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時計・宝石のオークションの都市、ジュネーブ

ドイツのヘンケル・フォン・ドンネルスマルク伯爵の妻であり、19世紀のパリの社交界を魅了した高級娼婦、ラ・パイーバが所有していたダイヤモンド Keystone

5月12日から17日までにジュネーブで国際競売会社が同時に宝石・時計、高級ワインのオークションを行い、1億3730万フラン ( 約135億円 ) の売り上げを記録した。ジュネーブが時計・宝石オークションの世界的首都となった理由を探ってみる。

 今回、国際競売会社クリスティーズはジュネーブにおける最も大きな時計競売を行い、2500万フラン ( 約24億7000万円 ) の売り上げ、宝石部門では3000万フラン ( 約29億7000万円 ) を記録した。

 今週、行われた競売には時計専門の競売会社アンティコルムが1830万フラン ( 約18億円 ) の売り上げ。563点が競売にかけられ、うち、1931年制作のフィリップ・パテックの13の複雑機能を持つ懐中時計は92万8900フラン ( 約9190万円 ) で競り落とされた。

国際競売会社サザビーズも4900万フラン ( 約48億5000円 ) の売り上げを出し、話題となったドイツ伯爵の2つの巨大ダイヤモンドは予想価格の2倍近い967万フラン ( 約9億5700万円 ) で落札され、オークションの幕を閉じた。

どうしてジュネーブ?

 国際競売の好調な勢いに、経済誌「ビラン」のステファン・ブノワ・ゴデ編集長は「これほど、珍しい品物が高価になったことはない」と語る。ジュネーブが時計・宝石オークションの首都となった背景には数多くある時計メーカーや中東のオイルマネーのせいだけではないらしい。

 ジュネーブでオークションが始まったのは1969年、クリスティーズがスタートを切った。インドの王族、アガ・カーン三世の息子と結婚、離婚していたトップモデル、二ナ・ダイアー ( 男爵の称号も持つ ) が自殺し、その多くの美術品と宝石を売ることになった。ところが当時、これらの宝石を本社の英国に持ち込むには高額な関税を支払わなければならなかった。そこで候補地に挙げられたのがスイスと香港だった。

「ジュネーブは地理的にヨーロッパの中心地で、伝統的な安全性、美術品や資本の輸出入に一切の拘束がないことで選ばれた」とクリスティーズは説明する。これを機にジュネーブにオークションが定着していったという。

 クリスティーズの欧州社長フランソワ・キュウリエル氏は「ジュネーブでは事務処理が簡単なのと、輸出入に関するライセンスが不要なのは大きい利点です」と語る。また、「宝石や時計の購入者がスイスに住んでいない場合、買い手に消費税の7.5%が掛かかりません」という。

時計専門競売店のアンティコルムのオスヴァルド・パトリッツィ社長は「16世紀から始まった時計の街ジュネーブという象徴的な意味もあるが、税制など有利な法体制が整っていることも大きい」と分析する。「しかし、香港やニューヨークも優位にあります。ジュネーブでオークションを開くにはお金がかかるため、この優勢が保てるかどうか」と不安を隠せない。

インターネットは競売を変えたか?

 これには買い手や売り手の変化も影響しているようだ。キュリエル社長によると「30年前は売り手はヨーロッパの貴族などの遺産が中心で、買い手の80%が業界人だった。しかし、現在では売り手は遺産相続か業界人。買い手をみると業界人は30%程度で後は個人のコレクターです」と分析する。

 アンティコルムのパトリッツィ社長は「時計に関しては若く、金持ちの企業家が新しい買い手」と説明。インターネットでオークションに参加できるため、世界中のコレクターへ普及していったという。

 アンティコルムの今回の競売では競売専門サイト、「e-bay」を通して10万人の人がインターネットで鑑賞していた。同社のインターネット上での売り上げは10%前後だが、この数字は常に上昇傾向にある。パトリッツィ社長は「しかし、インターネットでは直に品物が見られないので競売会社への信用が大事です」という。

 一方、高級品を主とするサザビーズ社は品物が高値であるためと、オークションのショー的な場面を大切にするためにオンライン・オークションを行わない方針を取っている。「芸術品をオークションに足を運んで買うという夢は大事ですから」とサザビーズのフレデリック・ライアット広報担当は言う。

swissinfo、 屋山 明乃 ( ややま あけの )

5月14日から20日まで行われた各国際競売会社によるオークションで、時計専門の競売会社アンティコルムは18億円の売り上げ。クリスティーズとサザビーズは宝石と時計部門で、それぞれ55億円と49億円の売り上げを出した。

今春の売り上げはサザビーズが前年比で50%増、クリスティーズが48%増と現在のアートマーケットの好調を裏付けた。

ジュネーブでは毎春、同時期に幾つかの競売会社が時計・宝石のオークションを行い顧客のシェアーができるようになっている。

ジュネーブはヨーロッパの中心であるという地理的な利点のほか、多くの有名時計メーカーが所在し、税制など他の都市と比べて利点が多い。

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