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体操の輝く星 アリエラ・ケスリン

Keystone

今年4月に行われた「2009ヨーロッパ選手権」の体操女子で、スイスのアリエラ・ケスリン選手は跳馬で1位を獲得。総合でも3位に食い込み、一躍スイススポーツ界の人気者になった。

スイス体操女子の歴史で、主要な大会の表彰台に上ったのはケスリン選手が初めて。賢く、チャーミングなルツェルン出身の21歳を取材した。

大人の女性の体操

「これで、人生の目的が果たされた」
 と、ヨーロッパ選手権での成績を振りかえりケスリン選手は語る。北京オリンピックの体操女子の跳馬で一躍5位に踊り出たときは、スイススポーツ界にセンセーションを巻き起こした。今回はそれに次ぐ快挙だ。

 テニスのロジャー・フェデラー選手に似て「天才肌」と騒がれるケスリン選手は、賢さ、大人としての成熟度、闘志、そして謙虚さによって、スイスのファンを引き付ける。街の通りでも、ブログ、フェイスブックでもファンは彼女に声援を送る。
 「もちろん人気は永遠には続かないと知っている。しかし人気があるのはとても嬉しいし、また良いことだ。というのも私の目的の1つは、体操をスイスでもっと盛んにしたいということだから」
 
 また、21歳で身長165センチメートル、体重55キログラムのケスリン選手は、女子体操選手のイメージ、厳しい練習に耐え抜くやせ細った少女のそれを打ち破った。
 「小さなか細い少女ではなく、( 体重もきちんとある ) 1人の大人の女性でも体操ができることを証明できた」
 と微笑 ( ほほえ ) む。

勉強と体操の両立

 しかし、体操界のエリートの日常は想像以上に厳しい。ハイレベルの体操の技術を維持しながら、同時に大学入学資格を取るために毎日高校に通う。朝はビール/ビエンヌ ( Biel /Bienne ) の高校で勉強し、昼に近くのスポーツセンターで練習。午後はまた学校に戻る。夕方は1時間自転車でのトレーニング。その後は宿題を終え就寝。余暇を楽しむ暇はほとんどない。

 「確かに愉快な日常ではない。苦しさと歯を食いしばることを知らないと続けられない。時には全部投げ出したい気分になることもあるが、喜びとやりたいという気持ちが続く限り、やって行く」
 と言う。

 この喜びとやりたいという情熱がケスリン選手の原動力になっている。
 「中国など、生活が体操にかかっている国などに比べれば、スイスに生まれて幸せ。これをやることが義務ではないからだ。私の場合は喜びでやっている。喜びがなければ、こんなにきついスポーツはとっくに放棄していると思う」

 しかし、体操選手を育てる基盤のある国に比べ、スイスは勉強に対しスポーツ選手だからといった特別の配慮がなく、両立はかなり難しい。
 「私はほかの高校生とまったく同じ科目を同じレベルで勉強しなくてはならない。ほかの国では、選り抜かれたスポーツ選手はもっと簡単に大学入学資格を取得できるのに」
 
とはいえ、体操のお陰で特別に大学入学資格を受け取ることにも抵抗を感じる。スイスの大学入学資格はレベルが高い。それを取得することはしっかりとした教育を自分のものにできると考えるケスリン選手。普通の生徒の2倍の8年間を高校生活に費やすことは覚悟している。

ロンドンオリンピックは必ず出場

 ヨーロッパ選手権で3位になった今、将来体操をどう位置付けて行くかは、はっきりしない。
 「一つだけはっきりしているのは、私は体操を喜びのために続けて行くということ。それととにかく2012年のロンドンオリンピックには必ず出場することも決めている」

 このロンドンだが、この秋には世界選手権がロンドンで行われる。
 「もちろんまた3位までに残れたら嬉しい。しかし、こうした大会ではどんなにすぐれた新人が登場してくるか予想がつかない」

 ところで、今日までケスリン選手に大きなけがはない。ところが2カ月前、同じスポーツセンターに通う1996年アテネオリンピックに出場したパスカル・グローセンバッハー選手がトランポリンで大けがをした。
 「パスカルの事故は本当にショックだった。こうした事故はどんな時にも、どんな場所でもおきる。でも、私はジャンプをするとき怖くはない。もし怖かったら、体操はやれない」
 と語る。

サミュエル・ヤベルク、swissinfo.ch           
( 仏語からの翻訳、里信邦子)

1987年10月11日、ルツェルンで生まれる。現在ベルン州のビール/ビエンヌ ( Biel /Bienne ) に住む。

2005年、「ヨーロッパ選手権」の跳馬で4位を獲得。その後同選手権の跳馬では

2006年に6位、2008年に4位の記録を持つ。

2009年、「ヨーロッパ選手権」の跳馬で1位を獲得。個人総合で3位。この結果、
スイスの体操の歴史で、主要な大会の表彰台に上ったのはケスリン選手が初めてとなった。

「世界選手権」では、2005年と2007年に個人総合で22位。2008年の北京オリンピックでは、跳馬で5位、個人総合で18位を記録した。

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