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地域にとけこむなら必読!!愛すべきローカル新聞「ビボ」@バーゼル郊外

ビボは青いタイトルとレイアウト。「広告お断り」のポストにも、ビボは必ず配達される swissinfo.ch

毎週木曜日ポストに届く「ビボ」。お役所の広報誌なのにタウン誌さながら、いや、それ以上の読みごたえの新聞だ。スイスに来てビボと出逢い、写真につられ、手に取った。それが今では、毎週必ず目を通す。しっかり読めば読むほど、この地での生活が充実したものになっていく実感がある!

 「ビボ(BiBo)」とは、Birsigtal-Bote(ビルジック谷のお知らせ)の略。ビルジックはバーゼルの南を流れる、全長20キロほどの小川だ。そのビルジックの川沿いは、ビルジックの谷と呼ばれるバーゼルのベッドタウン。ここにある四つの自治体が、ビボでそれぞれ3ページずつ広報を展開している。つまり、この辺一帯の地域情報をビボが一手に引き受けているというわけ(ちなみに紙面では、この地域のことを「ビボランド」と呼ぶ!)。

お役所の、出生・死亡告知。出生は、新生児の誕生日、名前、そして両親の名前まで記載されている! swissinfo.ch

 お役所の広報の次は、「フェアアインからのお知らせ」。このフェアアインとは、同じ趣味や目的で集まった者たちで作る、非営利のサークルのことである。ヨーデルクラブ、老人ウォーキングクラブ、失業者の集い、イタリア人のサッカークラブ等が、会員募集やイベントのお知らせを載せている。

 この辺一帯をまとめてビボが引き受けているのも、自治体の壁を越えてこうしたフェアアインやイベントでの交流がさかんだからだと思う。4つの自治体はいずれも2~3㎞四方の小さい町で、20分も歩けば隣に着いてしまう距離。何ゆえに4つに分かれているのか不思議なほどだ。

公立図書館で行われる、サッカー選手のカード交換会のお知らせ swissinfo.ch

 さらに地元出身者のインタビュー記事も。それは知り合いだったり、はたまたテレビの有名人だったりする。その人の活躍ぶりや日常生活に加え、地元への思い入れが語られているところがミソだ。「ここは私を生み、育ててくれた土地です。毎朝ブルーダーホルツの丘をのぼって、花咲くイチゴ畑の横を歩きました。生きるエネルギーを補給し、いろんな思いを胸に秘めていた頃を思い出します。自然、ゆとり、人情……これほど豊かに生活できるのに、自転車を10分こげばバーゼルに着いてしまうんですよね」

……読後にいつも、何やら心洗われる気がするのは私だけだろうか。異国で生活していると、どうしても日本とあれこれ比較してしまうものだが、今住んでいる町を素直に評価し、受け入れても決して損はない。

 そして「読者からのおたより」欄には、老舗が閉店に追いやられたことへの嘆き、原発批判(ここから50キロ足らずのフランスに古い原発がある)、騒音対策を問う声などがある。

 実は今月初め、ここビボランドの「テルヴィル」という町が全国ニュースで取り上げられた。ある中学校で、シリア人生徒の兄弟2人が宗教上の理由で女の先生には握手をしないと言い出し、学校側もそれを認めたのだ(スイスの学校では先生と握手をして挨拶する。前回の記事参照外部リンク)。  

 スイス全国、さらに国外にまでテルヴィルの名が知れ渡った。そんな騒動をしり目にビボは、相変わらず地域のお知らせやイベント情報をいつもの調子で届けていた。

 ……けれど読者のおたより欄で、それは話題にのぼっていたのだ。問題の家族が今年に入ってスイス国籍を申請したのだそうで、「スイスのルールに従わないくせにスイス人になろうなんて言語道断」とか、「どうして市議会ははっきり態度表明をしないのだ」、「イスラム教徒たちに迫害、征服されたキリスト教の歴史をくり返すのか」といった、やや過激な意見も。ビボは、住民の本音を知る場でもあるのだ。

 方言を理解しない我々外国人は、地元の話題も表面的な理解になりがち。標準ドイツ語で書かれたビボは、貴重な情報源なのである。

 しかし何より、ビボの最もすばらしい点は、イベント情報が満載であることだ!もともとお祭り好きで、盆踊りの輪に入り喜々として踊っていた私。この地で暮らすにつれ、穏やかなベッドタウンにかくも多くのイベントが開催されていると知って驚いた。図書館やスーパーの掲示板も見ていたが、やはり情報源としてはビボが最も役立つと気づいたのだ。

 バーゼルはスイス最大規模のファスナハト外部リンク(カーニバル)で有名だが、実はバーゼル郊外でも町ごとにファスナハト委員会があって、それぞれパレードが行われる。このファスナハトが1年を通じて最大のお祭りであることは疑いないが、他にも建国記念祭や特産市場、マラソン大会、ウォーキング大会、シュヴィンゲン(スイスの相撲)大会、女性のための朝食会、おもちゃ図書館主催のゲーム大会、老人ホームにてブラジルナイト、W杯のパブリックビューイング…等など実に多彩な催し物があるのだ。

 参加したところ浮いてしまい、「お呼びでない?」と思ったのは、オクトーバーフェストだけ(コテコテのスイス人社会、しかも男性ばかりだった!)。たいていは誰でも自由に、無料で参加できる。

 子供服のフリマや不用品交換会スポーツ祭り外部リンクなど大衆向けの催しは、ことあるごとに周囲に宣伝してしまう。よく知っているねと感心されるたび、「ビボで読んだの」と自慢するのだ。

子ども服のフリマは多けれど、これはレディースのフリマ。コートからTシャツ、靴、バッグまで、ところ狭しと並んでいて、大盛況だった swissinfo.ch

 こうして写真を眺めるだけだった私も、いつしか必要な情報を拾えるようになっていた。最近では、さらに教会のお知らせやスポーツニュース、州のお知らせ、コラムなども時間が許せば読んでいる。

 たとえば先月は、「田舎の市場とファスナハト」というコラムが載っていた。我が町オーバーヴィルは近年予算不足で、年2回開かれる特産市の一時中止が決まっていた。が、協会はメンバーを一新、予算を組み直し、場所も移して、この4月新たなスタートを切ることになった。

 また、オーバーヴィルのファスナハト。ビボランド最大の規模であるにもかかわらず、近年は委員会幹部の高齢化が進み、後継者が見つからず、存続の危機に瀕していた。ビボ紙面でも、ご興味ある方はぜひ応募して、と何度か呼びかけていた。それが先日、空いていたポストがすべて埋まり、近々ビボ紙上で発表するという。

 「我々は大変ほこらしい。ファスナハトは新メンバーが後を継ぎ、特産市も新メンバーによって再び息を吹き返した。これこそすばらしい春の訪れである!」という調子でコラムは終わっている。

 この記事には、キュング氏の署名がある。実はキュングさんは、ビボ独自の記事のほとんどすべてを取材、撮影、執筆している。このキュングさんに会ってみたくて、ビボ編集室にお邪魔した!

手前の金髪の女性はつい先月入社した。ビボで紹介されていたから、私は知っていましたよ swissinfo.ch

 キュングさんは想像通り、よくしゃべる明るいおじさまで、お腹がちょっぴり出ている。私が質問しても、あらぬ方向に向かって必ず一言冗談を言ってから(方言で何か言わないと気が済まない?理解できなくてごめんなさい)私のほうに向き直り、標準語で真剣に答える。

 キュングさんはやはり、イベントの写真撮影のため、週末も返上で働いているという。が、そんなハードワークもけっこう楽しんでいるように見える。元スポーツ記者で、ビボ編集者になったのは15年前。キュングさん曰く、「スポーツ、芸術、歴史、グルメ、娯楽、何でもありだから、ビボのほうが楽しい」そうだ。

写真を撮られるのに慣れていないのか、ずっとよそ見をしているのがおかしかった swissinfo.ch

 イベントのスケジュールはすべて頭に入っているようで、「オーバーヴィルね、この週末は、土曜が小学校の落成記念祭、日曜は特産市だね。忘れないでよ!」と言っていた。

 土曜日の学校祭ではキュングさんに会えなかったが、特産市では会うことができた。

撮影をするキュンクさん。こんなに大柄で目立つ人が、あちこちのイベントに出没しているのに、今までお会いしたことがなかったとは! swissinfo.ch

 これを機に、ますます「住めば都」の思いを強くした私である。ビボがなかったら、これほどの愛着は湧かなかったかもしれない。

 これからも私は、ビボの熱心な読者であり続けるだろう!

平川 郁世

神奈川県出身。イタリアのペルージャ外国人大学にて、語学と文化を学ぶ。結婚後はスコットランド滞在を経て、2006年末スイスに移住。バーゼル郊外でウォーキングに励み、風光明媚な風景を愛でつつ、この地に住む幸運を噛みしめている。一人娘に翻弄されながらも、日本語で文章を書くことはやめられず、フリーライターとして記事を執筆。2012年、ブログの一部を文芸社より「春香だより―父イタリア人、母日本人、イギリスで生まれ、スイスに育つ娘の【親バカ】育児記録」として出版。

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