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最後の日々はホテルで

入居者を慰める素晴らしい景観 swissinfo.ch

現在、スイスのホテルは今までになく苦境に追い込まれており、この10年でさらに800件のホテルがつぶれると予測されている。ホテル経営者も、新しい活路を見出さなくてはならない時代だ。

インターラーケンに近いホテルは今までの路線を大幅に変更し、新しい市場に目をつけた。ホテルを老人ケア施設として使ってもらおうというのだ。

 シュレッスリ老人ケア施設に入居する83歳のカール・シュバイングルーバーさんはご満悦だ。「まるでホテルに住んでいるみたいですよ!特に景色が素晴らしくてね」

最後の日々をホテルで

 この老人ケア施設を経営するのはルップレヒト夫妻だ。奥さんのアストリットさんとご主人のハンスペーターさんは、2年前からビリエンツ湖畔にある彼らのホテルを思い切って老人ケア施設に改造した。準備が整って、最初に入居者を受け入れたのは1年前になる。シュレッスリは「小さなお城」という意味だ。

 ハンスペーターさんは語る。「今までは2、3日の滞在だったお客様に、ずっと長い間滞在して頂けるのは良いことです。こちらとしてもお客様と親密な関係を築くことができます。ちょっと予想外だったのは、入居された10数人のお客様のうち、半分の方が数カ月で亡くなってしまったことです。ここを終の住み家と決めて行動に移すまでに、長い時間がかかったり、病気が悪化したりしたのでしょう」

 事実、入居者は最初の1年で3分の1近くが亡くなる。しかし、空きが出るとすぐに次の入居者が決まるほど、人気は高い。ホテル時代には40%しか部屋が埋まらなかったのだが、今では80%も埋まっている。

スイスのホテル事情

 スイスのホテル業界は、90年代初期からずっと経営不振から立ち直れないでいる。特に中級ホテルは、スイスの旅行業界の中でも、最も痛手を受けた。多くは昔ながらの家族経営のホテルだ。過去十数年で約1000件のホテルが倒産し、残った5600件のうち800件が今後10年でつぶれると予想されている。

 たくさんのホテルが老人ケア施設として公的基準に沿った改装を行い、売却されていった。シュレッスリも例外ではなく、最後に利益を出したのは90年代初期なのだが、ルップレヒト夫妻は売却するつもりは毛頭ない。年金生活にはまだ早い。なんとかやりくりして、ビジネスを軌道に乗せたいとこれまで努力してきた。

将来を見据えて

 ルップレヒト夫妻が目をつけたのは人口分布の統計だ。64歳以上のスイス人の数は1950年から1990年にかけて2倍になった。79歳以上に限ると、この数は4倍になる。ケアが必要な老人は、現在スイスに12万5000人いると見積もられているが、2020年にまでにこの数は20%増えるとされている。

 現在、スイスでは老人が介護なしで住む老人向けアパートが人気だ。しかし、ハンスペーターさんは考えた。このような老人向けアパートはそのうち需要が減るのではないか。「在宅介護の質が向上するに従って、人々は年を取ってもなるべく自宅で過ごしたいと思うようになるのではないでしょうか。するとケアが必要な施設に入る平均年齢は、今よりぐっと上がって85歳となると見ています」

アパートと一体のケア施設

 老人ケア施設を経営するには、ライセンスが必要だ。ルップレヒト夫妻は、まだ州のライセンス規定が全部発表される前にこのチャンスに飛びつき、80万フラン(約7200万円)を投資した。

 スイスの公的基準が、ケア施設に対して求めるものは多い。シュレッスリでも避難出口や火災探知機システムのグレードアップ、車椅子が最低3台は入る大きなエレベーターなどを備え付けなければいけなかった。このエレベーターは、特別なケア設備のついたベッドも入る大きさだ。

 このライセンスを持った施設に入居すれば、サービスの多くは福祉や健康保険で賄うことができる。つまりそれだけ多くの入居者を期待できるわけだ。

 しかし、ルップレヒト夫妻は念のため、元ホテルだった施設の隣に老人向けアパートも建設している。このアパートを購入した人なら、誰でもすぐ隣のケア施設に移れるというシステムだ。

swissinfo、デイル・ベヒテル 遊佐弘美(ゆさひろみ)意訳

連邦統計局によると、79歳以上のスイス人は2040年までに2倍以上の55万人になる。
この年齢層は、現在総人口(740万人)の4%。
2010年までに、有権者の半数以上が50歳以上になる。

‐連邦観光局によると、過去十数年で約1000件のホテルが倒産し、残った5600件のうち800件が今後10年でつぶれると予測されている。

‐最も痛手を受けたのは、高級ホテルと格安ホテルの狭間にある中級ホテル。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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