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国民投票で問われる民主主義と社会保障

Keystone

9月27日に行われる国民投票では、20年以来赤字にある障害者保険の立て直し案と、2003年の国民投票で決定したイニシアチブの範囲拡大の撤回の是非が問われる。

障害者保険の補てんとして、期限付きで付加価値税を引き上げるという政府の提案に対しては、より大幅な節約の努力が必要であるという反対意見がある。一方、イニシアチブの範囲拡大は、一度、国民投票で承認された項目だが、実践がほとんど不可能だということが判明したため、政府が再度国民に問うことにした。

付加価値税の期限付き引き上げ案

 スイスでは労働者は雇用者と折半で、両者が労働者の給料の1.4%を負担する障害者保険がある。これで保険の4割をカバーし、残りは公的基金が賄う。事故や病気または生まれながらにして障害があり、障害度が40%以上の人に受給の権利がある。しかしスイスの障害者保険は1993年以来、賭け金だけでは賄っていけない状態だ。実情、毎年14億フラン ( 約1200億円 ) を支出し、累積130億フラン ( 約1兆1400億円 ) の赤字を抱えている。これまでは、老齢年金の資金から補てんしてきたが、2021年には老齢年金の資金も枯渇する見込みだ。

 そこで政府は、2008年から可能な限り保険受給者に労働を仕向ける政策をとり、節約を進めることで年間の赤字額を一定に保っている。しかし、保険が健全に運用されているとは言い難い。このため政府は、2011年から2017年までの期限付きで、付加価値税を現行7.6%のところ8.0%に ( 食品など日用品は現行2.4%を2.5%に、ホテル業界は3.6%を3.8%に ) 引き上げ、障害者保険に充てる提案をしている。

 当初政府は、2010年からの障害者保険料の値上げを提案していたが、直接雇用者の負担が増加することを嫌った経済連合「エコノミースイス ( economiesuisse )」の反対に遭遇し、付加価値税の期限付きで引き上げに提案を修正し、経済界の同意を得るに至った。

 議会も政府案を支持している。一方、国民党 ( SVP/UDC ) は、障害者保険を悪用する人もいると指摘するなど、更なる節約を訴えている。月額支給が平均1600フラン ( 約14万円 ) のところ4割削減を主張する声もあるが、政府は、大幅削減は社会的に無責任であり、立て直しを今行わなければ後々立て直すにしてもさらに大きな負担が生じると警告している。

国民投票の結果を覆す提案

 2003年2月9日の国民投票で「イニシアチブの範囲拡大案」が、政府が推し進めたこともあり、国民の7割以上の支持を得て承認された。これにより、10万人分の署名もしくは8州の意向があればイニシアチブの供給内容を憲法上で改正するのか法律改正にするのかという選択が可能になり、その後連邦会議がこれを決定するよう制度が変わった。

 しかし国民投票で承認された後で、国民議会 (下院 ) と全州議会 ( 上院 ) の判断が食い違った場合、これを実践することが不可能であることが明らかになった。また投票率が27%と低かった投票当時、投票した人でも案件内容を正しく理解していなかった人が4分の1あったことも政府の事後調査で分かっている。こうした事態を踏まえ、政府はイニシアチブの範囲拡大を憲法に取り入れることは不可能だと判断し、再度国民に問うことにした。政府の提案は憲法改正のため今回も、投票者の過半数と、賛成が過半数を超える州の数が過半数になる必要がある。

 イニシアチブの範囲拡大の憲法改正については、大きな反対意見もなく、投票前の討議もほとんどない状態だ。社会民主党 ( SP/PS ) の議員アンドレアス・グロース氏は
「2003年の国民投票でもあまり討議されなかった項目だ。投票率も最低だった。憲法か法律かの選択に必要な署名数が、イニチアチブ成立に必要な署名数と同じということも疑問で、もともと私は反対だった」
 と言う。しかし、今回も国民の理解度は低く、投票2週間前のジーエフエス (gfs ) の調査でも、賛否を決定していない人が9月に入ってからも39%ある。

佐藤夕美 ( さとうゆうみ ) 、swissinfo.ch

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