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失踪者を探す

映画「無法地帯 ( Tierra de Nadie ) 」のワンシーン。ジェニー・ベタンクールさんが弟を探す

どうすれば失踪事件を公正に映画化できるだろうか。スイスの映画監督パスカル・バウムガルトナー氏はこのような疑問と向き合った。そして彼は、ピノチェ独裁時代に消息を絶った弟を探し続けているチリ人の女性ジェニー・ベタンクールさんに同伴してチリを訪れた

「失踪は拷問でもなく、死刑でもなく、殺人でもない。失踪とは不確かな心もとなさだ」と言うのはルイ・ジョワネ氏。フランスの法学者で、国際連合 ( UN ) の「強制失踪からのすべての者の保護に関する国際条約 ( 強制失踪条約 ) 」の作業に当たった1人だ。

「痛みは増す」

 ジョワネ氏は、強制失踪は民族を隷属させるためのテロ戦略の一つだと主張する。
「強制的に失踪させられると、当事者は心理的、司法的な抑圧をかけられる。また、家族は喪に服することもできない。なぜなら、失踪者は死んでしまったのか、それともまだ生きているのか分からないからだ」

 強制失踪は、被害者の家族もまた被害者となる唯一の犯罪だ。家族には本当の状況を知り、失踪者のその後の運命を知る権利があることが国際協定で認められている。

 難民としてスイスで暮らすジェニーさんは、そんな家族の心もとなさや痛みをよく知っている。彼女の弟パンチョさんも1973年9月以降、消息を絶っているからだ。それは、喜びと悲しみが交互にやってくる不安定な状態だとジェニーさんは言う。希望を失わず待ち続ける自分と失望に襲われる自分。疑問を抱けばすぐにしっぺ返しを食らう。
「不安と絶望的な無力感が混ざり合って、痛みは薄れるどころか増すばかりです」

 ジェニーさんは、行方の分からない弟のことを放ったままでは先に進めない。
「弟は口をふさがれたのです。家族の口までもがふさがれてしまったら、弟が2度までも消息を絶ったようなもの」
 とジェニーさんは言う。

 ジュネーブの映画監督バウムガルトナー氏は、ジェニーさんの経験をフィルムに収めようと決意した。彼は、弟の足跡や手がかり、思い出を探すジェニーさんに同伴し、3週間彼女と行動を共にした。そして10月9日、西スイスのメイラン ( Meyrin ) にある被害者の家族が集う場所「失踪者の庭 ( Jardin des disparus ) 」で映画「無法地帯 ( Tierra de Nadie ) 」を初上映した。

ある冬の朝に拉致

 ドキュメンタリー映画の中のジェニーさんは関連司法当局を探し回り、思い出の場所を訪ね、パンチョさんが学び生活した界隈に足を運ぶ。そして、彼が消えた場所にも。それはある冬の夜、アルゼンチンの国境に近いパタゴニアで起こった。アルゼンチンまであと一歩だったこの場所で、彼はおそらく兵士に連れ去られ、消息を絶った。

 静寂、待ち続ける時間、行く先のない道。映画「無法地帯」は、観客をパタゴニアの無人地帯へ、失踪者を探す女性がさまよい歩く荒地へと誘い出す。常にジェニーさんにぴったりと付き添いながら、だが分をわきまえ、映画は失踪者が後に残した空白を映し出す。

 バウムガルトナー氏はもともと3つの運命を記録するつもりだった。ジェニーさんとコソボ出身の女性、そしてルワンダ出身の女性の運命だ。
「そうすれば、強制失踪が世界共通の出来事であることを訴えられたはず」 
 とバウムガルトナー氏は言う。だが結局、彼はジェニーさんだけに絞ることにした。

 ジェニーさんに初めて会ったのは2003年、「失踪者の庭」で赤十字国際委員会 ( ICRC ) の映画を撮影した時だった。ジェニーさんは当初、懐疑的だった。
「どうしていつもチリ人かアルゼンチン人なの?」
 と。
「わたしたちにはこのラベルが貼りついているんです。 ( 強制 ) 失踪になっている人はほかの多くの場所にもいるのに」
 とジェニーさんは言う。

 しかし、「失踪者の庭」の会長と話し合ったあと、ジェニーさんはこう納得した。
「わたしのケースは多くの人の運命を代表しているんですね。かなり典型的な例なんでしょう」

カロレ・ヴァン、swissinfo.chおよびInfoSüd
( 独語からの翻訳、小山千早 )

「強制失踪からのすべての者の保護に関する国際条約 ( 強制失踪条約 ) 」

スイスは強制失踪条約にまだ署名していない。失踪したアルゼンチン人を父に持つジュネーブ州国民議会議員アントニオ・ホドガース氏 ( 緑の党・Grün/Les verts ) は
「条約の作成には関与しているのに、スイスがなぜ先に進まないのか理解できない」
 と言う。

ほかの多数の連邦議会議員とともに、ホドガース氏は、スイス政府による条約への即座の署名を要求する嘆願書を支援している。21の組織が行っているこの署名運動は、8月30日の「世界失踪者の日」に始まった。

この条約にはこれまで80カ国が署名している。批准した国は14カ国。発効には20カ国の批准が必要。2006年12月20日の国連総会で採択されたこの取り決めは、強制失踪に対する法的拘束力を持つ対策として考案された。

強制失踪条約では例外は認められていない。戦争、戦争の危機、あるいは政治的不安定といった非常事態も、人を強制的に失踪させる口実に利用されてはならない。

強制失踪には、国家機関や個人による拘束、逮捕、誘拐のほか、国の許可や支援、黙認によって自由を剥奪したり、自由を剥奪していることを認めようとしないすべての形が含まれる。締結国は強制失踪を禁じ、処罰する義務を負う。

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