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政府の厳しい禁煙促進計画

14歳から65歳までの人の3割以上がたばこを吸う。しかも18歳以下の人口のうち4万人が喫煙者といわれる、たばこ天国のスイス。 Keystone

世界保健機関(WHO)が2003年5月21日に採択したたばこ規制条約をスイスは6月末、批准した。連邦内務省の健康局は、禁煙促進運動として数々の対策案を提示し、青少年がたばこを吸い始めないようにしたり、間接禁煙者の保護に乗り出す。

具体案として、たばこ税を大幅に引き上げる。たばこの宣伝を禁止し、自動販売機には18歳以下の人が買えないように技術的措置を取るか、販売機そのものを一切禁止するといった、これまでにない厳しい制限が提案されている。

連邦内務省健康局はこのほど、たばこの厳しい規制案を提示した。遅くとも2007年にはたばこの宣伝の大幅な規制と、スポーツやコンサートなどイベントでたばこ会社がスポンサーとなることを禁止する法律を成立させる意気込みである。さらに、たばこ税を大幅に引き上げ末端価格を引き上げることも対策の一つとして挙げられている。このほか、間接喫煙者の保護、職場での禁煙促進なども考えられているが、飲食店での喫煙の全面禁止や18歳以下の消費者への販売禁止などといった措置はいまのところ考えられていない。

害をアピールして青少年にたばこを吸わせない

 昨年10月1日からたばこ税が1箱0.3フラン(約25.5円)に引き上げられ、よく買われている種類のたばこの値段は以前の4.9フラン(約420円)から5.2(約440円)フランになった。さらに今年秋には0.5フラン(約42.5円)の値上げが予定されているが、今後の目標としてまずは7.5フラン(約640円)まで引き上げ、その後も更に引き上げるという。連邦政府はたばこの税金が、最終価格に占める割合を欧州諸国の最低レベルである57%以下には抑えるつもりではいるが、これまでスイスのたばこの価格が他国より安かったこともあり、引き上げ幅は大きい。

 18歳以下の青少年がたばこを買わないように、たばこの自動販売機を使う人にはカードを発行するか、自動販売機そのものを全面禁止にするかの2つの案が出ている。

 WHOのたばこ規制条約では、たばこの害を明示する文章がパッケージの面積の3割を占めるよう決められているが、スイスも条約にしたがって、これまで以上に大きく表示するよう要求する。また、たばこがもたらす害に関するキャンペーンを張り、喫煙者の真っ黒になった肺の写真などでたばこの怖さを青少年の消費者に訴えるつもりだ。

広告の禁止の意味

 現在テレビでのたばこのコマーシャルは禁止されている。今回の規制案では、街の広告や映画館でのコマーシャルの上映、また新聞や雑誌の広告も禁止し、専門雑誌および販売店での広告のみ許可する。

 広告は各たばこ会社の競争のためで、喫煙を促進しているわけではないという意見もあるが、7月18日付けの日曜のみ発行されるノイエ・チュルヒャー・ツァイトゥングのインタビューで連邦健康局のトマス・ツェルトナー局長は、「広告でたばこが、日常に密接した消費財として扱われるため、広告を見た人はたばこは無害であると思い込むこともありうる」と広告の危険性を訴えた。

 1993年の国民投票でアルコールとたばこの広告を大幅に制限するイニシアチブが7割以上の反対で否決されたがツェルトナー局長は、「当時と今では国民の認識が大きく変化した。当時は、広告を禁止することでスイスが他の欧州諸国の中で孤立すると考えられていたが、いまや、たばこに関してスイスは開放的過ぎて孤立している状態だ」と語り、たとえ広告禁止案に反対する動きから再度決定を覆すことを要求するレフェレンダムが成立して、国民投票となっても勝利する可能性は高いと見ている。さらに、イベントのスポンサーになると、たばこの広告を開催地などに掲げることになるので、たばこ会社がスポンサーになることも禁止するという。

 経済的にも大きな影響を与えそうな禁煙促進策だが、たばこが健康を害することは明らか。医療費にたばこ税を充てるなどの提案は、今後の医療保険の破綻問題の一つの解決法でもあり、国民に支持される可能性は高いのではないか。

スイス国際放送 佐藤夕美 (さとうゆうみ)

喫煙は健康を害する。
ガン、呼吸器の病気、脳溢血などにかかりやすくなり、母体であれば胎児にも影響する。
スイスでは喫煙による死亡者は1日25人で、エイズ、麻薬、アルコール、交通事故、殺人事件の被害者、自殺者の合計死亡者数を上回る。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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