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ヒジャブは試合の妨げになるのか

スーラ・アルシャヴクさんはイラク生まれのスイス国民 Boris Bürgisser/Neue LZ

イスラム教徒のスーラ・アルシャヴクさんがヒジャブ着用禁止の規則によりバスケットボールの試合に出場できなくなってから1年が経過した。彼女はスイス連邦最高裁判に上訴することも考えている。

彼女が昨年9月に地域のリーグ戦に出場停止になってから関係者の間で議論が続いている。担当弁護士のダニエル・ヴィッシャー氏は、まだ解決の糸口が見つかっていないと言う。

出場禁止の理由

 ナショナルB級リーグ「STVルツェルン」チームに所属するアルシャヴクさんは現在20歳。スイス北東地域のバスケットボール協会「プロバスケット ( ProBasket )」から頭に被るスカーフ「ヒジャブ」を止めるか、試合出場を止めるか、どちらかにするように言い渡されて以来、試合に出場できずにいる。

 プロバスケットは、スポーツ競技は宗教に対してあくまでも中立でなければならないと定めている。一方で、試合中にヒジャブを着用することは、けがの危険性が高まるので禁止しているという。また、プロバスケットは、公共の試合で宗教的なシンボルの使用を禁止している「国際バスケットボール連盟 ( Fiba/International Basketball Federation )」の規則に従っているだけだと説明している。

 アルシャヴクさんは、今年1月、ヒジャブ着用禁止の規則に異議を申し立て、ルツェルン地方裁判所に控訴したが敗訴した。裁判所側は、試合中のヒジャブ着用禁止規則は、彼女の選手としての権利を侵害するものではないと判断している。

 アルシャヴクさんの担当弁護士、ダニエル・ヴィッシャー氏は、「彼女の個人的な権利が侵害された」と主張して、スイス連邦裁判所に上訴する予定だ。しかし、そのためにはプロバスケット連盟内における規則に従い法的手続きを行う必要がある。

厄介な状況

 今月初旬、ヴィッシャー氏は、アルシャヴクさんがヒジャブを着用したまま試合に出場できるよう新たに告訴する準備を整えた。

 議論は既に数カ月間、「プロバスケット」と「スイスバスケットボール連盟 ( Swiss Basketball )」との間を行ったり来たりしているだけで、全く話し合いが進んでいない状態だった。ヴィッシャー氏はこれを「厄介な状況」と説明している。

 問題の発生は、プロバスケットに対してヴィッシャー氏が起こした裁判の訴えが取り下げられた昨年9月に遡 ( さかのぼ ) る。彼は、裁判の判決に不服申し立てをし、判決の取り消しを求めたが、その訴えも取り下げられた。ルツェルンで裁判が行われた後は、この件の判断はスイスバスケットボール連盟に委ねられたが、今度は連盟がこれは地域のクラブ内で解決するべき問題だと主張し、再びプロバスケットで議論されることになった。

 「また振り出しに戻ったわけです」
 とヴィッシャー氏は語る。次にすべきことは、プロバスケットの抗議委員会を通してもう一度控訴することだ。もし敗訴すれば、連邦最高 裁判所に上訴するという。

 「バスケットボール連盟に対して全ての法的手段を試みてからでないと、連邦最高裁判に訴えることはできません。わたしは議論を連邦最高裁判に持ち込みたいのです。そうしなければ、バスケットボール連盟が簡単にヒジャブを了承するとは思えないからです」

責任を負うのは

 プロバスケットは、最終的に10月12日にスイスバスケットボール連盟会長のステファン・シープラー氏に宛てて手紙を送った。内容は、「スーラ・アルシャヴク選手に対する協力と援助について」に始まり、プロバスケットはヒジャブ問題で18カ月も議論が続けられたまま一向に解決の兆しがないことに対して不満を訴えた。

 プロバスケットは、全国レベルのリーグと地域レベルのリーグが協力して、両リーグに属するチームが国際バスケットボール連盟の規則に従うよう、スイスバスケットボール連盟が責任を負うべきだと訴え続けている。
 「スイスバスケットボール連盟は、問題に直接関わっている地方のクラブに責任を押し付けることはできない」
 とプロバスケットは主張している。

 プロバスケットは相互的な解決策が見つかるまで、スイスバスケットボール連盟が全面的に責任を追うことを要求している。

個人の権利

 「スイスバスケットボール連盟」のディレクター、フランソワ・シュテンプフェル氏はベルン地方日刊新聞「ブント ( Bund )」で、
 「2009年10月よりわたしたちは、弁護士のヴィッシャー氏に ( ヒジャブ着用禁止問題は ) プロバスケットと話し合うべきだと伝えてきました」
 と状況を説明している。また、この件に関しては民事裁判となり訴えが退けられていることにも触れている。

 スイスの「ナショナルリーグ」は、ヒジャブ問題は地域レベルのリーグの選手にかかわる問題なので、意見を言う立場ではないと語る。

 「国際バスケットボール連盟」は、ヒジャブ着用禁止に対して異議申し立てをすることで、これまで表に出てこなかったほかの要望に対する感情が高まり、不満が生じる可能性があると主張しているが、ヴィッシャー氏は断固たる態度を崩さない。

 「わたしは、ヒジャブを着用して競技をするのはアルシャヴクさん個人の権利だと言っているのです。この問題で彼女は疲労困憊しています。彼女は試合に出場したいのにできないままで、意気消沈しています。ですが、彼女は望みを捨てていません」

スイスに住むイスラム教徒は全人口の4.5%を占める。

イスラム教徒の移民の多くは、旧ユーゴスラビアやトルコ出身。イスラム教徒の国籍は100カ国に上る。

イスラム教徒の数は1990年から2000年の間に倍増し、主に移民や難民の流入、旧ユーゴスラビアの戦争による難民受け入れによって数が膨れ上がった。

スイスには約200のモスクや一般の家を改築した礼拝堂があるが、ミナレット ( イスラム教寺院の塔 ) を設けているのは4カ所のみ。

昨年11月29日に、新しいミナレットの建設禁止を求める国民投票が行われ、57%の賛成多数で可決された。

ミナレット建設禁止のイニシアチブがきっかけとなり、イスラム寺院の尖塔ミナレット建設要請に対して、地域レベルで激しい議論や法的議論が巻き起こった。

ミナレット建設禁止のキャンペーンは、右派政権党や超保守派グループによって行われたが、政府や大部分の政党や教会は、このキャンペーンに対して強く抗議した。

近年、ヨーロッパにおけるモスクとミナレットの建設プロジェクトは反対運動を引き起こし、時には激しい暴動になっている。反対運動が起こっている国はスウェーデン、フランス、イタリア、オーストリア、ギリシャ、ドイツ、スロべニアなど。

( 英語からの翻訳、白崎泰子 )

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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