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小林監督が見るロカルノ国際映画祭

毎日午後から2本の映画を鑑賞し、3回ほどの審査員会議を経て受賞作品を決めることになるという小林政広監督 swissinfo.ch

金豹賞を受賞した監督は翌年、国際コンペティション部門の審査をするのが決まりになっている。昨年「愛の予感」で金豹賞を受賞した小林政広氏も、本年は審査員として再びロカルノを訪れた。

毎日2本の映画を、一般客に混じって観賞し審査を行う小林氏は、市内の小高い丘の中腹にあるホテルに滞在している。多くの映画ファンや関係者が映画館をはしごする熱気に満ちた街を見下ろすその宿泊先で、映画祭について聞いた。

swissinfo : ちょうど1年前、金豹賞を受賞なさってから今まで、どのようなことがありましたか?

小林 : 金豹賞を受賞してからの1年間、「愛の予感」の上映のため大変多くの映画祭へ行きました。ロッテルダムやブエノスアイレスでは、僕の特集を組んでくれましたし、モスクワでも作品が上映されました。ずいぶんいろいろなところに行きました。今やっと一段落したところです。

swissinfo : ロカルノでの受賞で、小林監督の作品が世界で有名になったということですね。

小林 : そうですね、「愛の予感」 は独り立ちしました。また、ロカルノで受賞したおかげで、ここに来る前に、作品を1本撮影したところです。子どもの話です。初めて16歳の子役を使って映画作りをしています。

swissinfo : アートディレクターのフレデリック・メール氏は、ロカルノ映画祭が長い間続いた成功の秘訣について、観客の存在を指摘しています。1年前、監督も観客からパワーをもらったという経験をされたのでしょうか。

小林 : 観客が応援してくれたというか、「愛の予感」を気に入ってくれたというか。そんなことで力を得たことは確かです。映画を観てくださった観客の反応を通してですが。カンヌ国際映画祭などは、公式上映では招待客がほとんどで、一般客は入場できません。ロカルノは一般の人が来るので、観客の反応が直接伝わるんですね。

swissinfo : 今回は審査員としてのロカルノ映画祭ですが、国際部門に選ばれた18本の映画にロカルノらしさを見ることができるでしょうか。

小林 : やはりロカルノらしいチョイスであると言えると思います。アーティスティックなものが多く、若い監督の作品が多いですね。主催者は、ロカルノが新人を発掘する場所になっているということを誇りにしていると思います。

swissinfo : 審査員としての1日はどのように過ごされるのですか? 

小林 : 普通です。朝ごはんを食べて、前の日の復習をして・・・。

午後から1日2本観ます。一般客と混じって審査員がこぞって観ます。上映後はほかの審査員と立ち話もします。食事も審査員は一緒なので、そこでも話をします。審査会議は最終的な決定のほかに1、2回あります。毎日2本の作品を観るというのは、結構集中していますので、大変ですね。

swissinfo : 審査員としての映画祭と監督としての映画祭は違うのでしょうね。

小林 : 去年は選ばれる側だったわけですが、今度はこちらが選ぶわけですよね。作品それぞれ良いところがあるので、( 審査員として ) その中から1本を選んでいくというのは、一生懸命に作っているものを裁くことで、凄く残酷なことです。

選ばれた作品は、あるレベル以下のものではないわけです。そこからの判断は好みでもあります。映画を新しさの観点で見ます。映画の世界にも流れというものがありますから、今の映画の流れに乗っているかどうかが判断基準になります。

swissinfo : 昨年は60周年で、アンソニー・ホプキンズも招待されましたが、一般にロカルノ映画祭には花が無いと、スイスのメディアは指摘しています。

小林 : 花が無いといえば花は無いです。映画祭なのですから、やはり派手な部分もあるべきだと思います。ただ、花のないことがロカルノ映画祭の特徴というか、良い部分です。もともと花の無い映画祭だから、好きになった人もいたのではないでしょうか。

すぐコマーシャリズムに乗ってしまう映画祭がほとんどな中、頑固に作品主義、良い映画だけを選んで上映しています。去年は60周年ということで、大変派手でした。しかし、僕が2003年に来た時 (「女理髪師の恋」で特別大賞を受賞 ) も、花といえる花はまったく無かった。これがロカルノ映画祭なのでしょう。主催者もカンヌを意識しているようですが、ロカルノらしく続けるのが良いのではないでしょうか。

swissinfo : ロカルノ映画祭は、文化のために巨額の寄付を喜んでする人たちが多いスイスであるにもかかわらず、予算が無いと言い続けています。招待される人も、金銭的に余裕のない人も多いのではありませんか。

予算が少ないからといって、映画祭自体が地味になってきているということはないでしょう。

また、映画祭の招待は常に4日間のホテル代だけ。飛行機代も出ません。カンヌでもベネチアでも4日間で、みな同じです。

アメリカの自主映画監督でしたが、字幕代まで工面してやってくる人もいます。映画祭での上映は、それだけの価値があるということではないでしょうか。それでも出したいという人たちがいるということです。上映することで、可能性が生まれる場が映画祭です。作品が良ければ賞金も出ます。

ピアツァ・グランデ 8000席。毎晩9時半から映画2本が上映される。
そのほか映画館などの会場で、10のスクリーンで上映される。
入場料 1本に付き15フラン、ピアツァ・グランデは32フランだが、1本だけの観賞なら22フラン。ピアツァ・グランデでも有効な1日フリーパスは47フラン。
( 1フラン約100円 )

1954年東京生まれ。
林ヒロシの名前でシンガーソングライターとして活動。
映画への情熱が募り、フランソワ・トリュフォー監督の弟子になろうと渡仏。しかし、トリュフォー監督には会わずに帰国。脚本家としてテレビドラマを多数手がけるが、42歳で映画監督に転向。デビュー作「Closing Time」でゆうばり国際ファンタスティック映画祭グランプリを受賞。その後、カンヌ国際映画祭に4回出品。ロカルノ国際映画祭では、第56回にも「完全なる飼育 女理髪師の恋」で特別大賞を受賞している。
その他主な作品
「海賊版 Bootleg Film」 ( カンヌ国際映画祭出品 )
「殺し KOROSHI」( カンヌ国際映画祭出品 )
「歩く、人」( カンヌ国際映画祭出品 )
「フリック」
「バッシング」 ( カンヌ国際映画祭コンペティション参加作品 )
「愛の予感 リバース」 ( ロカルノ国際映画祭金豹賞受賞作品 )
( 参考資料「魂の仕事人」)

今年で61回目を迎えるヨーロッパでも歴史ある映画祭。
ロカルノはチューリヒから電車で約3時間、ミラノから約2時間。スイスイタリア語圏、ティチーノ州にある人口1万4000人の小都市。
開催中は映画祭のシンボルである黄色に黒い斑点の豹のエンブレムで街が覆われる。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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