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七面鳥はお嫌い?

七面鳥はあまり好まれないのがスイス Keystone

大手スーパーのミグロが、国産七面鳥の精肉の販売を来年6月で中止すると発表した。価格で輸入物と太刀打ちできないというのが理由だ。

七面鳥を飼育する農家にとっては大きなダメージだが、経費が高くつくスイスの農業は自由貿易が世界中で進む中、価格競争を強いられている。

 スイスの酪農業はこれまでも、世界貿易機構 (WTO)や欧州共同体 (EU)との自由貿易協定の締結に迫られ、多角化などによる「リストラ」を進めてきた。ヴォー州やフリブール/フリブルク州などでは1990年代に、ミグロの援助を得て七面鳥の飼育に乗り出した。しかしそれもあと1年。七面鳥による多角化計画は失敗した。

スイスは米国ではない

 米国では七面鳥は人気があるのだろうが、スイス人はそれほど食べない。ミグロの精肉部門の責任者パトリック・ヴィルヘルム氏によると、同社では毎日6万羽の鶏肉が加工されるが、七面鳥は年間せいぜい35万羽に留まるという。「スイスの酪農業は現在過渡期にあり、スーパーにとっても農業の雇用を確保することは一つの使命だ。しかし、七面鳥は売り込み次第で需要も増えると見込んだ分野だが、見込み外れ。利益が上がっている分野でこれをカバーすることはできない」と撤退の理由を語った。

 他のスーパーや小売店は、フランス、ドイツ、ハンガリー産など、すでに輸入物に頼っている。ミグロは今まで頑張ってきたが、飼料価格が2〜3倍に値上がりしたことと、精肉の輸入規制が緩和されたことで、国産七面鳥は輸入物より明らかに高くなった。

大手の利潤追求の犠牲

 精肉の輸入許可はこれまで、家畜の解体処理に携る業者だけに下りていた。輸入許可を特定者に限ることで、高い国内産の価格を安い輸入物でカバーし、農家を間接的に援助してきた。しかし、規制は今後、緩和される。上限が定められる精肉の輸入量は割り当て制で、それが権利として輸入業者間で売買されるようになる。

 急進民主党(FDP/PRD)党員でスイス農業・酪業家協会(SBV/USP)のジョン・ドゥプラツ副理事は、ミグロの撤退決定は、ミグロが契約している肉加工会社2社との関係が理由で「利潤を追求する大手スーパーが、七面鳥飼育農家を殺す」と非難する。ミグロの決定に対しフランス語圏の消費者団体(FRC)も非難する。「厳しい規制の下で飼育された七面鳥を買うか、価格の安い七面鳥か。スイスの消費者の選択を守りたい」とミグロが開催する予定の政治家を交えた会合にも参加するという。

 国産を保障するラベルを貼ることでスイス製をアピールすることも検討されているが「消費者が決めることだが、国産の七面鳥は特別商品になるだろう」とミグロのヴィルヘルム氏は言う。「スイスの精肉はおいしいので需要はあるはず。ただ、スーパーにとっては、商品の持続性が問題」という。

もっと安く

 EUと比較してスイスの農産物の価格が高く、そもそもスイスは不利になっている。今回の七面鳥問題で、再び価格問題が明らかになったとドゥプラツ副理事は見る。高い物価、仲介人のマージン、高い給料などのほかに、消費者の商品に対する要求が高いためだ。「小麦粉は過去10年間で半額になったが、まだまだEU産には追いつかない。農家は一生懸命努力をしているが、それでも不十分というのでは、心が痛い。経済のグローバル化に伴い、農産物の価格にもますます圧力が掛かるだろう」という。

 スイスの農業の存続のために、緊急な対策が講じられる必要がある。EUとの農作物の完全自由貿易協定も検討されている中、ドゥプラツ副理事は「自由化までの移行期間の設定や政府の援助の内容などに、農家の存続が左右されるだろう。しかし、ヴォー州のワイン、チーズ、有機農作物など質が問われる農業製品なら高いスイス製でも他国の製品と渡り合って行ける」という。

swissinfo、ピエール・フランソワ・ベッソン 佐藤夕美(さとう ゆうみ)意訳

- 経済開発協力機構(OCED)の加盟国の中でスイスの酪農業に対する援助はもっと
も寛大だ。総収入の68%が国の助成金。援助額は年々減少の傾向にあり、輸出製品に対しての援助に切り替わってきている。

- スイス政府はWTO加盟国として自由貿易交渉を行い、EUとは農産物の自由化に向けて準備中。

1990年には農家が8万戸あったが、2005年には6万5000戸に減少。1日2.7戸の割合で減少し続けている。
スイスの農業は国内総生産の1.3%を占め、雇用の4%を占める。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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