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新エネルギーは「ヘリオチューブ」で

オーストリアのデュルンローアでテスト用に作製された「ヘリオチューブ」の前に立つヘリオヴィスCEOのフェリックス・ティーフェンバッハー氏 swissinfo.ch

地球温暖化が叫ばれている今日、太陽エネルギーの活用はより注目されるようになった。現在、バーゼル出身の研究者2人が、空気を吹き込んで膨らませることのできる管に太陽熱を集めて発電する方法をウィーンで開発している。市場に出回るのは2016年だという。

巨大なソーセージのようなこの管は「ヘリオチューブ(Heliotube)」と呼ばれている。

 試作品の長さは35メートル、直径は約2メートルほどある。

 

 オーストリアのニーダーエースタライヒ州ツヴェンテンドルフ(Zwentendorf)のデュルンローア(Dürnrohr)蒸気発電所。スイスの2人の開発者はここに客員として迎えられ、敷地内に設置されたテスト用のヘリオチューブを使って3月からテストを行っている。

 太陽エネルギー開発会社「ヘリオヴィス(Heliovis)」のディレクター、フェリックス・ティーフェンバッハー氏は嬉しそうな顔で吉報を知らせる。ヘリオチューブは、この日の午前に技術監査協会(TÜV)の監督官が行った溶接箇所のレントゲン検査に問題なく合格したのだ。

 しかし、同時に継電器が故障するというティーフェンバッハー氏をいらだたせるアクシデントも起こった。そのため中の圧力が減少し、チューブがしぼんでしっかりと固定されなくなった。そこへ突風が襲い、チューブの外皮が傷ついてしまったのだ。

 エンジニアが継電器の機能を回復させるべく修理を行っている間、量子物理学者のティーフェンバッハー氏はヘリオチューブがどのように日光をエネルギーに変えることができるのかを説明する。

 原理はごく単純だ。太陽集光器としての機能を持つヘリオチューブには素材が異なる数種類のホイルが溶接されている。上部は透明だが、下部は頑丈な素材でできており、内側の底の部分には反射鏡と同じ機能を持つホイルが貼られている。その下は空洞で、ここの圧力を変えることによってホイル面の角度を調節できるようになっている。ホイル面の真上、管の中の上部には細いチューブが通っている。これは光の吸収体で、ホイルの表面の角度を調整することで、ホイルに当たった日光を正確にこの吸収体に反射させるという仕組みだ。

 

 「日光が黒いチューブに吸収されると熱が発生する。これによってチューブ内に送り込まれた水が熱せられ、蒸気が発生する。さらにその蒸気がタービンを稼動させることで発電することができる」とティーフェンバッハー氏は説明する。

魅力的なビジネスプラン

 ティーフェンバッハー氏がウィーン工科大学に在籍するスイス人研究員のヨハネス・へフラー氏に出会ったのは2007年。へフラー氏がアイデアを語った20秒後、この原理が素晴らしいビジネスプランの条件をすべて満たしているとティーフェンバッハー氏は察知した。市場は非常に大きい上に、アイデアもそれを生産することも至って単純だったからだ。

 ティーフェンバッハー氏はその翌年、特許を取得した技術を商品化するために小さな事務所を構えた。2009年にはガレージの中に会社ヘリオヴィスを設立。2010年には事務所と作業場を合併させ、オーストリアの首都ウィーンの南に位置する工業地帯ヴィーナー・ノイドルフ(Wiener Neudorf)に移転。今日では18人がこのプロジェクトに携わっている。

 プロジェクトにはもう1人、バーゼル出身の物理学者サムエル・クッター氏も携わっている。クッター氏は2010年以来、ヘリオヴィスの経営者でもある。ドイツの大手エネルギー会社エーオン(E.ON AG)でエネルギー分野に関して沢山の経験を積んできた。

最良の素材を求めて

 ヴィーナー・ノイドルフにある会社を訪ねると、数人のエンジニアが建物の前でテスト用のチューブを膨らませていた。彼らはさまざまなホイルに適した完璧な素材を見つけるために根気よくテストを繰り返す。

 「目下の苦労は、最適な素材を見つけることだ」とティーフェンバッハー氏は語る。ホイルの素材は紫外線や悪天候、湿度に強く、傷つきにくく、洗浄可能でなければならない。こういった完璧な素材を見つけることは容易ではない。

 現在、3種類のホイルを1台の機械で製造し、ロールに巻いてどこへでも配達ができるようにする計画を進めている。当然、全ての素材は今日明日のうちに開発できるものではない。そのため、ヘリオチューブの発売は2016年を目標にしている。

低コストの太陽エネルギーを目指して

 このプロジェクトの目的は太陽光発電を効率化することではなく、できるだけ低いコストで発電することだという。「今日の太陽エネルギーはコストが高い」とティーフェンバッハー氏は語る。

 ヘリオチューブの材料費を低く抑えれば利点が増える。重さを約10分の1に減らせば、従来の楕円形の反射鏡よりも生産コストが低くなり、さらに設置作業代もあまりかからなくなるとティーフェンバッハー氏は見込んでいる。

 通常の放物面鏡のコストは1平方メートルあたり約350ユーロ(約38000円)かかるが、ヘリオチューブの素材は同じ面積で約90ユーロ(約9800円)しかかからないという。

発電所は南に建設

 最終的に、ヘリオチューブは長さ200メートル、直径12メートルの大きさに仕上がるように計画されている。また、チューブ単体では使用することができないため、ヘリオチューブは個人宅の庭での使用には適していない。

 そのため、ヘリオチューブを利用するのは必然的に企業になる。「こういった発電所は小単位で建設することができないため、非常に大きな敷地が必要だ。また、発電量は5万キロワット時から10万キロワット時ぐらいの規模になる。これは、再生可能エネルギー発電所にしては大きいが、100万キロワット単位で発電する原子力発電所と比較するとまだ小規模だ」とティーフェンバッハー氏は語る。

 また、巨大なヘリオチューブはスイスのような高緯度の地域に建設されることはないという。ヘリオチューブは光学システムによって日光が全て一点に集まるように設計されている。そのためにも太陽は必須だ。雲に覆われやすい地域では充分に発電できないという。

 「つまり、ヘリオチューブを建設する場所は、ほぼいつも日が照っていて、人口がごく少ない地域でなくてはならない。それは典型的な乾燥地域、南スペインかサハラ砂漠だろう」

日光を利用して発電するシステムは多種多様。

最も知られているシステムはソーラーパネル(太陽電池)で、太陽エネルギーを直接電気に変える。ソーラーパネルは弱光でも発電することができる。

太陽エネルギーは発熱を目的に利用することもでき、熱をさらに電気に変換することもできる。パラボラアンテナのような形をした放物面の反射鏡を利用して発電するという考えに基づく「ヘリオチューブ」も日光を集めて熱を作り出し、それを電気に変換するシステム。

(独語からの翻訳、白崎泰子)

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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