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小さな銀河など食ってやる

光の物体 : 矮小銀河が、大きな銀河の傍でガスが少なくなっていく様子 ( 写真提供 : ルチオ・マイヤー ) gas stripping dwarf galaxy (Lucio Mayer)

チューリヒ大学とチューリヒ連邦工科大学 ( ETHZ ) が「暗黒銀河がどのように形成されたかを解析した」と発表した。

普通の大きさの銀河は、星を文字通り吸いこんでしまう。犠牲になるのは、この銀河の周りにある小さな銀河だ。

 宇宙の中で最も暗い場所は、暗黒銀河と呼ばれる。結構宇宙のあちこちにあるらしい。

暗黒銀河ができるまで

 このチューリヒの科学者グループを率いるルチオ・マイヤー氏によると、暗黒銀河が観測できるのは、この銀河の中にある、いくつかの星のおかげだ。

 「新しい技術と望遠鏡の出現によって、昔は見ることのできなかった弱い光の星や銀河を発見することができるようになりました」とマイヤー氏は語った。

 しかし、そもそもなぜ星や銀河が光を失うことになったのだろう。科学者たちはスーパー・コンピュータ・シミュレーションを使って、そのプロセスを調べた。3段階の過程を経るらしい。

 それは100億年前に始まった。最初に、衛星銀河が宇宙の紫外線によって温められる。すると矮小銀河が通常の大きさの銀河の軌道に近づき、温められたガスが吸い取られてしまう。

 同時に、通常の大きさの銀河が近づくと巨大な引力の力によって周りの星がはぎとられていく。最後に、それでもまだ大きな銀河の軌道にある矮小銀河に、「津波ショック」と呼ばれる現象が起きて、さらにまた多くの星たちが消えていく。

 後に残るのが、暗黒物質だ。はぎとられた星たちの、かろうじて残った証といえる。以前はこのような事実は知られておらず、科学者たちは、「暗黒銀河は太古から今あるような姿をしていたのだ」と思っていた。

宇宙の謎はまだまだ闇の中

 マイヤー氏の説明によると、このプロセスは「彗星が太陽の近くを通過するときに消滅する」、というような単純なことではないらしい。実際にコンピュータが分析した結果では、小さな銀河が大きな銀河を通り過ぎようとしたところで、しっぽをつかまえられて大きな銀河に飲み込まれるような形になるそうだ。

 この結果で、いくつかの銀河がなぜ奇妙な形をしているのかも説明がつく。また、天の川やアンドロメダ星雲の周りになぜ小さな銀河があまりないのかという謎も解けた。

 これまで発見された小さな銀河は、10個から20個だが、理論的には、この5倍から10倍多く見つかるはずなのだ。

 しかし、これですんなり全ての謎が解明されたわけではない。マイヤー氏のような天体物理学者は、「暗黒物質は矮小銀河が残したものだ」と結論づけたのだが、実際にそれが何であるかはまだ分かっていないのだ。

 暗黒物質は目に見えないだけに直接探索することができない。これが存在するということは、目に見える天体に彼らが与える重力からのみ、推論されているのだ。1970年代から1980年代にかけての調査では、人間に知られている宇宙のうち9割はこのような暗黒物質で占められているという結果がでている。

 「これが何であるか、実のところ、謎なのです」とマイヤー氏は認めた。「暗黒物質が何かの集まりだということは分かっているのですが、どんな物質でできているかについては、まだ見当もついていません。だからまずは暗黒銀河を調査することで、手がかりがつかめるのではないかと思っています」

コンピュータ・パワー

 何十億年以上もかけて銀河の構造は変化してきた。この過程を調査することは、地球上での生活と何の関係もないと思えるかもしれない。

 この調査には、多くの専門家が「最も進んだ情報技術システム」とみなすコンピュータが用いられた。並列コンピュータと呼ばれるものだ。これを使えば、情報は細かく分析され、それと並行して解析も行われる。このおかげでコンピュータ・シミュレーションは今までよりずっと早くなった。

 チューリヒでは、このタイプのコンピュータが2台使われた。マイヤー氏によると、この調査が成功したおかげで、彼らはこの分野でトップに躍り出たそうだ。

swissinfo スコット・キャッパー、 遊佐 弘美 ( ゆさ ひろみ ) 意訳

‐ 現在のところ、科学の世界ではビッグバン説が最有力。

‐ ビッグバンとは、約137億年前に起きた大きな爆発で、宇宙膨張が始まった時点を指す。この時、全ての方向に星がばらまかれた。

‐ 1927年、ベルギーの司祭、ジョルジュ・ルメートルは、初めて原始的原子 ( primeval atom ) の爆発によって宇宙が始まったという説を唱えた。

‐ 後にアメリカ人の天文学者、エドウィン・ハッブルが「遠方の銀河が、地球から一定の割合で全ての方向に離れていっている」ということを証明し、ルメートルの説を裏付けた。

- 暗黒銀河 ( dark galaxy ) とは、大きさは銀河ほどもあるのに、その中にほとんど星がない空間。

- 暗黒物質 ( dark matter ) とは、星であるのに光学的に観測できない物質。

- 暗黒銀河には、星はないが、ガスや宇宙の塵、暗黒物質などはある。

- いくつかの天体が暗黒銀河だとされていたが、後に間違いだと証明された。

- 矮小銀河 ( dwarf galaxy、小型銀河ともいう ) は数十億個以下の恒星からなる小さな銀河である。地球のある銀河系には2000億から4000億個の星が存在する。

- 我々の銀河系の中にある大マゼラン銀河には300億個以上の星があるが、矮小銀河に分類される場合もある。これ以外のものは通常の大きさの銀河とみなされている。

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