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マッターホルンのコロナ禍メッセージ 「光害」批判も

heart projected on snowy mountain
2020年3月26日、マッターホルンに大きな♡マークが映し出された Valentin Flauraud/Keystone

スイス南部ツェルマットのマッターホルンに毎日映し出されるメッセージは、コロナ禍の希望の光として、世界中の人々を勇気づけた。一方で、光害との批判が自然保護団体から挙がっている。

スイスの照明デザイナー、ゲリー・ホフシュテッター外部リンクさんは先月24日から毎日、マッターホルン山頂にイメージを映し出すプロジェクト「マッターホルン・ライトプロジェクション」を行っている。国旗やハッシュタグ、アイコンや短いメッセージなど、モチーフはさまざまだ。

「ツェルマットの自治体から、コロナ禍中の数週間、ここでキャンプ生活をしないかという誘いがありました。イルミネーションは、6人のチームが世界に向けて発する希望のサインです」。ホフシュテッターさんはswissinfo.chに対し、プロジェクションが始まったきっかけをそう話す。

ホフシュテッターさんは今も標高3千メートルの場所でキャンプ生活を送っている。

このプロジェクトに報酬はない。ツェルマットの自治体と結んだ「革新的な契約」では、ホフシュテッターさんの食費や電気代、交通費など実費のみ、自治体側が負担する。

投影するイメージは毎日、ツェルマット村長とツェルマット観光局のCEOと相談して決める。ホフシュテッターさんのチームによると、この夜間だけ行われるライトプロジェクションは、既存のオンラインメディアやSNSなどを通じて、既に22億人以上が見た。政府による外出自粛要請を理由に、プロジェクションを見るためにツェルマットに訪れることは控えてと呼び掛けている。

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一方で、このプロジェクトに対し光害を考える意見も自然保護団体から挙がっている。

 「これは世界遺産で保護された自然の景観。人工的な光によって景観が損なわれるべきではない」。光害を考える会「ダークスカイ・スイス外部リンク」会長のルーカス・シュラーさんはそう話す。

シュラーさんはswissinfo.chに対し、このような光はアルプスのライチョウやアイベックスに迷惑を与えると話す。例え動物が逃げていく姿が見えなくても、だ。

マッターホルンのライブストリーミングは毎夜、数時間単位で行わる。またプロジェクションは 月の明るさやタイムゾーンを基準にして行われている。例えば16日の米国旗はスイス時間の夜中に、19日の中国国旗は午前2時に映し出された。午後10時以降の不必要な屋外照明は控えなければならないスイスでは異例のことだ。

またルツェルンの給水塔のような都会のモニュメントとは異なり、マッターホルンのプロジェクションは山のかたちに合わせて調整されていない。そのためプロジェクションの光は山の向こう側にも影響を与えてしまう。

「パンデミックに光害?我々の目にはこれは何よりも不適切なマーケティング活動に見える」。自然保護団体「マウンテンヴィルダネス・スイス」はフェイスブック外部リンクページにそうコメントを残した。

このような批判について、ホフシュテッターさんはこう話す。「私は動物が居ない限られた時間にプロジェクションを行っている。それに世界中で試合やトレーニングをしているサッカースタジアムを足し合わせたら、光量はこれの比較にならないのではないか」 

「異常な状況」

スイス政府観光局はこのプロジェクションを問題視していないという。「『通常』であったら、地元当局から許可は下りなかっただろう」。swissinfo.chの取材に対し、観光局広報担当のアンドレ・アシュワンデンさんはそう説明する。「ただ関係者らは今の異常な状況を考慮して、希望と連帯のメッセージの重要性を感じ、許可を出した」

 政府観光局のスローガン「Dream now – travel later」も8日に投影された。

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「#StayHomeにマッチしていて、素晴らしい。世界中のどこからでも、誰もがツェルマットのウェブカメラ外部リンクにアクセスし、プロジェクションを見ることができる。これほどの燃料節約プロジェクトはない。今はスイスに見に行くことができないのだから」。ホフシュテッターさんは自身のプロジェクトをそう評する。

将来的にビジターを増やすきっかけにはなったのではないか?この問いに、ホフシュテッターさんはこう答える。

「もちろんだ。コロナ危機が終息したら、マッターホルンを見に行くことはできる。その時に必要になってくるのは、ツェルマットを訪問する時間とお金。それは別問題だが」

ツェルマットのロミ・ビーナー・ハウザー村長はこの光のプロジェクトの背景に商業的および政治的な意図は何もないと話す。「我々の連帯を表現するためのもの。ツェルマットに近く、被害の大きいイタリアの国旗からプロジェクションを始めたのは偶然ではない」

前出のシュラーさん(ダークスカイ・スイス)は今後、マッターホルンのプロジェクションを真似した光のショーが頻出するのではないかと懸念する。 

「象徴とメッセージのポイントは分かる」と言い、シュラーさんはこう続ける。「一晩なら例外とすることもできたでしょう。でも、これはもう何週間も続いている」

ホフシュテッターさん率いるプロジェクションチームは、スイスがロックダウンの段階的緩和に入る27日に同プロジェクトを終了する予定だ。

(英語からの翻訳・大野瑠衣子)

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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