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教育現場の性暴力 約100人の教師がブラックリストに

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教員ブラックリストで一番多いのは小学校の教師だ © KEYSTONE / CHRISTIAN BEUTLER

スイスには教師のブラックリストが存在する。現在リストに載っている95人の多くは性犯罪を理由に教員免許を取り上げられた小学校の教師だ。しかし、すべての州が問題のある教師を報告しているわけではない。

ドイツ語圏の日曜紙ゾンタークス・ツァイトゥングは先月、州教育委員会代表会議(EDK/CDIP)外部リンクが持つ教員ブラックリストの内容の一部を明らかにした。同紙はリストを閲覧する権利を巡り8カ月にわたり争っていた。

教員ブラックリストは15年前、州教育委員会代表会議によって作成された。2008年以降は、すべての州にリストの作成が義務付けられている。スイスでは、連邦ではなく各州が教育を管轄する。リストの目的は、小児性愛の性向、何らかの中毒や精神病を理由として、ある州で教職に就くことを禁止された人が、別の州で就職するのを防止することだ。

ブラックリストに記載された教師の3分の1がチューリヒ州の出身だ。次いで、ザンクト・ガレン州(15人)、ベルン州(14人)、ルツェルン州(11人)が多い。全体では、95人中43人が初等教育の教員、24人が中等教育の教員だ。ほぼ全てのケースで教職に就くことが無期限に禁止される。

リストは無記名で、関係者以外には氏名、年齢、性別などの詳細が伏せられている。しかし、ゾンタークス・ツァイトゥングは、いくつかの州から詳細を聞き出した。リストに載っているルツェルン州とチューリヒ州の教師はすべて男性。ザンクト・ガレン州では2人が女性だった。

教師による性犯罪

同州の教育担当大臣で州教育委員会代表会議議長のシルビア・シュタイナーさんは、「チューリヒ州の場合、半分は児童ポルノに関わるケース」と同紙に対し明らかにした。残り半分もほとんどが性犯罪で、「その他の犯罪や麻薬、精神病といったケースもあるが、むしろ稀だ」とシュタイナーさんは話す。

シュタイナーさんによると、チューリヒ州では、教師を採用する過程で、教職に就くことを禁止された教師を除外するためにブラックリストを利用している。ブラックリストは、他の応募者に対する抑止力にもなる。

しかし、教師として常に正しく振る舞っている人でさえ情報提供を求められるのでは、という批判がある。シュタイナーさんは、「初めから疑って掛かる雰囲気を作らないこと」が重要だと答えた。

シュタイナーさんは、ユルク・イェッゲ事件に触れた。特別支援教育専門の元教師で教育書の有名な著者、ユルク・イェッゲが、複数の教え子との性的な接触を認めたこの事件では、スイス中に衝撃が走った(ただし、事件の大半が時効で告訴は取り下げられた)。このような事件が起きると、人々は混乱し警戒するが、事実を相対的に見る必要があるとシュタイナーさんは指摘する。「チュ―リヒ州には1万6千人の教師がいる。ブラックリストに載っているのは、そのうちの32人だ」

ところが、過半数の州(14州)では、ブラックリストを利用していないとゾンタークス・ツァイトゥングは報じた。フランス語圏のヴォー州やスイス南部イタリア語圏のティチーノ州がそうだ。

ヴォー州は、リストを利用していない理由を制度上の問題だと説明した。各州は、教員免許を取り上げたすべての教師を報告する義務があるが、ヴォー州には教員免許制度がない。そのため、教員免許を取り上げることは不可能で、ブラックリストを作る法的根拠が無いと同州の広報官は言う。

リストではなく、厳格な審査で

ヴァレー(ヴァリス)州のように、ブラックリストに載せるようなケースはこれまで発生していないと主張する州もある。また、ティチーノ州のように、原則としてブラックリストの作成に不参加の州もある。しかし、実際にはティチーノ州でも教師による性暴力があったと同紙は具体例を挙げて報じている。

ヴォー州とティチーノ州は、教師は採用の過程で厳格に審査されると強調する。犯罪歴を調べ、私生活や職場で子供との接触を禁止されていないかを確認する。

州教育委員会代表会議は、個々の州についてコメントすることは控えている。しかし、ドイツ語圏教職員組合(LCH)外部リンクは、ブラックリストは非常に重要な措置だと話す。「ただし、すべての州が定期的に報告して初めて、ブラックリストが有効に機能する」とLCH会長のベアト・ゼンプさんは指摘した。

そんな中、ヴォー州はブラックリストの作成に参加することを決定。しかし、そのための法的根拠がまだ整っていないと同州広報官は話す。「(法整備する)意思はある」と広報官は同紙に対し強調した。


(英語からの翻訳・江藤真理)

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