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小さなスイス市場にひしめくロシア企業

ロシアの投資家ヴィクトール・ヴェクセルベルク氏がスイスの報道機関に最新のビジネスプランを説明する Keystone

以前からスイス市場に参入していたロシア企業。ここ数年間は、スイスで事業を多角化している。また、その存在は次第に大きくなっている。

観測筋によると、在スイスのロシア企業は過去5年間にほぼ倍増し、その数は約200社に上るという。

 主にロシア企業が参入しているのはコモディティ(エネルギー、貴金属、穀物などの商品)市場だ。石油では、総輸出量の75%をスイスと取引している。

 スイスを足場にするロシア人貿易商は増加の一途をたどっているが、ロシアの原油生産大手、ロスネフチ(Rosneft)、バシネフチ(Bashneft)、チュメニオイル・ブリティッシュ・ペトロリアム(TNK-BP)も最近、ジュネーブ州、チューリヒ州、ツーク州に進出し、事業を拡大した。

 また、スイスとロシアのビジネスコンサルタント会社「コミュニカツィオン・オスト・ヴェスト(Kommunikation Ost-West、以下オスト・ヴェスト)」のゼネラルマネージャーレギュラ・スパリンガー氏によると、金融サービス、不動産、観光事業、製造業部門に携わる企業もスイス市場に参入し始めたという。

 「過去5年間でロシア企業がスイスに進出する動きが盛んになった。現在、その数は倍増とまではいかないが、それに近づいており、幅広い分野にわたる企業がスイスに進出してきている。ロシアの事業家はみんなコモディティ業者だというイメージは払拭されつつある」とスパリンガー氏は説明する。

ロシアの近代化運動

 スイスには公式の統計がなく、各州の当局も登録されている個人企業の名を挙げたがらないため、スイスに籍を置くロシア企業について詳細な情報を得ることはできない。 

 しかし、オスト・ヴェスト社の調査によると、約70社に上る企業がジュネーブ州を拠点にしている。一方で、ヴォー州、ツーク州、チューリヒ州にもロシア企業が好んで会社を設立しているという。その中では依然としてコモディティ関連企業が大部分を占めているが、最近はその傾向が弱まっているとスパリンガー氏は言う。

 実際、ロシアの投資会社レノヴァ(Renova)はコモディティとは関係のないスイスの製造業者、スルザー(Sulzer)の株を31.2%所有している。

 その背景には、ロシアがインフラを整備し、石油やガスといった天然資源への依存を減らすことで、経済を近代化し始めたことがある。ロシアはそのためにスイスの科学技術を取り入れようとしている。また、スイスは今年7月にロシアの近代化を促進するための協定に調印した。

 「スイスで事業を始めるロシア企業はスイスの製造業者との関係をより緊密にし、スイスの科学技術をロシアに持ち帰ることを目的にしている。こういった企業はスイスの企業を買収してスイスで商品を製造するか、もしくは、スイスの科学技術を買い取り、ロシアに輸出するかのどちらかの方法を取っている」

 機械の輸出促進を専門とする企業もあれば、スイスで商品を製造することを専門にする企業もある。スイスで製造に携わっているのは、ヌーシャテルのEIT、チューリヒ州フォルケツヴィル(Volketswil)のエラパ(Erapa)、ツーク州のユーロケミ・トレーディング・アンド・クロノス・イン・エクス(Eurochem Trading and Cronos Im-Ex)といった企業だ。

企業の規模がすべて

 スイスの科学技術はロシアにとって魅力的だ。しかし、スイスは市場も企業も規模が小さいため、 規模の大きいロシアの事業家にとって魅力が少ないとヴァルター・フェチェリン氏は語る。フェチェリン氏はスイス、ロシア、旧ソ連構成国の貿易商を代表する商工会会長で駐露スイス大使を務めた経験もある。 

 「レノヴァは別として、ロシアがスイスの製造業部門に直接投資するのはごくわずか。ロシアは、自国の原料貿易に付加価値を与えてくれるドイツのようなより大きな市場に目を向けている」とフェチェリン氏は語る。

 「ロシア経済近代化の段階において、ほとんどのスイス企業は投資するには規模が小さすぎる。だが、これから先数年間で、さらに多くのロシア人企業家がスイスの革新的な隙間商品を見つけることだろう」

増え続けるロシア人

 現在、スイス国内の不動産、ホテル、観光部門でかなり多くのロシア事業家が活動しているとフェチェリン氏は言う。

 また、ロシアの小企業が、近年ようやく地盤が固まってきたばかりの隙間産業に入り込んでいる。健康診断を兼ねてスイスへ観光にやってくるロシア人向けに高度な設備を備えた診療所を開業しているのだ。

 このように、スイスで会社を設立するロシア企業が増加する一方で、投資や新規雇用などの規模を把握することは以前よりもさらに困難になっている。また、国際的に事業を展開するために、税金逃れの手段としてスイスを利用し、ペーパー会社を設立するロシア企業が何社あるのかを調べることも不可能だ。概して、ロシアの事業は少人数の代理店しか持たないため小規模に見える。

 スイスには多くのロシア人が居住している。公式にはロシア人人口は1万人を超えたと発表されているが、ドイツ、イタリア、イギリス、フランス、アメリカのロシア人人口と比較するとかなり控えめな数字だ。

 スパリンガー氏とフェチェリン氏はスイスとロシアの経済的なつながりが次第に緊密になれば、貿易の基礎がよりしっかりと確立されるという一致した意見を持っている。

 「スイスがロシアとの協力を深めることによって、今後数年間、ロシア企業がスイスに参入する傾向は一層強くなるだろう」

2008年の金融危機以来、スイスとロシアの間で貿易が増加している。

昨年、対ロシアの輸出は前年比で26%増加し、26億フラン(約2630億円)を計上した。それに対し、輸入(貿易、サービス)は41%増加、10億フラン(約1011億円)を計上。

2009年、対ロシア直接投資額は62億フラン(約6272億円)に上り、スイス企業150社がロシアで7万5000人を雇用した。

スイスは欧州自由貿易連合(European Free Trade Association)の加盟国であり、ロシア、ベラルーシ、カザフスタンによる関税同盟と自由貿易協定について協議を行っている。

スイスとロシアは2010年、2カ国間で行われる経済協力3カ年計画を2013年まで延長することを決定した。

スイスは7月、ロシア経済の近代化を目指し、ロシアの活動にさらに協力することに合意、新協定に調印した。

(英語からの翻訳、白崎泰子)

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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