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スイス警察はなぜ「密」を防げないのか

Cop on rollerskates talking to sunbathers
2020年4月17日、ジュネーブで湖畔にたむろす人々に注意する警官 Keystone / Martial Trezzini

スイスでは新型コロナウイルス危機を受けたロックダウン(都市封鎖)が徐々に解除され、人々は昼夜問わず外に出歩き始めた。だがソーシャルディスタンシング(社会的距離)を無視した行動も見られ、どうして警察がもっと厳しく取り締まらないのか不思議に思う声も出ている。

春の陽気と経済再開の朗報にいざなわれ、人々は公園や街、バーやレストランに繰り出している。だが新型コロナウイルスが消えたわけではないのに、時には人が多すぎて「集まりは最大5人まで」「2メートル間隔を空ける」といったルールが無視されている場面も見かけるようになった。

例えば北部の街・バーゼルの目抜き通りでは、飲食店が再開した最初の土曜の16日、大勢の客がバーにひしめく様子が報じられた。この時出動しなかった警察に対し、一般市民はもとより、以下の動画を投稿したバー側からも批判が挙がった。

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コロナ流行の第2波を防ぎたいスイス当局にとっては、バーゼルで発生した大群衆は言語道断。だがスイス州司法・警察局長会議のウルス・ホフマン議長は想定内の出来事だったと話す。

同氏はドイツ語圏のスイス公共放送(SRF)外部リンクで「飲食店の再開や封じ込め策の緩和で、全体的に前より管理しにくくなった」と話した。「公共の場での5人ルールや2メートルルールを徹底させるのは警察にとって難題だ」として、人々に規律を守るよう呼びかけた。

バーゼル・シュタット準州保安担当参事のバシ・デュル外部リンク氏も、人々に外出の際に注意を払うよう求める。

「警察は権限の範囲内で取り締まり活動を強化する。警察はいつもどこにでもいるわけにはいかない」とデュル氏はSRFで語った。必要があれば「人が多すぎて2メートルルールを保てない」市内のホットスポットを一時閉鎖するなど強硬手段も取りうるとした。

チューリヒでは罰金も

同じ週末、チューリヒでは同じような光景は報告されなかった。この2カ月、新型コロナウイルスに絡む警察の出動は1650件に上った。罰金が科されたケースは600件あり、その中にはカップルが公園で手をつないでいたから―というものもあった。

チューリヒ市保安担当参事のカリン・リカルト氏はドイツ語圏の日刊紙NZZ外部リンクで、同居中のこのカップルは、警官が公園にいた全員にお互い距離を取るよう指示したが、それに従わなかったため100フランずつの罰金を科されたと話した。

「大半の人は立ち去るか互いの距離を取った」とリカルト氏は語った。「もしかしたら状況ははっきりしなかったのかもしれない。そういう場合もある。だが警官が路上で毎回法律談義を講じるわけにもいかない」。同氏によると、人気の公園などが一時的に閉鎖されるケースもあった。

「街なかの公共スペースは限られているし、外出してもいいとなると狭い空間にたくさんの人が集まることになる」(リカルト氏)

地元警察の存在意義

新型コロナ対策の実行には各州の警察の力が不可欠だ。だが州や自治体ごとの違いを踏まえると、ホフマン氏は全国統一の取り締まり指針を立てるのは意味がないと考える。

「全国の警察に適用できるきっちりとした指針を設けられると考えるのは完全に妄想だ。だが警官どうしが常にコミュニケーションを取っているのは確かだ」(ホフマン氏)

軍隊の民主的統制のためのジュネーブ・センター(DCAF)外部リンク によるスイスの警察制度に関する研究外部リンクでは、地方警察の重要性が強調されている。「州や自治体の警察は、地域社会の安全確保に何が必要かを判断する能力に長けている。警官も警察署長も環境や地域社会を知り理解し、人々と交流できることが重要だ」と指摘した。

デュル氏は16日にバーゼルで感染予防対策が施されなかったのは遺憾だと語った。「これまで成し遂げてきたことが無駄になってしまったのは残念だ。我々は市民の個々の責任感に訴え続ける」

今月末には連休も控える。警察は例年より忙しくなりそうだ。

ソーシャルディスタンシング

スイス政府は人との間に最低2メートルの距離を確保するソーシャルディスタンシング(社会的距離)を今も呼びかけている。公共スペースでは5人を超える集まりは禁止だ。レストランでもテーブルごとの間隔を空け、買い物客はレジに並ぶ際も2メートル空けなければならない。電車やバス、トラム(路面電車)などで2メートルの距離を保つのが難しい場合は、マスクの着用が推奨されている。

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(英語からの翻訳・ムートゥ朋子)

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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