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人道援助の伝統を取り戻そう

1962年。アッペンツェル地方で縫い物を習うチベットの子どもたち RDB

「人道主義の国スイス」。スイスが世界中からこのような評価を受けている一因に、1950年から1995年まで紛争地域の難民をグループとしてまとめて受け入れてきたことも挙げられる。国連難民高等弁務官事務所は今、この伝統への回帰をスイスに求めている。

スイスは1956年にハンガリーから、1963年にはチベットから、1968年には当時のチェコスロバキアから、そしてその後もチリやインドシナからの難民を受け入れてきた。彼らは難民申請を個別に検証されることもなく、一様にスイスの保護を受けることができた。

新たな移住

 1995年、スイスはこうした国連による「割り当て難民」の受け入れというこれまでの伝統に終止符を打った。連邦当局は当時、その理由として費用の増加とバルカン半島からの難民申請が大幅に増加したことを挙げた。

 国連難民高等弁務官事務所 ( UNHCR ) 、スイス難民保護委員会 ( SFH/OSAR ) 、連邦移民問題委員会 ( EKM/CFM ) 、およびキリスト教関連の組織は現在、この伝統に再び立ち戻るよう連邦政府に要求している。

 UNHCRのハンス・ルンスホフ氏はその理由を
「われわれの言うこの『新たな移住』は、紛争の最前線の間で身動きが取れなくなってしまった人々などを保護するための大切な一手段だ」
 と説明する。
「シリアやヨルダンのイラク難民、スーダンのエリトリア難民、タイのミャンマー難民など、何百万人もいる難民の中には、もう何年間も何の展望もなくキャンプの中で困窮の日々を送っている人もいる」

国内で論争

 「1990年代の終わりには年間最高4万6000件の申請があったが、それ以降、申請数は大幅に減少した。現在は再び割り当てられた難民を受け入れる余裕がある」
 と話すのは、スイス難民保護委員会の広報官ヤン・ゴライ氏だ。

 公式には、割り当て難民受け入れの再開を阻止するものは何もない。2006年に改正された難民・外国人法にもこれについて明記されている。決定機関は連邦内閣だ。しかし、この割り当て難民の受け入れは各政党の間で論議の的となっている。

 ミシェリン・カルミ・レ外相は、これまでに何度か再開に対する賛意を表明している。外務省で担当部門を率いるトマス・グレミンガー氏は
「難民が最初に保護を求める国はたいてい貧しい。外務省にとって割り当て難民受け入れの再開は、そのような国々との連帯感、そしてまたUNHCRの期待に応えようとする欧米諸国との連帯感の表れだ」
 と言う。

理想的なタイミングはない

 一方、連邦司法警察省移民局 ( BFM/ODM ) は、この数カ月間難民申請数が増加しており、各州では難民収容施設が不足していることを指摘する。
「受け入れの意思が足りず、資金も足りない」
 と、ベルンで開かれたある会合で嘆息を漏らしたのはウルス・ベチャルト副局長だ。

 しかし、UNHCRのルンスホフ氏は、難民申請数が増加し、資金が不足しているにもかかわらず、スウェーデンやノルウェーなどは何年間も割り当て難民を受け入れていると主張する。
「これらの国民の理解は深い。申請を行う人々の困窮は誰しもが認めるものだからだ」

 2008年の難民申請数は1万6000件。この数字は数年前に比べるとかなり小さいとゴライ氏は言う。
「割り当てられている受け入れ人数は200人あるいは300人とわずかなもの。今は確かに難しい状況だが、基本的に割り当て難民の受け入れを再導入する理想的なタイミングなどない」

 移民局のロマン・カンティエニ広報官は
「現在、ワーキンググループを作ろうとしているところだ。夏までにはエヴェリン・ヴィトマー・シュルンプフ司法相に報告書を提出する予定だ」
 と言う。

 カンティエニ氏はまた、スイスは1995年以降、不定期に少人数の割り当て難民を受け入れてきたことも指摘する。最後に受け入れたのは2008年11月。当時は24人のイラク人がスイスの保護を得ることになった。

swissinfo、アンドレアス・カイザー 小山千早 ( こやま ちはや ) 訳

2008年にスイスに提出された難民申請は1万6606件で、前年より53.1%増加した。

最も多かったのはエリトリアで、これにソマリア、イラクが続いた。

連邦司法警察省移民局 ( BFM/ODM ) の発表によると、この増加の主な原因は、ヨーロッパを目指す移民の移動ルートが変わったことにある。

2008年に難民審査中だった人の数は合計4万794人で、前年比0.7%の減少。

第一審を終えた申請者は1万1062人で、前年比9.9%の増加。

最終的に難民として認められた人は2261人。承認率は23%だった。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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