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ローザンヌ国際バレエコンクール コーチの中村恩恵氏にインタビュー

稽古中の中村恩恵(めぐみ)氏。ローザンヌ国際バレエコンクールでは毎年、過去の受賞者に審査員やコーチとして来てもらい、若いダンサーの育成を目指している。 Prix de Lausanne

1月23日から毎年恒例のダンサーの登竜門、ローザンヌ国際バレエコンクールが開催中だ。今年のコンテンポラリーダンスの課題曲の見本を踊り、コーチを務める現代舞踊のダンサーで振付家の中村恩恵(めぐみ)氏にインタビュー。

中村氏はネザーランド・ダンス・シアター(NDT)の世界的振付家イリ・キリアン氏の愛弟子としても有名で、彼の代表作の主要パートを踊り国際的に評価されているダンサー。その彼女に今年のバレエコンクールの経過を聞いた。

 今年の第34回ローザンヌ国際バレエコンクールではビデオ審査に変わり、24カ国から66人(女子50人、男子17人)、15歳から17歳の若いダンサーが挑戦している。日本からは13名がコンクールに参加したが、28日の準決勝に残っているのは埼玉県の福田有美子(15歳)さん、大阪の北村由希乃(16歳)さん、群馬県の森志乃(16歳)さん、広島県の有井舞耀(15歳)さん、群馬県の前原寛子さん(15歳)の5名だ。

swissinfo: 中村さんご自身も17歳の時にこのコンクールでプロ研修賞を入賞されましたが、その時の思い出を聞かせてください。

中村: すごい、昔のことなのですが…日本ではプライベートのバレエスタジオのレッスンしか受けていなくって、国際的な踊りのレベルなどなにも分からず、ここに来て夢見たいな感じで、ただ単に驚いて過ぎてしまったといった感じでした。

swissinfo: 中村さんにとってもこのコンクールがプロの道に進むきっかけになったのですか?

中村: そうですね、やはり小さい学校に行っていただけなので仕事に繋がるコネクションが何もありませんでしたから、このコンクールがきっかけになりました。3歳ぐらいの頃から踊ることが天職ではないかと漠然と思っていたのですが…行き当たりばったりの性格なのであまり、計画性はなかったですね。

swissinfo: クラシックバレエを習われていて、のちコンテンポラリーダンスに移られたきっかけは何でしょう?

中村: パリに留学したジューヌ・バレエ・ド・フランスでコンテンポラリーのレパートリーもあって面白いなあと思っていました。その後、モンテ・カルロ・バレエ団でキリアンの作品に出会って彼の世界に強く惹かれました。コンテンポラリーというジャンルよりも、キリアンの作品に近づきたくてNDTに行きました。

swissinfo: 中村さんは今年のコンテンポラリーの課題曲の振り付けをしているイリ・キリアン氏の愛弟子として知られています。彼の踊りの世界の魅力、特徴は何でしょう?

中村 : 今年のコンテンポラリーの課題曲は6曲あって、全てキリアンの振り付け作品です。テンポの遅いのから早いのまでいろんな傾向の作品があるのですが、生徒は自分に合った好きな作品を選べるようになっています。

キリアンの抽象的な作品を一口で説明するのは難しいのですが、彼の魅力は人間性の中の美的なものだけではなく脆い部分なども含めた美しさ、そういうところに光を当てて引き出し、それでいながら人間を愛しているようなまなざしがあります。

swissinfo: 中村さんは今年の課題曲のキリアン振り付け「ブラックバード」の踊りでニムラ賞も受賞されています。参加者は作品によっては中村さんが踊ったビデオも参考にするということですが、挑戦するダンサーのどのようなところに個人差がでるのでしょう?

中村: 若い人が踊るには大変難しい作品であることは確かです。個人のパーソナリティーというか、自分自身の色や中にある声を基本として踊ることが求められています。教えられたことを噛み砕いて解釈しながら、個人的な美意識を出して行くという二重の課題があります。

予選では基本的な体の使い方やテクニックなどが基準になりますが、本選では計算したとおりの踊りではなく、舞台の上でどれだけリスクをとるか、ギリギリのところで踊ったときに出てくるその人らしさが決め手になるのではないでしょうか。今のところ、2日間やっただけですごく上達するダンサーがいて、大変驚きました。

swissinfo: 今後、ローザンヌバレエに挑戦する若いダンサーへのメッセージやアドバイスはありますか?

中村: そうですね、参加者よりもむしろ先生達にメッセージがあります。今回やってみて、子供の体がコンクールに出られるようになるまで発達していないのに挑戦するのは酷だなあと思いました。人によって筋肉の発達など体の成長は違うから、体が成長していないからコンクールに落されるのは当然で、それでも参加することには疑問に思います。 

swissinfo 聞き手、 屋山明乃

バレエの登竜門、ローザンヌ国際バレエコンクールが1月23日から始まった。決勝戦は29日。

< 中村恩恵氏略歴>

- 1970年、横浜生まれ。幼少の頃からクラシックバレエを学び、1988年にローザンヌ国際バレエコンクールで受賞し、パリのジューヌ・ド・フランスに留学。その後、欧州を中心に活動し1991年からは欧米でモダン・ダンス・カンパニーとして最も定評のあるオランダのネザーランド・ダンス・シアターに在籍。そこで、師匠イリ・キリアン振り付けの作品で主要パートを踊り高い評価を受け、ニムラ舞踏賞を受賞する。2000年以降はフリーで自作の振付家としても活躍し、各賞を受賞している。現在はオランダを拠点に世界各地で活躍中。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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