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国連改革 人権理事会の創設にむけて

もし常任理事国枠が拡大された場合、スイスは新たな拒否権を与えることに反対だ。 Keystone

ローザンヌで2日、国連人権委員会の改革案を話し合うワークショップがスイス政府の主導で開催された。

ワークショップには日本を含めた60カ国また、NGOや専門家などが出席し、多くの関心が寄せられた。しかし、安全保障理事会の常任理事国のうち米国、英国、中国は欠席した。

人権委員会の改革は安保理改革が焦点である国連全体の改革の一環だ。アナン事務総長は4月の人権委員会の会期中もジュネーブで「人権委員会は政治的な道具として利用されて衰えてしまった。この人権委員会の威信喪失は国連全体の信望にも影を投げかけている」と厳しく評したうえで、改革の必要性を訴えていた。今回のワークショップは改革のやり方について意見交換をするに留まった。

言いだしっぺはスイス人

 アナン事務総長が3月末に発表した国連改革の勧告「より大きな自由の中で」では人権部門については根本的な改革を提唱している。現在の国連人権委員会を廃止し「人権理事会」を創設。これを安全保障理事会と並ぶ常設の理事会または総会の補足機関に格上げすることを提案している。

 この年次の開設が目指されている人権理事会はベルン大学の法学者、ヴォルター・ケーリン教授が提案したものだ。これが国連改革について考えるハイレベル委員会(有識者諮問委員会)の目に留まったものだが、アナン事務総長がこの案を採用することはスイスにとっても驚きであった。

大国の不参加

 今回のワークショップへの米国、英国の不参加についてスイスのブレーズ・ゴデ国連大使は「国連改革案がニューヨーク以外で話し合われることに抵抗があるようだ。しかし、人権委員会がジュネーブで毎年春開催されるため、ジュネーブで行われるのは当たり前のこと」と語った。

 また、「人権理事会」が創設されるならばニューヨークに移されるのでないかという地元の不安に対して、ゴデ大使は「委員会を補助する人権高等弁務官事務所(OHCR)はジュネーブにあり、スイスは人権問題を公正な環境のもとで話し合うには最適の場である」と楽観視している。

スイスの提唱する改革案

 日本にとっては、スイスが日本の常任理事国入りを支持してくれるかが気になるところだ。しかし、スイスは国連改革の焦点で安全保障理事会の改革について、アナン事務総長の提案するどの案にも同意していない。勧告では安保理常任理事国5カ国から11カ国に増やすA案と、任期を設けた準常任理事国を新設するB案が提案されている。

 スイス外務省の国連改革担当のエリック・マイヨラ氏は「スイスのような小さい国にとって、非常任理事国の参加が限られているどの案も有利ではない」と分析。さらに「我々はどちらかというと安全保障理事会の運営方法に焦点を当てている。もっと透明性が必要だ」と語る。つまり、スイスは今後の国連改革が進まない限りまだ立場を明確にしていない。

今後のロードマップ

 アナン事務総長は非公式な協議を重ね、9月の特別首脳会合までには、せめて「人権理事会創設」を合意するところまで漕ぎ着けたい意向だ。参加した60カ国のうち、人権理事会創設に反対していたのは15カ国程度という。

 しかし、人権委員会の改革は国連改革全体での合意を前提としている。あくまでも大きなパッケージの小さな部分でしかないからだ。ローザンヌで行われた議論が机上の空論にならないためにはまずは国連改革が成功しないことには始まらない。


swissinfo  屋山明乃(ややまあけの)

- アナン国連事務総長の国連改革案「より大きな自由の中で」では国連人権委員会のかわりに「人権理事会」を創設することを提言。人権侵害国として国際的に非難を浴びている国でも構成国になれるシステムを解消し、人権理事会では今の53カ国から構成国を半数ぐらいに絞り込む案を提唱している。

- 現行の国連人権委員会は国連の経済社会理事会(ECOSOC)の補助機関として設けられているが、これを安全保障理事会や経済社会理事会と並ぶ常設の理事会に格上げする内容だ。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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