツフェルト=ヤコブ病の原因とされるタンパク質プリオンの立体構造を解析し、ヒトとウシの健康なプリオンの分子構造に類似性があることを発見した。プリオンの分子構造のほぼ同一の性質が、狂牛病がどのようにしてヒトに感染するのかを解明するのに役立つと思われ、特定の食肉とクロイツフェルト・ヤコブ病の関連が証明される可能性が高い。

ETH関係者がノーベル賞を受賞するのは5人目。エルンスト氏は、「ETHが世界最高水準にあることが証明され、世界最高の研究者らを引き付けることになるだろう。」と述べた。

ルート・ドライフス内務相はビュートリッヒ教授のノーベル化学賞受賞について、「ETHの業績とスイスにとって素晴らしい知らせ」と喜びを表明した。ドライフス内相は、近年スイスでは科学研究費が不足していることを認め、将来は研究費を増やしていくとの方針を打ち出した。また、スイス医薬品企業の包括団体Interpharmaのトーマス・クエニ事務局長は、ビュートリッヒ教授の受賞はスイスが科学研究の最先端の位置を維持することへの励ましとなると述べた。

授賞式は12月10日(1896年12月10日に死亡したアルフレッド・ノーベル博士に因む)、スウェーデン・ストックホルムで行われる。

連邦工科大学(ETH)チューリッヒのクルト・ビュートリッヒ教授にノーベル化学賞。
タンパク質解析が専門のビュートリッヒ教授は、BSEとクロイツフェルト・ヤコブ病の原因とされるプリオン解析に成功。

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