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旧五菱会の資金52億円のゆくえ

スイスが犯罪資金の洗浄に適しているというのはすでに「神話」。取り締まりは厳しくなっている。 swissinfo.ch

チューリヒのクレディ・スイス銀行の口座に預けられた日本の犯罪組織の資金が州当局に没収され、現在チューリヒ州の口座に保管されている。没収されたのは、日本の暴力団山口組系旧五菱会のヤミ金融事件に関連した資金6,100万フラン(約52億円)である。

州検察の決定に対し、どこからも意義申し立てがなかったことから今後、資金の分配の話し合いが連邦政府とチューリヒ州で行われることになる。スイスの法律によると、日本政府も資金の分配を受ける権利がある。

今回没収された6,100万フランは、チューリヒ検察史上最高額。8月1日に発効された「没収された資産の分配についての連邦法」によると、分配率は連邦政府が3割、チューリヒ州が7割だが、関連した外国政府も分配を受ける権利があると定められている。しかし、日本では海外で没収された資金の返還請求について定めた法律がない。一方、スイス当局は日本政府から協議申し入れを待っている状態で、資金の分配の最終決定にはまだ時間が掛かる模様である。

日本からの話し合いの申し入れを待っている

 チューリヒ州検察庁のイヴォ・ホプラー経済犯罪捜査部長は、「われわれは、日本政府や被害者に対して道義的責任がある。現在資金はチューリヒ州のものとなっているが、日本政府からの分配についての協議の申し入れを待っている状態だ」と言う。

 同事件では日本の法律に詳しいチューリヒ大学法学部クリスティアン・シュワルツェネッガー教授が、検察と協力し法律面で助言を行っている。「両国の分配については、協定が現在無理であれば覚え書きでも十分。ただし、将来、同等の事件が起こった場合、日本政府もスイス政府に対して分配の話し合いに応じるといった、相互主義であることが条件」との意見だ。

 さらに、「チューリヒ州は財政難にあり、没収した資金を早く歳入として使えないのかという圧力が出かねない。スイス連邦司法省に対し日本政府からの、準備協議の申し入れでもよいから正式な申し入れを待っている」とチューリヒの現状を語った。 

犯罪資金に対するスイスの取り組み

 口座の所有者であった梶山進被告 =組織犯罪処罰法違反罪などで公判中= は、日本から香港を経由しスイスで資金を洗浄し、再び日本へクリーンなお金を戻すつもりだったとみられている。スイス当局および金融界は「犯罪に関連する資金に対しては、敏感だ。取り締まりには、真剣に取り組んでいる」とホップラー経済犯罪捜査部長は言う。

 銀行の守秘義務などがあるスイスは、マネーロンダリングの天国ではないかなどと思われがちだ。今回は日本でも香港でも発見できなかった資金がチューリヒ当局によって発見された。スイスは犯罪資金に関する経験も豊富なだけ、取り締まりのレベルは高いといえよう。

スイス国際放送 佐藤夕美 (さとうゆうみ)

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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