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ポーカーはスキルか運か

友人宅でのポーカーゲームは家主にコミッションが支払われなければ合法 RDB

スイスの賭博人気は高まるばかり。カジノの独占に終止符を打つという連邦政府の決定を受け、スイスの各州はポーカー・トーナメントに関する法律の制定に向けて動き出した。

スイスのポーカープレーヤーやトーナメント事業者が頬を紅潮させてゲームに熱中している傍らで、カジノ業界は苦々しくそれを眺めている。新しい法律を導入しなければ「社会に悪影響を及ぼす」と警鐘を鳴らす声も聞かれる。

解釈の違い

 2007年12月、「連邦賭博場監視委員会 ( ESBK/CFMJ ) 」は規定の中に、ポーカー・トーナメントの中にはスキルが要求され、カジノの外でも行えるものもあるという条項を設けた。つまりポーカー・トーナメントは合法であるという解釈だが、合法化には州の承認を必要とする。運だけが物を言うゲームをカジノの外で行うのは今でも違法だ。

 客を取られてしまうと懸念するカジノ業界はこの決定の無効を訴えたが、6月30日、連邦行政裁判所は賭博場監視委員会の決定を支持し、カジノ業界は敗訴した。「スイス富くじ・賭博全州委員会 ( Comlot ) 」のマヌエル・リヒャルト氏は
「すぐに行動を起こす必要があった。現在の状況を支持することはできない」
 と語る。

 「これらのゲームに運という要素が含まれている限り、問題は残る。それにお金が加われば、ギャンブル中毒、いかさまや詐欺の可能性、マネーロンダリング ( 資金洗浄 ) など、社会に有害な影響を与える恐れもある」
 からだ。リヒャルト氏はまた
「 ( 2007年に下された ) 決定の結果、これらのゲームは今や何の拘束もない場所で行われるようになっている」
 と警告する。

 リヒャルト氏によると、秋ごろには州の代表者から成るワークグループが「社会への悪影響」の抑制を目的とした法案の作成を終える予定だ。その際には、トーナメント事業者にライセンスを与えるなどといった案も検討される。現在、ポーカー・トーナメントを禁止している州は、賭博を全面的に禁止しているバーゼル・ラント準州のみ。スキルを必要とするゲームも、お金が絡めばご法度だ。

幸福感を味わう

 結局、問題はゲームの大部分がスキルに基づくものなのか、それとも運によるものなのかということにあり、連邦政府の発想ではこのようなゲームが成り立つのはスキル、そして州は運だとしているのだ。

 連邦政府の目には、トーナメントで行われているポーカーの中にはスキルが主要となっているタイプのものがあると映っている。それは参加者の数やテーブル・ステークス ( 賭け金 ) の大きさなど、さまざまな条件に左右される。一方、プレーヤーが「チップアップ ( 賭け金を徐々に増やすこと ) 」をしたり、好きな時にゲームをやめたりすることができるキャッシュ・ゲームは主に運がベースとなっていると考えられており、ゆえにカジノの外では非合法となるという理屈だ。

 「わたしたちにとっては、どんな形であれ、ポーカーやトーナメントは運でしかない」 
 と言うのは「スイスカジノ連盟 ( Schweizer Casino Verband ) 」のマルク・フリードリヒ会長だ。そして、そのようなトーナメントではカジノから締め出されているギャンブル中毒の人々にもプレーの場を提供していると批判する。
 
 しかし、同時にフリードリヒ会長は、連邦政府の決定によってプレーヤーがほかの場所に幸運を求めるようになり、「2007年以降、下り坂になっているのは明らか」とカジノ業界が打撃を被っていることも認める。

 一方、トーナメント事業者でありポーカーのプロでもあるリノ・マティス氏は、現実はその逆で、モントルー ( Montreux ) やバーデン ( Baden ) のカジノでは、カジノ内でしかプレーできないキャッシュゲームでひと山当てようとする人が増えていると主張する。
 
 友人同士で行うプライベートゲームは家主にコミッションが支払われなければ合法とみなされるが、当局はコミッション代わりのビールが手から手へと奇妙な具合に渡っていくことに対しては目をつぶっているようだ。

「リベラルなスイス」

 トーナメントに関する法律作成のニュースは、スイスのカジノ外で催されるこれまで最大の規模を誇るポーカー・トーナメントを目前に公表された。この「スイス・ポーカー・マスターズ2009」は8月9日から16日までチューリヒで開催される予定だ。トーナメントを運営するマティス氏はおよそ6000人のエントリーを見込んでいる。これは昨年ベルンで開かれたトーナメントの10倍に当たる数字だ。

 このトーナメントでは「スイス・チャンピオン」というタイトルのみならず、現金2万5000フラン ( 約220万円 ) の賞金とバハマで開かれる「ヨーロッパ・ポーカー・ツアー」のオール・インクルード・パッケージも手に入れられる。このパッケージの価値は1万5000フラン ( 約130万円 ) だ。

 だが、この大会はラスベガスで開催される世界選手権のスケールとは比べ物にならない。7月初旬に1万ドル ( 約95万円 ) を支払って世界選手権のメインイベントにエントリーした人は6500人弱。決勝進出を果たした9人が賞金の2700万ドル ( 約25億円 ) を山分けできるのは、11月7日から11日まで開催される決勝戦のあとだ。優勝した人は何と850万ドル ( 約8億円 ) を手に入れることになる。

 だが、トーナメントの開催密度でいうと、スイスはアメリカの次に高い。例えば「バイイン・ドット・シーエイチ ( Buy-in.ch ) 」などのウェブサイトは一晩におよそ50ものトーナメント広告を出しており、それぞれ20人から100人のプレーヤーの参加を募っている。

 前出のマティス氏は
「スイスは現在、ポーカーに関していうと世界でも有数のリベラルな国だ」
 と言う。
「スイスにはポーカーで生計を立てている人がおよそ50人いる。だが、ほとんどの人は他言しない。ただし、それは恥ずかしいからではなく、収税吏の耳に入ると困るからだ…」
 
トマス・シュテファンス、swissinfo.ch
( 英語からの翻訳、小山千早 )

7月初めに連邦司法警察省 ( EJPD/DFJP ) が発表したところによると、スイス人は2008年、富くじや賭博に28億5000万フラン ( 約2500億円 ) という記録的な金額を費やした。
2007年は前年に比べてわずかな減少が見られたが、昨年は2006年に比べると5000万フラン ( 約44億円 ) の増収となった。 
2008年、富くじや賭博に関する1人当たりの平均出費額は約370フラン ( 約3万2000円 ) で、前年比10フラン ( 約880円 ) の増加。
「ユーロミリオン宝くじ」の売り上げは約10%増加し、4億5400万フラン ( 約400億円 ) に達した。
「スイスロト」は2400万フラン ( 約21億円 ) の減収となったが、総額5億4500万フラン ( 約480億円 ) と依然としてスイス最高の売上高を維持している。
5億3500万フランがスポーツを含む種々の団体に流れ、富くじの記録的な売上高は州にも利益をもたらした。
6月に連邦賭博場監視委員会 ( ESBK/CFMJ ) が発表した調査結果によると、スイスには「過度に」賭博をしている人がおよそ12万6000人いる。

スイスの有権者は、1993年のレファレンダムで賭博の解禁を認めた。

連邦政府は2001年からカジノ運営に対する認可を開始すると約束し、7つのカジノがいわゆる「Aライセンス」を獲得した。これらのカジノでは、賭け金の上限なくゲームを行うことができる。

スイス・カジノ連盟に加入しているカジノは18を数え、総計3223台のスロットマシンと233台の賭博台が置かれている。

最近になって、連邦政府はスロットマシンをレストランに再導入するための法律の改正を提案した。だが、産業の各分野から批判の声が上がった。

スイスでは、カジノへの立ち入りを禁止されているギャンブラーをゲームに参加させたカジノオペレーター ( ライセンスを有するオンラインカジノ運営会社 ) に対して最高50万フラン ( 約4400万円 ) の罰金が科せられる。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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