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期間限定の味!ベアラオホ ~春はニンニクの香りと共に~

ライン川の北側斜面に群生するベアラオホ。 swissinfo.ch

4月に入ってからは、長雨が続いたり、気温が10度以下になったりして寒暖の差がまだまだ激しいものの、スイスにもようやく「春」が来た。この時期、我家の定番行事になっているのはベアラオホ(Baerlauch=熊のネギ、行者ニンニクの一種)摘みである。5年ぐらい前、自宅近くのライン川沿いを散歩していた時に、どこからともなく漂ってくるほのかなニンニクの香りに気づいたのがきっかけだ。それ以来、毎年ベアラオホ摘みに出かけるようになった。

 ベアラオホをご存じでない方のために、簡単にご紹介しよう。ベアラオホはユリ科ネギ属の多年草で湿気の多い半日陰に群生する。葉は長さ15cm、幅5センチぐらいの流線形で、球根は大きさも形もラッキョウによく似ているが、食用にできるのは葉の部分だけだ。その名の通り冬眠からさめた熊が好んで食べることから、この名がついたようだ。5月には白い可憐な花が咲き、一面白いお花畑のようになる

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 ベアラオホは日陰の道ばたや林の中によく見かける、スイスではごくポピュラーな春の山菜である。3月中旬あたりから春の到来を告げるかのように、スーパーの店頭には生のベアラオホをはじめ、ベアラオホ入りバターやソーセージ、スパゲティソース等の加工食品が次々に並びはじめる。

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 ベアラオホと同じ仲間の「行者ニンニク」は東北、北海道を中心に日本にも生息している。ただし、かなり山奥に行かないと手に入らない希少で高価な山菜らしい。事実、私は日本で食べた覚えがまったくない。行者が厳しい修行に耐えるために食べたと言われ、ニンニクと同じ成分(アリシン)を豊富に含むのでスタミナ増進や、血液をサラサラにする効果があると言われている。「熊ネギ」と「行者ニンニク」という名前のつけ方も面白い。熊も行者もベアラオホを貴重な栄養源、エネルギー源としていたのだろう。北海道ではアイヌ民族が好んで食べたそうで「アイヌ葱」とも呼ばれている。

 さて、ベアラオホ摘みにはタイミングが最も大事である。というのは、暖かくなるとすぐに大きくなって葉が硬くなり独特の香りが飛んでしまうからだ。経験から言うと葉の長さが10cm程度の頃が最も香りが強く、葉も柔らかくて一番おいしいと思う。だから毎年この時期は、ライン川沿いを頻繁に散歩しながら今か今かとそのタイミングを計るのだ。

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 4月最初の日曜日、この日はよく晴れて暖かく絶好の「ベアラオホ摘み日和」だった。夫と身支度を整え、(といっても、古いズボンとスニーカーを履き、軍手をはめてビニール袋を片手に持つだけ)いざ出陣!ライン川の斜面には、食べ頃のベアラオホがソヨソヨと春風になびき一面に広がっていた。バランスを崩さないようにゆっくりと斜面を下りながら、かがんでベアラオホを摘みとる。斜面はかなり急なうえに湿気のため滑りやすく、川縁には安全柵もないので足を踏み外せば川にドボン!である。実はこの体勢での作業は結構辛いのだが、美味しいものを食べるためには我慢、我慢。葉を摘む時に気をつけることは、球根を傷めたり引き抜いたりしないようにすること。これは来年の収穫を守るためで、ベアラオホを摘む人たちの間では暗黙の了解になっている。

 2人で半時間余り摘んで、袋一杯のベアラオが収穫できた。まずは千切りにしてサラダに混ぜて頂く。フレッシュな春の香りが口一杯にひろがる瞬間だ。残ったベアラオホは、オリーブオイル、松の実、塩、胡椒、パルメザンチーズを加え、ミキサーですりつぶしてスパゲティソースにした。スイスではニラがなかなか手に入らないので、ベアラオホをニラ玉風に卵と炒めたり、餃子にいれたりしても結構美味しい。もうしばらくはスイスの春の味を楽しめそうである。

森竹コットナウ由佳

2004年9月よりチューリッヒ州に在住。静岡市出身の元高校英語教師。スイス人の夫と黒猫と共にエグリザウで暮らしている。チューリッヒの言語学校で日本語教師として働くかたわら、自宅を本拠に日本語学校(JPU Zürich) を運営し個人指導にあたる。趣味は旅行、ガーデニング、温泉、フィットネス。好物は赤ワインと柿の種せんべいで、スイスに来てからは家庭菜園で野菜作りに精をだしている。長所は明朗快活で前向きな点。短所はうっかりものでミスが多いこと。現在の夢は北欧をキャンピングカーで周遊することである。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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