ヴォー州、高校生に大麻テスト
スイスフランス語圏ヴォー州の上院はこのほど、公立学校の生徒たちを対象とした大麻テストの実施を72票対64票で承認した。
尿と唾液の検査で大麻服用者を見つけ出す試みに、スイス教員協会や複数の専門協会からこの決議に対し批判の声が上がっている。
今回承認されたジャック・アンドレー・アウリ上院議員の発議は、生徒が大麻を服用していないと主張する限り学校は何もできないため、これに対応した措置が必要であるという主旨だ。尿や唾液の検査であれば、はっきりした事実が分かる。
テストで明瞭に
ヴォー州では州議会の決定により、疑いのある生徒に限って検査することが可能になる。現在、大麻を服用する生徒はその罪を問われず、学校医に相談するよう指導することになっているが、アウリ氏は「大麻服用は病気ではなく、法律違反だ」と指摘する。
アウリ氏の提案には社会民主党 ( SP/PS ) 、緑の党 ( Grüne/ Les Verts )、左派連合が反対していた。反対理由は、大麻テストは生徒に対し弾圧的で、教育目的に反するというものだ。また、学校は生徒が大麻服用を避けるために多くのほかの手段を講じることができるはずだと主張した。スイスでも学校規則によれば麻薬、飲酒、喫煙は禁止されており、必要に応じて法的な罰則も適用される。
教師の役割に相反する
大麻テストへの反論は、専門家の中にも起こっている。スイス・アルコール・麻薬問題専門相談所 ( SFA ) や常用薬協会 ( SSAM ) などがヴォー州上院の決定を受け、意見書を発表した。大麻テストは非建設的である。学校が早期にこうした問題を認識し、生徒と話し合うべきだ。大麻テストは、恐怖感と不信感が生まれるだけだと主張する。
「学校では、生徒の教育が主要な目的だ。弾圧的な対策は、教育の主旨を損ねるものだ」
と意見書にある。
スイス教師協会 ( LCH ) も教育者である教師は警察官の役割を担わないという意見で
「教師は信頼を寄せる対象となるものであり、こうしたテストをする役割はない」
とLCHのフランチスカ・ペーターハンス書記長は反論し、大麻服用が発覚すれば、警察に警報したり、学校医に相談することが学校の役目だとの意見だ。
こうしたテストは人権を害するものではないのかという疑問に対し、公共施設である学校で大麻テストを行うことは法的には問題ではないが、大麻テストをするのなら飲酒テストも必要だとペーターハンス氏は言う。
「教師に対するテストはどうかという問題も出てくる。そもそも飲酒のほうが麻薬大麻より深刻な問題なのかもしれない。そうだとすれば、学校か教育委員会がこの問題に取り組まなければならない」
厳しく取り締まることが望まれる
生徒が大麻からより強い麻薬を服用するようになるという見方は今に始まったことではない。2004年にはトマス・フックス国会議員 ( ベルン州、国民党・ SVP/UDC ) がベルン州に対し、繰り返し違反した生徒は退学させるといった、厳格な規律を求める発議を出した。
「幻覚症状をきたしたり、酔っ払った生徒は学校には必要ない」
と言うフックス氏の発議にほかの議員も同調し、学校内での大麻服用現場を押さえ具体的な罰則を与えるための制度を作るよう要求した。
バーゼル・ラントシャフト州でも2007年、生徒に対して大麻テストを実施する方向にあるが、法的な条件がまだ整っていない。
swissinfo、コリン・ブクサー 佐藤夕美 ( さとう ゆうみ ) 訳
スイス・アルコール・麻薬問題専門相談所 ( SFA ) は連邦政府の依頼を受け、生徒の麻薬問題について4年ごとに調査を行っている。
2006年には、これまで増加していた大麻消費量が頭打ちになった。15歳の男子生徒の34% ( 2002年は46% ) 、女子生徒は27% ( 同37% ) が大麻を服用したことがあるという。2006年は1998年のレベルにまで下がった。
連邦鉄道 ( SBB/CFF ) は麻薬を一切認めない方針で、40歳以下の運転手など安全管理に重要な職務に当る職員全員に麻薬テストを行っている。連邦運輸省 ( UVEK/DETC ) は2009年までに、公共交通機関で安全管理に重要な職務に当る従業員全員に麻薬テストを行う方針だ。
2000年に、医薬品大手のロシュ ( Roche ) が、見習い従業員に対し麻薬テストを行ったが、連邦データ保護委員会がテストは極端に走り人権を無視したものだと判断。ロシュ社はテストを中止した。
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