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核廃棄物の行方にぴりぴり

核廃棄物処分場の決定はどこの国でも簡単ではない Keystone

今まではフランスなどの近隣諸国に処理作業を請け負ってもらっていたスイスの核廃棄物だが、これからは自国内で処理しなければならなくなった。しかし、処分場を決めるプロセスは、そう簡単にはいかない。

長期的な核廃棄物の処分場として最有力候補となっているのはチューリヒ州のベンケン地域だ。この地域ではワインも生産されており、この話を知って猛反発している人々もいる。

 住民投票の結果、すでにニトヴァルデンでは核廃棄物処分場を受け入れることが決定しているが、事はそう簡単には進まないようだ。

国内で最適の場所は見つかったけれど

 今まではフランスや英国に処理してもらっていたスイスの核廃棄物は、去年の法律改正に伴い、これを自国で行わなければいけなくなった。現在は一時的に原子力発電所や当座をしのぐ程度の保管場に置いているが、これも限界がある。1日も早く、法律上全ての問題をクリアして安全な保管場所に移したいところだが、問題は山積みだ。核廃棄物を永久に保管できる施設の建設を始めることができるのは、2030年頃になるかもしれないとまで言う専門家もいる。

 原子力発電所から出る核廃棄物の処理は、政府系機関ナグラ(Nagra,、National Cooperative for the Disposal of Nuclear Waste)が担当している。ナグラは全国の地層を調査した結果、ベンケンと呼ばれる地域が、国内のどこの場所よりも放射性物質が浸透しにくい粘土層であることを突き止めた。そこで2002年、ベンケンが処分場として最適であると発表したのである。

反対派は安全性に懐疑的

 ナグラによって行われた調査結果は、連邦放射性物質安全検査委員会(HSK、Federal Nuclear Safety Inspectorate)のお墨付きも得た。しかし、そんなことはベンケンの活動家にとってはどうでもいいことだ。

 チューリヒ州の核廃棄物処分場反対団体、「明白だ!スイス(Klar! Schweiz)」の広報、ジャン・ジャック・ファスナハトさんは語気を強める。「本当の危険性について、これまで私たちは調査が正確に行われていないと主張してきましたが、最近の研究で私たちが正しいことが証明されました」

 ナグラの調査は、低レベルから高レベルまでの放射性廃棄物を対象に行われた。連邦内閣はこれからナグラの調査結果どおり、この地域が処分場として最適であるかどうかを決めなければならない。

政府も汗だくで努力

 核廃棄物処分場は地元に経済的効果をもたらす。一方で、土地に悪いイメージがついてしまうことを心配する声も強い。しかし、連邦エネルギー省のプロジェクト・マネージャー、ミヒャエル・アーベルソルト氏によると、明らかな経済的損失が生じた場合には、政府が補填するそうだ。
 
 「そういう事態は我々にとってあまり好ましくありませんが、地元からそのような要請があれば、ナグラが金銭的に支援します」

 連邦エネルギー省は、地元住民や企業を招待して、核廃棄物処分場の受け入れを理解してもらおうと努力している。「最近も地元の州議員たちを招いて、私たちの提案を聞いてもらったばかりです。私たちは処分場に関する全てのコメントを真剣に検討し、この場所がいかに最適であるか隠し立てのないやり方で地元に分かってもらいたいと思っています」

様々な難問を乗り越えて

 しかし、相手は核廃棄物だ。政治的な条件提案はともかく、本当に安全なのかどうかが問題なのだ。連邦放射性物質安全諮問機関(NSC、Federal Nuclear Safety Commission)は内閣に対し、「使用済み核燃料を入れた鉄の容器を一緒に廃棄した場合、時間が経つにつれて鉄が湿気を含み、水素ガスを出す」と警告した。このため、水素ガスが環境に影響を与えない処理についても今後手を打たなければいけない。

 ナグラはこの警告について「最近の調査の中にこの問題はすでに考慮されている」とコメントしたが、NSCはそれで納得せず、今後より詳細な調査が必要だと述べている。さらにNSCはこの件についてどうすればよいかという結構な長さのリストまでナグラに突きつけた。

 「我々はNSCの提案を深刻に受け取っています」とナグラのピート・ツイデマ科学技術部長は語る。「現在、様々な選択肢を検討中ですが、鉄に代えて銅の容器を利用するプログラムを計画しています」

 内閣が最終的にナグラの調査結果を承認した場合、ナグラは他にも2つの候補予定地を示すことが求められているが、専門家はベンケンが選ばれる可能性が最も高いだろうと見ている。

 最終決定が下されると、反対派の打つ手は国民投票のみとなる。

swissinfo、マイク・チュダコフ 遊佐弘美(ゆさひろみ)意訳

スイスの電力総量のうち、原子力発電が占めるのは40%。残りのほとんどは水力発電が占める。

スイスには現在5つの原子力発電所がある。
ここから排出される高レベル放射性廃棄物は5年から10年かけて冷却され、その後保管場所に移送される。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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