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企業や社会に貢献したい MBA学生が多国籍企業に求めるもの

graduation day
ザンクト・ガレン大学MBA(経営学修士)コースの卒業生は、過去3年間で9割以上が大企業に就職した。スイスに残った卒業生は約6割だった University of St Gallen

企業がスイス有数のビジネススクールに在籍する優秀な学生を射止めるには、高収入を約束するだけは不十分だ。ミレニアル世代の若い学生らは、目的が明確で柔軟性があり、何より企業や社会に大きな影響を与える仕事を求めているからだ。 

1983~94年の間に生まれたミレニアル世代や、95~99年の間に生まれたZ世代は、高収入や9時5時以上のものを仕事に求めるという話をよく耳にする。各種調査外部リンクやメディアの報道外部リンクによれば、スイスを含む世界中で、若い世代は有意義な仕事を探し、「融通が利かず利益至上主義の出来れば避けたい企業の象徴」である多国籍大企業を拒否しているという。 

しかし、実際はそう単純ではない。スイスのトップ・ビジネス・スクールのミレニアル世代の学生といえば、多国籍大企業から引く手あまただ。彼らは、多国籍企業の時代が終わったのではなく、多国籍企業により多くを期待しているのだと言う。

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企業の目的と裏表のない企業行動を重視 

ザンクト・ガレン大学MBA(経営学修士)コース外部リンクの就職課長ドミニク・ゴバさんは、「ミレニアル世代のMBA学生が多国籍企業を避けているというのは極論」だとスイスインフォに対して語った。同大学MBAコースの卒業生は、過去3年間で平均して94%が大企業に就職しているためだ。 

しかし、「私達が目を向けなければならないのは、若い世代が価値観の一致を求めている点だ。その企業が自分の価値観と合うのか、自分の価値観と合う何をしているのかを学生らはますます問うようになっている。また、あたかも環境に配慮しているかのように見せかけるグリーン・ウォッシュに対する目も厳しい。ある企業がXもYもZもしていますと言う場合、必ずしもそれらを実践しているとは限らない」とゴバさんは指摘する。 

しかし多国籍企業だからと言って、必ずしも価値観が合わず、企業行動に裏表があるわけではないとゴバさんは考える。「学生らは依然として多国籍企業に就職するだろう。ただ、企業が何をしようとしているのか、従業員をどう扱うのか、企業のより大きい使命をどう考えているか、今の学生はより意識が高いのだろう」と説明する。 

ローザンヌの国際経営開発研究所外部リンク(IMD)で20年以上にわたり学生の就職支援を行うジュリア・デ・バルガス・マルケスさんも同様の変化を認める。「学生らは、企業が何をしているかだけではなく、どのようにビジネスを行うかにも関心が高い。また、自分自身の影響力により興味を持っている。学生らは、自分達の仕事が企業や、ひいては社会にどのような影響があるのかを知りたいのだ」と話す。 

ザンクト・ガレン大学の19年度MBAコースに在籍する学生半数にスイスインフォが簡単な調査したところ、80%の学生が卒業後、多国籍大企業への就職を希望していると分かった。その一方で、73%の学生が「10年前と比べ、今日のビジネススクールの学生は多国籍企業で働くことへの関心が低い」と考えていることも判明した。 

就職活動で何を最も重視するかという質問に対しては、高収入も重要だが「社会にプラスの影響を及ぼす機会があること」や「企業の価値観と目的」の方がさらに重要との回答だった。

同じ企業で長く働くつもりはない

学生らは、大企業か中小企業に関わらず、同じ企業に長く勤めるつもりはない。10年後どこで働いていたいかを質問したところ、同じ企業で働いている姿を想像できたのはわずか11%だった。61%の学生が、10年後は起業したい、あるいは自分の会社を経営したいと回答した。

ザンクト・ガレン大学生のハーゲン・ロックマンさんはドイツ出身の機械技術者だ。輸送機器メーカー大手のアルストムといった多国籍企業を相手にする石油・ガス産業で働いた経験を持つ。「同じ仕事を10年も続けるなんて考えられない」と言うロックマンさんは、元同僚の大半が企業を離れて起業したいと考えていると付け加えた。

ますます高まる学生たちの要求

スイスの大企業が最も優秀な人材を獲得しようとすれば、高収入を約束するだけでは関心を引きつけ雇用することはできない。 

イタリア出身のジュリア・ガッティさん(28)はザンクト・ガレン大学のMBAコースでは比較的若い学生だ。「私の世代はますます要求が高くなっています。私たちは企業に柔軟性と起業する機会を求めています」。そして「まだ若いのでキャリア・アップしたい。そのため従業員の面倒見がいい企業を求めています」と続けた。

前出のバルガス・マルケスさんによれば、企業の採用担当者はこの変化に対応しつつある。高収入の提示以上に、学生らがもっとコミュニケーションを必要としていることを企業は分かっている。「IMDには、『魚をテーブルに乗せよう(議題を俎上に載せよう)』という表現がある。20年前は求人活動にタブーの議題がたくさんあった。しかし今は、最も優秀な人材を雇いたいなら、それらの議題についても話し合う必要があると企業は認識している」と説明する。

将来に役立つスキル 

学生らの変化や、労働環境を変えるグローバリゼーションと技術革新の速さに就職課も対応している。 

IMDの就職課はここ数年で大きく変わったとマルケスさんは強調する。「自己分析により力を入れ、それぞれのキャリアコースを明確にするサポートをしている」。IMDは今年、MBAコースの学生らと共に米国シリコンバレーやシンガポール、インドIT産業の中心地ベンガルール(バンガロール)へ研修旅行を行った。自分の決断が「ビジネスだけではなく、社会にも影響を与える」ことを学生に理解してもらうためだ。 

ザンクト・ガレン大学でキャリア開発の責任者を務めるザンダー・マルキートさんは、次の職のためだけではなく、今後10年間のために学生らを準備させていると説明する。「IT社会では、個人レベルで従業員や顧客とコンタクトを取る必要がある。人間関係をうまく維持する能力として心の知能指数(EQ)がとても重要になっている」(マルキートさん) 

例えばザンクト・ガレン大学は、英国の研修会社ドラマチック・リソース外部リンクと提携し、ビジネスリーダーとしてコミュニケーションに自信を持てるよう、対話型ロール・プレイングなどを使った講座を設けている。

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(英語からの翻訳・江藤真理)

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