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「誰もが何らかの形で政治に参加している」

チューリヒでは昨年夏、ロシアのパンクバンド「プッシー・ライオット(Pussy Riot)」に賛同する人々が覆面姿でデモを行った Keystone

アラブの春、プーチン露大統領やダボスの世界経済フォーラム(WEF)に対する抗議デモ。人々はグラフィティやブログなどの新しい手段を用いて、国境を越え、こうした運動に参加している。近年では、インターネットを通じて不特定多数が集まりデモを行う「フラッシュモブ」も広まっている。

「ウォール街を占拠せよ(Occupy Wall Street)」運動やフラッシュモブは、市民が社会形成に関与しようとするときに用いる政治参加形態の一種だと、スイスの政治学者ドローテ・ド・ネーヴさんと同僚のティナ・オルトニヌさんは説明する。この2人の共著『Politische Partizipation jenseits der Konventionen(慣習にとらわれない政治参加の形態)』が先日、ベルリンで刊行された。

swissinfo.ch : 慣習的または非慣習的な参加形態とは具体的にどのようなものですか?

オルトニヌ  : 慣習的な政治参加の形態には、選挙、直接民主制における投票制度や嘆願書など、国民が明らかに参加を呼び掛けられているものが挙げられる。

しかし、「慣習」を定義づけることは難しい。なぜなら「慣習」は常に変化するものだからだ。かつて非慣習的と見なされていた行為が、今では慣習的と見なされていることもある。デモがそのいい例だ。何が慣習的で何が非慣習的であるかは、文化的、社会的規範によって異なる。

我々の目的は、これまでの研究過程で見過ごされがちだった政治参加形態や、まだ研究の対象にもなっていない最新の形態を考察することだ。

グラフィティとは、公共の場所に、匿名かつ無許可で描かれた絵や文字のこと。見方によっては公共施設の破壊行為、または芸術作品ともとれる。

フラッシュモブは、公共または半公共の場所に互いに面識のない人々が参加し、非日常的なことを行う即興の集会である。参加者は携帯電話やインターネットを通じて組織される。

「ウォール街を占拠せよ(Occupy Wall Street)」運動は、2011年10月にアメリカで起こった抗議運動。参加者はニューヨークの真ん中にテント村を設置し、社会的格差、銀行の投機ビジネスや経済界と政界のつながりを批判。この運動は、アラブの春の間にエジプトで起こったタハリール(Tahrir)広場の占拠に触発された。

swissinfo.ch : 非慣習的な政治参加形態が現在多くの人々に支持されているという結論に達していますが、グラフィティやフラッシュモブは実際どのくらい普及しているのですか?

オルトニヌ : 数字で表すのは難しいが、例えばグラフィティがいかに普及しており、多様なのか、またその内容がいかに政治的であるかは、辺りを見回せば一目瞭然だ。一方で、フラッシュモブは、政治的な催しに自ら進んで参加することなどまずないだろうと思われる市民をも動員する。すなわち、どちらの参加形態も一般市民に政治に対する意思表示の機会を与えているのだ。

ド・ネーヴ : しかし、こうした参加形態にはブームがあり、当初は流行していたものが次第に日常化され、あまり利用されなくなることは多々ある。新しい発想が次から次へと生まれてくるからだ。

我々の考えでは、誰もが何らかの形で政治に参加しており、自らの政治的意思を伝えようとする。それがたとえ養蜂家組合のような政治とは直接関係のない団体であってもだ。彼らは養蜂のための尽力を、政治的闘争とは見ていないだけなのだ。

swissinfo.ch : つまり、グラフィティやフラッシュモブは、ヨーロッパ諸国における民主主義の欠陥に対抗する手段、いわば「処方薬」のようなものなのですね?

ド・ネーヴ : 「処方薬」というよりは、民主主義の欠陥、つまり「病気」が思ったより進行していないという表れだ。もちろん、だからといって民主主義を憂慮する必要がなくなったわけではない。例えば今の民主主義体制では、若い世代を代弁する政治家が明らかに少ない、といった問題がある。

swissinfo.ch : 非慣習的な手段を使って政治に参加することで、そうした欠陥を補うことができるのですか?

とりあえず証明されたにすぎない。人々は、政治がどうあるべきかという考えを持っている。政情や政治的プロセス、そしてその当事者たちを批判することで、人々の関心事は社会に取り上げられていく。

しかし、実際に政治を動かすことができるのは中央の政治機関や大企業、そしてロビー団体だけだ。だからといって「投票に行かなくても大丈夫。グラフィティを描けばいいことだ」と割り切れるほど簡単な問題ではない。

スイスのスタンス(Stans)出身の政治学者ドローテ・ド・ネーヴさんは、現在独ハーゲン通信制大学政治学研究所の臨時教授を務める。

ウィーン大学政治学研究所のティナ・オルトニヌさんと共同で数々の学術論文を発表。共著『Politische Partizipation jenseits der Konventionen(慣習にとらわれない政治参加の形態)』はブードリッヒ出版(Budrich Verlag)より刊行された。

swissinfo.ch : 非慣習的な政治参加の形態は国によって違うのですか?

ド・ネーヴ : さまざまな場所で全く同じグラフィティを見つけたことがある。例えば、ウィーンとマルセーユで同じヘラジカの絵を見かけた。非慣習的な政治参加の形態は法律や規制に縛られていないため、国境を越えた情報交換が頻繁に行われている。その中には政治に影響を与える新しいアイデアやノウハウなども多く含まれている。

興味深い例は、批判的な消費者行動だ。これに対し、グローバル企業は非常に敏感に反応するようになった。一部の地域だけではなく、場合によってはそれがあっという間に世界中に広まる危険性があるからだ。サウジアラビアで頒布されたイケア(IKEA)のカタログがいい例だ。イケアは世界各地で起こった抗議に素早く対処し、カタログから女性の写真の削除を決めた。

オルトニヌ : 重要なのは、結束という概念だ。ロシアのパンク・バンド、プッシー・ライオット(Pussy Riot)を擁護する国際的な結束表明がいい例だ。また、ウォール街占拠運動に関連する結束表明は、アラブの春に続いて出されたという点で非常に重要な意味を持つ。こうしたケースから分かるように、結束という概念は国境を越えて広がり、人々はある種の連帯感のもとに過激なテーマを展開する。

swissinfo.ch : アラブ世界での抗議運動を非慣習的と見ますか?

ド・ネーヴ : それはまた別問題だ。なぜなら、アラブ世界の政治システムは民主主義システムではないからだ。さらに、慣習的と見なされる手段はかなり限定されている。公共の広場に人々が集合しただけで、すでに慣習に反する行為と見なされる。ヨーロッパではごく当たり前のデモも、カイロのタハリール(Tahrir)広場では非慣習的なのだ。

オルトニヌ : 今回出版された本では、合法的および非合法的な参加形態をそれぞれ分けている。我々にとっては、北アフリカでの抗議運動は全く合法的だ。市民には自らの意見を述べる権利がある。しかし、アラブの独裁政権にとっては、当然のことながら明らかに非合法的行為なのだ。

(独語からの翻訳 徳田貴子)

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