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スイスはどこまで麻薬を合法化するのか?

ヘロイン計画10年後の決算

重症麻薬患者を対象としたもので、むやみやたらの配給ではない。(イメージ画像) Keystone

1994年1月、麻薬患者の中でも重症者には、医師の管理の元でヘロインを配給するプロジェクトが始まった。当時、国連をはじめ内外から激しく非難されたプロジェクトだが、10年経った本年、その成果がまとめられた。

公共機関がヘロインを購入し、麻薬患者に無料で配分するのは違法行為だという反対意見も出たが、いまではスイスについで、オランダ、ドイツ、スペインなどが導入している。                           

スイス最大の都市、チューリヒには全国から麻薬を求める人たちが集まってくる。麻薬問題への取り組みでは経験豊富な同市は10年前から、禁断治療に何度も失敗したような重症患者を対象に医師の監視の元でのヘロインの配給を行っている。チューリヒのプロジェクトを見習い現在は、スイスの12の州を始めとして、オランダ、ドイツ、スペイン、英国などでもでヘロインの配給による治療が行われている。各州、各国の担当者がこのほどチューリヒに集まり、患者の健康状態のほか、政治面からの見解、患者とその犯罪の関係など、状況報告や情報交換が行われた。

麻薬のメッカの変貌

10年前のチューリヒ。ヨーロッパでも有数の麻薬のメッカとして全国から多くの人が集まった。麻薬患者とディーラーが所狭しと集まる「プラトシュピッツ」は「ニードルパーク」(注射針の公園)の異名を馳せ、日本のマスコミも取り上げるなど世界的に有名になった。泥棒、売春、伝染病、麻薬の過剰摂取による死は日常茶飯事。ベルンやバーゼルでも規模が小さいだけで、同じ問題を抱えていた。

3都市は1994年1月、重症の麻薬患者250人を対象にヘロインの配給を始めたのである。いままでに2千5百人以上が配給治療を受けた。患者1人あたり59フラン(4千7百円)相当のヘロインが無料で毎日配給される。いま、12の州で同様の治療法が進められている。

配給の対象となるのは、8年以上の常習者で昔ながらの禁断治療を何度も受けては失敗した人に限っている。平均年齢は33歳で平均の常習年数は14年。「重症患者で、社会的にも健康面でも安定するのが非常に困難な人たち」とベルンでプロジェクトに携わるバルバラ・ミューレンハイム氏は、厳しい制限の元での配給であることを強調した。

健康面でも社会的にも改善

「医師の監視の元での配給は、健康面でも社会面でも患者が安定するのに役立っている」と評価するのはチューリヒ大学のアンブロス・ウフテンハーゲン精神社会科医。ローザンヌ大学の犯罪学者マルティン・キラス教授によると、受給患者が犯罪に関わる率が8割も低下しており、麻薬関連事件の防止にも役立っている。単に麻薬の配給に甘んじるのではなく、患者の3分の1が麻薬を完全に断ち切りたいと、禁断治療を受けることを選んでいるのも、成果の1つに数えられよう。
 

12州で1262人がヘロインを受給している。

配給は医師の監視の元に行われる。

対象となるのは重症患者で何度も禁断治療を失敗した人

平均年齢33歳。

平均常習年数14年

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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