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家庭的日本レストラン「小町」

レストラン「小町」経営者、綾子&Richard Grillon夫妻。家庭的で親しみやすい居酒屋・大衆食堂がコンセプトのお店。日本酒は7種類、焼酎は3種類から選べる。 swissinfo.ch

ジュラ州の州都、ドレモン(Delémont)。人口12000人足らずの小さな町に、2011年6月、待望の日本レストラン「小町」がオープンした。スイスの日本人コミュニティ誌「グリエツィ」(Gruëzi)などで紹介されたこともあるので、ご存知の方も多いかも知れない。

 一昔前と違い、日本への関心はスイス全土で高まりつつあり、ここジュラ州も例外ではない。日本食への興味と理解もその一部。以前は日本食を食べたいと思えばバーゼルやベルンにまで行かなければならなかった。そのため、日本料理と言えば「寿司」や「鉄板焼」、そして値段が高いという印象が少なからずあった。「小町」は日本の家庭料理を基本にしたメニューを前面に打ち出し、値段も抑え目。開店後、一年足らずでジュラを代表するレストランの一つになった理由はこのへんにあるかも知れない。

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 ドレモンの旧市街に行くには、駅1番線ホームを背にして斜め左の方角に向かいながら道を上がり、約15分ほど歩く。しっとりと落ち着いた古い町並を横切るメインストリートの一つ、病院通り(Rue de l’hôpital)に「小町」は位置する。間口が狭い、典型的な旧市街の建築物の一つのガラス窓に大きく書かれた「小町」という文字がひときわ目を引く。出入り口の脇にはミシュランと並んで有名レストランガイドであるゴー・ミヨ(Gault  Millau)の評価プレートがあり、去年に引き続き20点中13点という高得点が記されている。

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 店内に一歩入れば、和風だしの匂いが漂ってくる。竹を駆使した内装やカウンターの上にずらりと並べられた日本酒の瓶が目に入り、いきなり日本の居酒屋に足を踏み入れたような錯覚に陥る。それこそが、「小町」経営者・綾子&リシャー・グリヨン(Richard Grillon)夫妻が意図するところである。彼らのコンセプトは気軽に立ち寄れる「日本の大衆食堂」。ステレオタイプになってしまっている「日本食=寿司」という概念を崩し、いかにも一般の日本人が日常的に親しむ料理が食べられるところに人気が集まっている。平日は手頃な価格のランチメニューがある。全体的に、スイスにしては値段は抑え目で、これからもできれば値上げはしたくないということ。若者にも人気で、ランチ・ディナー共、テイクアウトができる。

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 ご主人のリシャーさんは、元々ローザンヌやジュネーヴなどの高級レストランで腕を振るってきた調理師である。彼は日本料理を日本ではなく、家で綾子さんの手料理を毎日食べて「舌」で学んだ。リシャーさんの料理センス、そして綾子さんの日本風おもてなしの心が、二大車輪となり、「小町」はジュラグルメ界で躍進を続けている。

 「日本には行ったことはないが、日本食は元々大好き。勤め先がすぐ近くなので、昼食はほとんどここで食べる」「小町で食べて日本食が好きになり、日本に興味を持つようになった」「日本で食べて好きになったカツ丼がまたドレモンで食べられて嬉しい」など、小町のリピーターとなった客の日本への思い入れは様々。ランチタイムを利用し、「いつか日本に行ってみたい」と夢見ながら足繁く通ってくる学生もいる。

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 開店から2年経ち、今後は少しずつメニューを増やしたり変えたりすることも考えているそうだ。たとえば、季節物。冬季メニュー(1月~4月)では、去年からすき焼きが登場している。夏季メニューとしては、デザートの抹茶フラッペがある。白身魚の天ぷらや和牛ステーキ、また、揚げ出し豆腐などを使ったベジタリアン料理もお目見えする日は近いということ。

 「小町」は、大衆食堂であると同時に、居酒屋でもある。日本酒の種類が豊富なのだ。ワインが根強い人気のフランス語圏では、さすがに年配者はワインを注文することが多く、赤・白・ロゼワインは欠かせない。しかし、若い人は比較的好奇心旺盛で、日本酒を試飲することが多いという。また、アペリティヴにはオリジナルカクテルもお薦めである。

 夏はテラス席を設け、席数は増えるが、店内はカウンター席も合わせて最大20席と小さめ。特に週末は予約必須である。

 さて、ジュラ山脈ののどかな風景を車窓から鑑賞しつつ、「小町」の料理も食べてみたいという人に、耳寄りな情報を! 毎年夏にジュラの山岳地方フランシュ-モンターニュ(Franches-Montagnes)を期間限定で汽車が走り、様々な催しがあるが、今年8月25日(日)は「日本料理スペシャル」と題して、車内で「小町」スタッフが調理する特別メニュー(38フラン)が食べられる。(汽車賃別途)先着80名までということなので、是非お早めにご予約を。

マルキ明子

大阪生まれ。イギリス語学留学を経て1993年よりスイス・ジュラ州ポラントリュイ市に在住。スイス人の夫と二人の娘の、四人家族。ポラントリュイガイド協会所属。2003年以降、「ラ・ヴィ・アン・ローズ」など、ジュラを舞台にした小説三作を発表し、執筆活動を始める。趣味は読書、音楽鑑賞。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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