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住む人がこっそり明かす観光スポット その3 チューリヒ

Zurich tourism/Manuel Bauer

スイス最大の都市を訪問する計画がおありですか?もうすぐ観光シーズン。スイスインフォが実際に住んでいる人々にチューリヒのお勧めスポットを聞きだした。

取材を受けてくれたのは『親子のチューリヒ・ガイドブック』の編集者とこの街に住んでいた小説家ジェームズ・ジョイスに心酔している音楽家だ。

 ガイド・ブック編集者のアンドレア・バーダー・ルシュさんが取材場所として指定してきたのは、チューリヒの中心地にあるベジタリアン・レストラン、「ティビッツ」だ。セルフ・サービスのこのレストランを見て記者が「アメリカのファースト・フードのチェーン店のスイス版ですね」と評すると、彼女は目をむいて驚きの表情を見せた。

チューリヒの人気店

 いや、突飛なことを言ったつもりはない。ただ単にアメリカ生まれの彼女が、伝統的なスイス料理ではなくセルフ・サービスの店を選んだことについて、その方がもっとリラックスできるからだろうか、という考えがよぎったのだ。

 「アメリカのファースト・フードは関係ありません。ここはカジュアルな雰囲気で面白い人々が集まるので、よく孫娘を連れて来るお気に入りの場所なのです。子供が遊べるコーナーもありますし」

 それではこの店について、音楽家であるタッド・ラウアーさんはどのような感想を持つのだろうか。彼が心酔するジョイスの代表作、『ユリシーズ』にはこのような新時代のレストランは出て来ないだろう。

都市であり村であり

 チューリヒには「ジェームズ・ジョイス・パブ」もあるし、伝説的な「クローネンハーレ(Kronenhalle)」もある。これはジョイスを含む20世紀を代表する知識人たちが、良く入り浸った伝統的なスイス料理の店だ。

 しかし、ジョイスの著書を読みあうために毎週仲間で集まるほど、ジョイスを愛しているこの音楽家にとって、大改装した後のこのレストランは興味の対象から外れたようだ。「大体、値段が高すぎますよ」

 と、いうわけで我々は「ティビッツ」でコーヒーを頼んだ。本題に入ろう。なぜチューリヒが、世界の都市の中でも「最も住んでみたい都市の一つ」にあがるのだろうか。これほど多くの観光客を引きつける魅力はどんな所にあるのだろうか。世代を越えて、この街が愛される理由は何だろうか。

 アンドレアさんは「ここは非常に魅力的な都市なのですが、同時に『村』の要素も失っていないのですよ」と話し始めた。彼女は引越しを専門とする会社のコンサルタントであり、新しくチューリヒに着いた家族に対して情報を提供するコースも持っている。「私にとってチューリヒは村です。それがこの場所の魅力の一つなのです。大きな都市なのですが、同時にちゃんと村なのです。意味がわかりますか?」

種明かし

 「チューリヒは本当に村の要素を含んでいますね」と長い間考えていたタッドさんも言う。「森に囲まれていますし、公園など静かでゆったりできる場所があちこちにあります」

 日中に街に出るなら、タッドさんのお勧めはトラムの9番に乗ってチューリヒ大学を通り過ぎ、ジョイスが住んでいた家を訪ねてみることだ。「その近所にはチューリヒのアートギャラリーであるクンストハウス(Kunsthaus)や劇場があります。もっと行くとにぎやかなベルビュー広場(Bellevueplats)に出ますが、そこで突然美しい湖が左に、リマト川の流れが右に広がります」

 そこからボヘミアンの空気漂うニーデルドルフ地区(Niederdorf)をぶらぶら歩く。ここはタッドさんの言葉を借りればチューリヒの駅前通り(Bahnhofstrasse)から目と鼻の先だ。この駅前通りには有名なブランド店が何キロメートルも並ぶ。スイスの金融の中心地にもまっすぐつながっている。

 ここをぶらぶらしてもまだ時間に余裕があれば、タッドさんは通りの突き当たりから湖の遊覧船に乗ることを勧める。「これら沢山のことを、汗一つかかずにできるのです。これで『都市であり同時に村である』の意味が分かっていただけるでしょうか。あまり大きくなく、歩いて国際都市を周遊できるのです」

 アールガウ州交響楽団でバイオリンを奏でる音楽家でもあるタッドさんによると、20世紀初頭にジョイスが見た風景を、今日のチューリヒでまだ見ることができるという。

スイスのダウンタウン

 「視覚的にも建築的にも、『ダウンタウン』の趣は、この街がずっと昔から失くしていないものです。それはすばらしいことです」とタッドさんは語る。チューリヒの標語は「スイスのダウンタウン」なのだ。

 「ここでは、親子で楽しめる事も沢山あります」とアンドレアさんは続ける。夏に最も人気があるのは、何と言っても湖での水遊びだ。雨が降れば数多くの美術館や動物園に行くという手もある。

 「チューリヒは、中世からの美しい街の小道が網の目のようになっています。ここで迷子になってみるのも楽しい経験です」とアンドレアさんは勧める。「そうすれば、この街が隠し持っている新しい顔を沢山発見することができますよ」

 「また、私のお気に入りの散歩コースの一つは、湖畔のどこからでもいいですから、上に登っていったり、また降りてきたりすることです。街と湖を見渡せるこの風景は申し分のない素晴らしさです。私はここに住んで26年にもなりますが、今だにこの風景に圧倒されます」

 ちょっと趣向を変えて、2人に最近のスイスの法改正について聞いてみた。連邦政府は、日曜日でも国の主要駅や空港では店を開くことを許可したのだ。タッドさんは改正に賛成だ。「良いアイデアだと思います。それに電車内やレストランの禁煙も広がっています。良い傾向だと思いますね」

 反対にアンドレアさんは眉をひそめた。「私は1週間に1度は、店は閉めるべきだと思います。スイスがアメリカのようになってしまったら大変です」

swissinfo、 デイル・ベヒテル 遊佐弘美(ゆさひろみ)意訳

取材場所となったのはチューリヒのセルフ・サービスの店、「ティビッツ」。

バーゼルは薬品、チューリヒは金融、ジュネーブは国際外交都市として有名。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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