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ワクチン接種、まだ長く待たされる理由とは

ワクチン
米ファイザー・独ビオンテックが開発した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンを英国で最初に接種し、一躍有名になったマーガレット・キーナンさん。4人の孫を持つおばあちゃんだ Keystone / Jacob King

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン接種が数カ国で始まった。スイスの一部の州では今週始まる。だが世界の需要に見合う量を製造できるようになるまでには、何年もかかりそうだ。

編集部注:この記事は2020年12月17日に英語で配信された記事です(一部編集済み)。スイス政府は19日、医薬品承認機関Swissmedicが米ファイザー・独ビオンテックのコロナワクチン使用を承認したと発表しました。

7日、英国で90歳の女性が米ファイザー・独ビオンテックが開発したCOVID-19ワクチンを(臨床試験以外で)世界で初めて接種した。パンデミックの長いトンネルの向こうに希望の光が見えた瞬間だった。これまで4年以上かかっていたことを、この2社はわずか10カ月で成し遂げたのだ。

スイス政府は19日、医薬品承認機関Swissmedicが米ファイザー・独ビオンテックのコロナワクチン使用を承認したと発表した。ただ、優先されるのは高齢者施設の入居者などで、国民全体にすぐワクチンが行き渡るわけではない。

スイス政府は、2021年夏までに国民の4分の3が接種し終わると予測する。しかし英科学情報・分析会社エアフィニティーはswissinfo.chに対し、スイスで大規模接種が行われ、それによって集団免疫が獲得できるのは2022年春ごろになると話す。

世界の製薬業界団体でつくる国際製薬工業団体連合会(IFPMA)のトーマス・クエニ事務局長は、今月初めの記者会見で「モデルナとファイザー/ビオンテックの臨床試験結果は期待以上だったが、過大視は禁物だ。この先、まだ険しい道のりが続くだろう」と述べた。

そして「大半の国では、制限の多い生活がまだ何カ月も続くだろう」と付け加えた。たとえ今後数カ月の間に認証機関がワクチンを認可したとしても、大量生産し、安全に流通させるには更に長い時間が必要なためだ。

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富裕国はワクチンを確保

各国は既に数十億ドルを投じ、110億回分以上のワクチンを確保している。最終的に予防効果がないと分かり、除外されるワクチン候補が出てくることも見越した上で、だ。

米国がその中でも最も多く、予約注文で8億回分を確保。更に16億回分を追加するオプションも用意した。だが有力なワクチン2候補はいずれも2回の接種が必要で、実際にカバーできる人数はこれより少ない。

この記事で引用したデータや予測は、複数の情報源に基づく。主要な引用元は、2015年に設立されたロンドン拠点の科学情報・分析会社エアフィニティー。同社は単一の情報源に頼らず、主要なデータソースを統合し一度に比較できるデータを提供する。英科学誌ネイチャー、米ニューヨーク・タイムズ、英BBC、米ブルームバーグなどの大手メディアも同社のCOVID-19に関するデータを採用。

ワクチン接種による集団免疫の獲得に関するエアフィニティーの予測は、現在の供給契約、ワクチン生産の想定期間、製造拠点、各国への供給、ワクチンの有効性、承認時期見込みなどの要因を考慮して算出。ただし国民のCOVID-19感染による自然免疫は考慮していない。

この記事では、世界開発センター(CGDEV)が開発した確率ベースの予測ツールも採用。それによると、世界の「優先度の低い」人口の5割に接種できるだけのワクチン生産には2年かかり、世界人口の4分の3がワクチンを接種できるようになるのは2023年半ばになる見通しだ。

スイスは臨床段階が最も進んでいるワクチン候補を開発した3社(米ファイザー、米モデルナ、英アストラゼネカ)と契約を結び、人口800万人をほぼカバーする1580万回以上のワクチンを確保した。これはCOVID-19ワクチンの調達と公平な配分を目指す世界的な枠組み「COVAX(コバックス)」の一環でもある。これによりスイス人口の2割をカバーする量が確保される。また国民1人当たりのワクチン調達量では、スイスは世界のトップ10に入る。

予約注文を行っているのは一部の富裕国のため、78億人超に上る世界人口の実際の需要を反映していない。

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エアフィニティーの最新データによると、メーカーは約140億回分のワクチンを製造するキャパシティーがある。

ワクチン生産の世界最大手、インドのセラム・インスティチュート・オブ・インディアのアダール・プーナワラ最高経営責任者(CEO)は今年9月、英紙フィナンシャル・タイムズ外部リンクに対し、製薬会社で増産体制の構築が遅れているため、世界中の人々が接種できる量のワクチンが出回るのは早くても2024年以降になるとの見通しを示した。同社は、各種ワクチンを毎年約15億回分生産している。

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アストラゼネカ、ファイザー、モデルナの3社は、2021年末までに52億回分のワクチンを生産できると見込む。これは世界人口の約3分の1をカバーできる量だ。中にはアストラゼネカのワクチンのように、予約注文された投与回数が想定供給量を上回るものもある。

ただし、これら企業の生産量の大半は、すでに各国との契約で押さえられているため、世界中に平等に分配されることはない。

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スピードvs規模

データによると、最も生産能力の高いワクチン候補が、必ずしも早期に承認されたり生産が速かったりするとは限らない。

現在、最もリードしているファイザーやモデルナの「メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチン」といったワクチンは、新技術を採用しているため工場や生産ラインの建設や改良が必要になる。認可までの進行段階が最も早いにも関わらず、一般に出回るまで時間がかかると見込まれるのはそのためだ。

前出の印セラム・インスティチュートは、むしろ従来のワクチン類に焦点を当てており、mRNAワクチンの製造は来年以降外部リンクになると発表した。同社はすでにアストラゼネカとノババックスのワクチン候補の製造契約を締結しているため、これらのワクチンの生産量が多くなる見込みだと説明した。同社はまたCOVAXと低・中所得国向けに最大2億回分のCOVID-19ワクチンを製造する契約を結んでおり、1回分の価格を最大3ドル(約310円)に設定している。

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モデルナとビオンテックは大手製薬会社の協力を得てワクチンを生産する。スイスに本拠を置く製薬大手ロンザは、モデルナのワクチン生産に向け、4つの製造ラインを立ち上げた。そのうちの3つはスイス南西部のフィスプに、残りは米国に建設。合計で最大4億回分のワクチン生産が可能だ。

ロンザはワクチン生産過程で最も複雑なパートである有効成分の製造を受け持つが、ワクチンはその後「充填・仕上げ」のためにモデルナが選んだパートナー会社に出荷される。それには米キャタレントとスペインの医薬品会社ROVIが含まれるが、どこで充填・仕上げが行われるかは不明だ。

スイスにあるジョンソン・エンド・ジョンソン傘下のヤンセンは、第1相試験と第3相試験に使われるワクチンを無菌充填し配送する作業にも携わっている。同社広報によると、ワクチンの広範な承認プロセスに必要な今後の臨床試験には、同社のベルン拠点で準備する臨床試験サンプルが使われる。

新しいワクチン生産施設の建設・稼働には5~10年、また何千億円という費用がかかることがある。

公衆衛生の支持派は、企業側にワクチン技術のオープンライセンスを求めてきた。そうすれば低所得国などでもジェネリック(後発薬)としてワクチン生産が可能になり、生産能力の向上と公平なワクチン分配につながる。

また米シンクタンク、世界開発センター(CGD)が指摘するように、第2世代ワクチンは第1世代より効果が高いことが多いため、各国や企業は複数のワクチン候補を確保している。

残る疑問

ワクチン接種の規模とスピードをめぐる対応には、多くの疑問が残る。

問題はあらゆる段階で起こりうる。米ウォール・ストリート・ジャーナル紙は最近、量産に必要な原材料確保が困難だとして、ファイザーがCOVID-19ワクチンの生産目標を引き下げたと報じた。その後の報道によると、問題は既に解決した模様だ。

たとえワクチンの準備ができても、インフラや気候条件が大きく異なる国の医療機関にワクチンを確実に届けるのは容易ではない。mRNAワクチンは、開発が比較的容易でスピード生産が可能だが、超低温管理が必須となるため配送や投与が難しいというデメリットがある。

また、ワクチンが安全性試験に合格したとしても、異なる人口グループで等しい治療効果が生じるかどうかは、今後の動向を見守るしかない。それは、これまでの新型ワクチンの経験が証明している。

(英語からの翻訳・シュミット一恵)

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