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受信料は必要? 各国のメディア制度から分かったこと

世界の公共放送制度は違いはあるものの、それぞれに問題を抱えている
世界の公共放送制度は違いはあるものの、それぞれに問題を抱えている swissinfo.ch

スイスのメディアが苦しい境地に立たされている。スイスインフォは独自の国際ネットワークを通じ、他国にはどのようなメディア制度があり、またそれがどのように維持されているのかを調査した。

 スイスでは公共放送の今後を決める国民投票が3月4日に行われる。国民が受信料制度の継続に反対すれば、スイスのメディア状況が激変することは必至だ。

 「連邦はメディア政策から一切手を引くべきだ」。そう主張するのは、公共放送受信料廃止案、いわゆる の提案者たちだ。原案には「連邦はどのラジオおよびテレビ局にも補助金を出さない」、「連邦または連邦が委託した第三者が受信料を徴収してはならない」、「連邦は平常時に独自のラジオ・テレビ局を運営しない」と明記され、誤解の余地はない。

他に選択肢はない

 他に選択肢はない。スイス公共放送協会(SRG SSR)は「ノー・ビラグ」が可決された場合の方針をこう説明する。同協会が委託した第1回世論調査では否決される見通しとなったが、予断は許さない。

 財源の4分の3を受信料で賄っているスイス公共放送協会は「(受信料収入がなければ)廃業するしかない」と訴える。

 提案が可決されれば、スイスはヨーロッパで公共放送サービスを廃止する最初の国になる。もし今の公共放送が存在していなかったら、果たしてこの時代に受信料に支えられたメディアという発想は生まれるだろうか?

 答えは政治文化によって異なるだろう。例えばロシアでは受信料を払う気がある人などいないと、スイスインフォの通信員が記している。国がメディアの報道内容を事細かに規制しているからだ。ロシアには民間メディアもあるが、民間メディアも事実上、国の管理下に置かれている。

 それに加え、政府寄りの国外向けニュース専門局「RT(旧称ロシア・トゥデイ)」が外国での存在感を強めるために数百万ユーロを投資している点は注目に値する。

 同社はドイツやフランスでも活動を展開し、フランスのRT支局だけでも2500万ユーロ(約34億円)が投入されている。

スイスインフォも検閲の対象に

 スイスインフォは実際、公共メディアがない中国で検閲を受けている。中国語編集部が直接民主制などの「危ないテーマ」についての記事を配信した後、中国の検閲当局からスイスインフォの中国語ページへのアクセスが一時遮断されることがこれまでに何回かあった。

 公共放送制度がないところでは、メディアを統制するのは国だけに限らない。例えばブラジルには公共放送局「TVブラジル外部リンク」があるが、存在感はあまりない。一方、この国では少数の人たちがメディア界を牛耳っている。ブラジル最大の放送局「グローボ外部リンク」は国中から一流のジャーナリストを雇っているが、誰かがそれを長期的に続けるよう強いるわけではない。

 米国でも純粋な商業放送(民間放送)が長い間維持されてきたが、1960年代終わりに公共放送の助成制度が誕生。この制度の財源は受信料ではなく連邦補助金で賄われ、公共放送機構(CPB)外部リンクを通じて地方の公共放送局に予算が分配される。この制度は国民の間で定着しており、制度賛成派が7割を占める。

受信料だけでは独立性は保障されない

 国からの直接的な補助金に頼らず、受信料が収入源だとしても、公共放送局が政治的な独立性を確保できるとは限らない。ここでは誰が受信料を徴収するかが鍵を握る。

 もし国が直接徴収すれば、公共放送が政治利用される危険がある。例えばチュニジアでは公共放送局の財源確保のために受信料が徴収されるが、受信料は電気料金と一緒に徴収され、国庫に流れる。残りは国の一般会計予算から支出されるため、汚職や不正が行われる可能性があると、チュニスの通信員は説明する。

 欧州でも政府が公共放送局への関与を強めていることが確認されている。特に東欧ではその傾向が顕著だが、ドイツやオーストリアでも右派から規制強化を求める声が最近高まっている。

政権党の忠実な信奉者を執行部に

 ポーランドでは2015年末に政権についた保守政党「法と正義」が、公共テレビ放送局のポーランド・テレビ(TVP)を保守路線に転換させ、TVPの執行部全員を同党の信奉者に置き換えた。そして独立系ジャーナリスト約200人が同局を退職した。

 これがポーランドだけに限らないことは、非政府団体「国境なき記者団外部リンク」の17年版報道の自由度ランキングを見れば分かる。リストに挙がった180カ国のうち61カ国でメディアの自由度が下がった。そうした国の中にはフランス、スペイン、ポルトガル、イタリアが含まれる。

誰に受信料を支払うか

 似たような状況にあるのがインドだ。この国では例えば新規雇用に関することなど、政府が企業の決定に強く関与できるのが特徴的だ。

 受信料制度における別の問題点は、誰に支払い義務があるかを判断する点だ。スイスでは15年の国民投票で支払い対象者の拡大案が可決され、受信機の所有者だけでなく全世帯に支払いが義務づけられた。これまでは調査担当者が各世帯でラジオやテレビの受信機、コンピューターの有無を確認していたが、その必要はなくなり、受信料の徴収が簡単になった。

 更なる問題点は、支払い対象者に受信料を納めさせることだ。例えば日本では支払い対象者の7~8割しか受信料を納めていない。NHKが広告収入を禁じられていることを考えれば、これは重大なことだ。

隣国での議論

 スイスの隣国でも公共放送の財源について盛んに議論されている。例えばイタリアでは16年、受信料を電気代と一括徴収する制度を導入。民主党のマッテオ・レンツィ前首相は現在、受信料を全面的に廃止すべきと主張し、議論を呼んでいる。

 ドイツでは、公共放送局の監査委員会委員にロビイストが選任されたことに度々批判が起きている。そしてフランスでは、これまで公共放送に関与しなかった政府が公共放送局に大幅な経費削減を迫り、放送内容の質に関する議論が浮上した。

 つまり公共放送が政治的議論の対象になっているのはスイスだけではないのだ。3月4日に国民が「ノー・ビラグ」を否決し、連邦憲法のラジオ・テレビに関する条項を固持したとしても、スイスのメディア制度が今後数年でさらに大きく変革するということは確かだと言える。

 スイス公共放送協会は19年に事業免許が更新される。更新に伴い連邦は委任事項を変更でき、それに先立って新メディア法案の原案を審議会に送る予定だ。この法案はオンラインメディアの役割を規定するもので、施行後は現行のラジオ・テレビ法が廃止されることになっている。

スイスインフォはスイス公共放送協会の一部門だ。

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中国:国の判断に依存

王菊芳、ロンドン

 中国のメディアは編集内容が国の判断に左右されるため、政治的に公平という本来の意味での「公共放送」は中国には存在しない。1990年代末に新浪(シナ)、捜狐(ソウフ)、網易(ネットイース)など中国の民間ニュースポータルサイトがオンラインでニュース配信を開始する以前は、中国にあるすべてのメディア団体・企業は国有または国の管理下に置かれていた。

 中国では、メディアは共産党、政府、国民の「耳、目、口、舌」だ。階級ピラミッドの頂点に国営テレビ局の「中国中央テレビ(CCTV)外部リンク」が君臨しているが、同局執行部は西側諸国を含む他国のパートナー企業との国際協力にも尽力している。

 共産党はメディアに対し、党に従い、世論を「適正に」導き、社会主義の目的到達に貢献するよう求めている。

 ニュースメディアは1970年代後期の改革以降、財源に関しては市場経済路線を取っている。以前は共産党の宣伝機関としての特徴が強かったが、現在は収入の大部分を広告および商業活動で賄う。メディアの市場経済化でニュースメディアの財源調達方法は変わったが、国とメディアとの所有関係や国の規制は現在も続く。

 他に興味深い傾向として、個人が微信(ウィーチャット)などの人気SNS上で運営する「セルフメディア」が広まっている。頻繁にコンテンツを配信するセルフメディアも多く、百万人単位のフォロワーがいるセルフメディアには広告を呼び込む好条件がそろっている。そのため独立系メディアと同じように運営もできるが、検閲は逃れられない。

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 中国語の全原文はこちら。

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ブラジル:少数派が牛耳るメディア権力

ルエディ・ロイトルド、リオデジャネイロ

 ブラジルで視聴されるテレビ番組の7割以上が4大系列局によるもので、その半数は同国最大の放送局グローボが制作している。

 紙媒体では4大メディアグループの購読者数が全体の5割以上を占める。教養・文化番組を手がける国営テレビ局「TVブラジル」の平均視聴率は2%程度。

 グローボは情報を独占しすぎとの批判を受ける一方、一流のジャーナリストを雇用。一流の脚本家や演出家が手がけるテレビドラマシリーズは多くの視聴者を魅了し、広大な国で国民の一体感を生み出している。脚本家は啓蒙や社会批判をエピソードに分かりやすく盛り込んでいる。

 「国境なき記者団」の調査によると、ブラジルでは五つの一族が高い視聴率を誇るメディア企業50社を所有。彼らの懐は潤っており、グローボを所有するマリーニョ家の人々はブラジルで最も裕福な人ランキングのトップ10に入る。またグローボのライバル放送局「レコール」のオーナーで、福音派の牧師であるエジル・マセド氏は74位にランクインしている。

 メディア企業のオーナーはこの国を揺るがす汚職スキャンダルや社会的不平等を背景に財を成していると言えるだろう。

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インド:国からの直接補助金と検閲

シューマ・ラハ、ニューデリー

 議会で制定された法律に基づき1997年に設立されたインド放送協会(Prasar Bharati)は、テレビおよびラジオの公共放送局ドゥールダルシャン(DD)と公共ラジオ局オール・インディア・ラジオ(AIR)を運営。67のテレビスタジオ、420のラジオ局を抱え、世界最大の公共放送の一つに数えられている。

 インド放送協会は主に国からの直接補助金を財源とし、受信料は徴収していない。商業収入はあるが、それだけでは経営は維持できない。数カ月前に民営化が提案されたが、それが同協会の財源調達方法にどのような影響を与えるのかはまだ不明だ。

 インド放送協会と政府とは緊張関係にある。同局には完全な自主性が法律で保障されているが、財源や執行部の決定に関しては政府に共同決定権が認められている。新しいプロジェクトや新規採用がその例だ。そのためインド放送局が政府の「宣伝機関」と揶揄されることもある。

 ゆがんだ報道や大胆な検閲もまれではない。DDは2014年総選挙で、候補者だったナレンドラ・モディ現首相のインタビューを大幅に短縮した。

 最近ではモディ政権を批判した部分があるとして、トリプラ州のマニク・サルカール州首相の演説が短縮された。

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ロシア:民間メディアも国の監視下

 フョードル・クラシェニンニコフ、エカテリンブルク

 ロシアにはアナログ、デジタル、紙媒体に関わらず、スイスと比較できるような公共放送は全く存在しない。すべてのメディアは正式に国営か民間のどちらかとなる。

 だが実際には「民間」のメディアも国の規制を受けている。ロシアでは全ての私有物は国から許可または黙認されなければならないからだ。数年前に当時のドミトリー・メドベージェフ大統領が個人的に設立した国営テレビ局「ロシア公共テレビ」は内容的、財政的、政治的に政府の意向に左右される。

 ロシアに受信料制度はないが、だからといって国営のテレビ・ラジオ放送が無料で視聴できるわけでもない。なぜならすべての国営放送には政府の資金が投入されているからだ。つまり、国営のテレビ・ラジオ放送はすべての納税者の給料から天引きされる税金で運営されている。そしてメディア分野にはコストの透明性は存在しない。

 国は体制の存続に関わる全てのメディア(テレビ、ラジオ、インターネット、紙媒体)を事細かく管理し、何を、どのように、いつ、どの形式で報道し、また何が報道禁止なのかを指定する。国民はそれを受け入れ、同意する。このような状態で今、ロシア人に「受信料を払えば国営放送が民主的に運営されるとしたら、払いますか?」と尋ねれば、ほぼ100%の人が「もちろん払わない」と返事するだろう。

 西側メディアに対しては、前出のRT(旧称ロシア・トゥデイ)の編集部長が「ロシアのメディアは国からそれほど強い規制は受けていない」とオランダの国際会議で語ったことがある。

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イタリア:圧力を受ける公共放送

アンゲラ・カチカンタミス、ローマ

 イタリアでは公共放送の受信料を巡る議論が勃発している。国民から不人気な受信料は国有企業RAI(イタリア公共放送)が製作するラジオ・テレビ番組の7割を賄う。

 レンツィ前首相(民主党)が受信料の廃止を提案したことで賛否両論が巻き起こった。2016年7月に受信料徴収制度が変更され、受信料を巡る議論に終止符が打たれたかと思われたが、レンツィ氏の提案で議論は再燃した。

 RAIの番組を視聴しているかいないかに関わらず、受信料は16年7月から電気料金と一括して徴収されている。言い換えると、電気契約をしている世帯は受信料が自動的に徴収されるということだ。同時に受信料は年間100ユーロから90ユーロ(約1万4千円から約1万2千円)に値下げされた。この制度改革で受信料収入は0.8%増の約18億ユーロに増加した。

 公共放送は財源の7割が受信料、残り3割が広告収入を占める。

 公共テレビの基本理念は、営利主義を出来るだけ排除した番組を提供することだ。RAIの三つの主要放送局では、全番組の26.6%が報道・情報番組、12.4%が文化の向上を目的とした番組、約10%が欧州以外の外国映画、約16%が大衆映画および娯楽番組となっている。

 ラジオではRAIの市場占有率は4分の1しかなく、民間放送局が大半を占める。

 イタリアでは紙媒体は大手民間出版社が所有するが、特定の新聞およびオンラインメディアには年間1千万ユーロの補助金が国から出される。

 17年の改革以降、7種類の出版社が公的補助を申請できるようになった。そのうちの一つが、各自の専門分野に関する雑誌を発行する非営利団体および消費者団体だ。

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日本:広告が禁じられた公共放送

鹿島田芙美、ルツェルン

 日本で唯一の公共放送事業者は日本放送協会(NHK)だ。全国放送のテレビ・ラジオ番組のほか、大規模な国際放送サービス「NHKワールド」を展開している。

 NHKの市場占有率は約3割。残りの7割は民間放送局127社が占める。そのうち118社が東京に本社を置く5大ネットワークの系列局だ。

 NHKは財源の95%以上を受信料で賄っている。放送法により広告放送が禁止されており、広告による収入は得ていない。広告放送の禁止は厳守されており、NHKの音楽番組では歌手の山口百恵さんが「プレイバックPart2」の歌詞に出てくる「真紅なポルシェ」を「真紅なクルマ」に変更して歌ったこともあった。

 テレビ視聴可能な機器を持つすべての世帯および法人には受信料の支払いが法律上義務づけられている。一般世帯では地上契約は月額1260円(口座・クレジット)、衛星契約では月額2230円(口座・クレジット)。事業所も受信料の支払い対象だ。

 これまでは受信料の支払い拒否に対する有効な手立てがあまりなく、支払い率は7~8割程度に留まっていた。しかし昨年12月に最高裁判所が受信料制度を合憲とする判決を出したことで、今後は支払い率に変化が生じることが予想される。

 民放の5大ネットワークは広告収入を主財源にしており、四つのネットワークが主要新聞4紙と密接に関係している。具体的には、世界最大の発行部数を誇る読売新聞は日本テレビ、朝日新聞はテレビ朝日、日本経済新聞はテレビ東京、産経新聞はフジテレビとの結びつきが強い。

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フランス:フランス版BBCを夢見るパリ

マシュー・ファン・ベルヘェム、パリ

 フランスでは現在、公共放送は厳しい時代に直面している。その原因はスイスのように国民発議ではなく、マクロン大統領自らが出した提案によって作られた。週刊誌レクスプレスによれば、マクロン氏は公共放送を「共和国の恥」と述べている。

 非公式の政府計画では、フランス・テレビジョンとラジオ・フランスを統合し、予算38億ユーロ、職員数1万7千人の複合会社が設立される予定。英国放送協会(BBC)をモデルとしたこの改革では、特にIT分野での協働が目標とされる。

 マクロン氏はさらに受信料制度にも改革の矛先を向けている。テレビ所有者には現在、年間138ユーロの受信料(公共放送負担税)が課されている。国の受信料収益は40億ユーロで、そのうち66%がフランス・テレビジョン、7%がアルテ(独仏共同出資のテレビ局)、16%がラジオ・フランスに配分される。今後はインターネット接続端末の所有者も受信料の支払い対象となる予定。現在の受信料は住居税と一括して徴収されているが、マクロン氏は住民税を廃止しようとしているため、住民税廃止後に受信料をどう徴収するかが問われる。

 公共放送局フランス2(F2)は長い間、二つの大きな課題に翻弄されてきた。一つ目は主要民間放送局TF1との競争だ。ただ、昨今はニュース専門放送局に視聴率を奪われ、F2もTF1も平均視聴率が若干落ち込んだ(F2は13%、TF1は20%)。

 二つ目は質の高い番組作りだが、特に午後8時以降の広告放送が禁止されて以降、レベルの維持が危うくなっている。この禁止により約5億ユーロが予算から削減された。

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ドイツ:受信料は全世帯・事業所から徴収

 ペトラ・クリムプホーヴェ、ベルリン

 ドイツで初めての民間放送局ザットアインス(Sat1)が登場したのは、1984年のこと。それとほぼ同時期にRTLプラスも放送を開始し、公共放送と商業放送が並立する二元体制が確立された。それ以降、公共放送のARDとZDFは商業放送と競合してきた。

 私企業である民間放送局は財源の全てを広告収入で、有料放送の場合は視聴料収入で賄わなければならい。視聴者が多ければ多いほど広告収入も増えるため、視聴率争いは必然と激しくなる。結果、番組内容は視聴者が見たいものに偏りがちだ。

 一方、公共放送は文化・情報について放送する任務を負っている。公共放送のニュース番組やトークショーは、メディアが乱立する現在でも国民から信頼のおける情報源として重宝されている。

 公共放送のARDとZDFは主な財源が受信料(放送負担金)だ。番組制作費は年間80億ユーロ。その負担はドイツの全世帯・事業所が担う。ARDやZDFなどの番組を視聴しているか否かに関わらず、どの世帯も月々17.5ユーロを支払わなければならない。

 公共放送に関しては「(番組内容が)左派に傾いている」、「赤(ドイツ社会民主党)と緑(ドイツ緑の党)に偏重している」との批判がある一方、「右派のキリスト教社会同盟の影響が濃い」との不満も聞かれる。実際、公共放送局の監査委員会には労働組合や経済連盟など民間団体の代表者が多いが、主義主張を掲げる政治会派の代表者も含まれる。

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米国:始まりは民間放送局

リー・バンヴィル、モンタナ

 米国では公共放送は当たり前のものではなかった。ラジオとテレビの登場と共に公共放送制度が発展した国は多いが、米国では長い間、民間放送局がメディア界を独占していた。政府がラジオとテレビの全国的な公共放送制度を設立するまでには時間を要した。

 1967年に放送法が制定され、連邦予算を財源とする公共放送制度が誕生。米国公共放送協会(CPB)が設立された。

 米国では公共放送事業の担い手は連邦ではなく、連邦補助金、個人支援者、企業、基金を財源とする各地域の公共放送局だ。

 他国では公共放送は受信機への課税金や利用者から受信料を財源とするが、米国の場合は連邦予算がCPBに配分される。つまり連邦政府が公共放送に支出する資金はすべて、連邦議会から承認を得なくてはならないということだ。

 主な全国ネットワークはテレビでは公共放送サービス(PBS)、ラジオではナショナル・パブリック・ラジオ(NPR)。両者は地上放送を行う加盟局(地域放送局)に番組を配信する放送ネットワークだ。

 ケーブルテレビの利用が増加していることから、公共放送の必要性に疑問の声も上がっているが、PBSとNPRへの公的支援には国民の7割が賛成しているとの世論調査結果がある。

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スペイン:民間放送局が財源負担

ホセ・ヴォルフ、マドリード

 スペインの公共放送制度の始まりはスペイン国営ラジオ放送(RNE)(1937年)とスペイン・テレビ(TVE)(1956年)の設立にさかのぼる。情報を得る権利が1978年に憲法の基本法に制定され、国に公共ラジオ・テレビ放送の配信が義務づけられた。

 現在はRNEもTVEも国が株式の100%を所有するスペイン放送協会(RTVE)に属するが、政府、政党、企業からの独立が法律で保障されている。RTVEは国会に対してだけ説明責任を負う。経営評議会の評議員は9人おり、上下両院で選出される。

 RTVEの財源は約半分が国の一般会計予算から直接拠出され、もう半分は電話会社(財源の0.9%)、民間放送局(3%)、有料テレビ放送局(1.5%)への課税で賄われる。

 全国的な民間放送局やラジオ局は国内外の大手企業グループ(メディアセット、プリサ、エルモンドなど)、スペイン出版企業グループ(ボセント、ゴドーなど)、カトリック教会に属し、広告収入が主な財源となっている。

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チュニジア:避けがたい汚職と失政

ラシッド・ケシャナ、チュニス

 チュニジアで最も歴史ある公共メディアは、日刊紙ラプレス・ド・チュニジと同紙のアラビア語版(Essahafa)。近年は両紙の発行数が落ち込んでいる。両紙は政治的に中立とは言えず、ソ連の検閲を想起させることから反対派から「チュニジアのプラウダ」と呼ばれる。プラウダはソ連共産党の機関紙だ。

 国は新聞以外にも、政府公認の通信社TAPの株式を98%以上所有。TAPの職員数は現在304人で、そのうち記者は168人。

 国にとって公共ラジオ放送の維持費は高く、国はコストの76%に相当する1400万ディナール(約6億5千万円)を給料支給のために用意しなければならない。受信料は電気代と一括して徴収され、受信料収入の総額は1300万ディナールに達する。それに加え推定200万ディナールの広告収入がある。

 公共テレビ放送の状況はさらに厳しく、年間予算5600万ディナールのうち1400万ディナールが広告収入、500万ディナールが番組販売による収入で、残りは国が負担しなければならない。

 公共テレビ放送の財源も受信料で一部賄われるが、これだけでは運営は厳しい。徴収された受信料はラジオ・テレビ放送局が直接受け取るのではなく、国庫に入る。そのため汚職や失政が起きやすくなっている。国民から徴収した受信料総額は非公開であるため、透明性は著しく欠落している。

 この状況は2010年、11年の政変以前から続いている。

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 アラビア語の全原文はこちら。

(独語からの翻訳・鹿島田芙美)

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