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歴史と自然に囲まれて 〜 チューリヒ湖畔のバラの街

船で到着すると、まず目に入ってくる湖岸の風景と、丘の上のラッパーズヴィール城 swissinfo.ch

柔らかな春の日差しも次第に明るさを増し、きらきらと輝く太陽の下、小鳥達は楽しそうにさえずり、木々の葉は緑色に茂り、スイス各地には初夏の香りが漂ってきた。チューリヒ湖畔の街では、桜やりんごの花々が見頃を過ぎた今、藤の花があちらこちらで咲き、広い大地には菜の花畑が、まるで黄色い絨毯を敷き詰めたように広がっている。

 暖かなポカポカ陽気の中、夏が近づくとちょっと遠出をして、普段とは異なる景色を眺めながら、美しきスイスの郊外の町並みを散策してみたくなる。チューリヒ州とその近郊には、そんな気分に最適な街があちらこちらに点在するのだが、今回はチューリヒの中心地から気軽に足を伸ばせる、美しい湖畔のバラの街、「ラッパーズヴィール」をご紹介してみようと思う。

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 ラッパーズヴィールはチューリヒ湖に面した街で、ザンクト・ガレン州に属する。高台には街のシンボルとも言える13世紀の古城が建ち、旧市街には教会や修道院、市庁舎など、中世の趣の残る町並みが魅力的な場所だ。チューリヒ中央駅からは近郊電車に乗車して片道約40分。チューリヒ中央駅を発車する電車は、三日月型のチューリッヒ湖の両岸を走っており、ラッパーズヴィールまでのアクセスはよい。街はコンパクトなサイズで数時間もあれば全体を散策でき、チューリヒ方面からは半日旅行で楽しめる。

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 目的地へは往復共に電車を利用するのが手っ取り早い交通手段なのだが、夏になると、チューリヒからの片道は、湖を船で渡ってアプローチするのが筆者のお気に入り。時間に余裕のある日の自分に許される、片道約2時間弱をかけての船旅は、次々と変わりゆくチューリヒ湖岸の美しい風景をのんびりと眺めながら、通り過ぎる豪華クルーザーに乗った人々や、ヨットで行き交う人々と、時には手をふったりする。真夏になると、湖水プールで泳ぐ子供たちの姿や、浮き輪でプカプカと湖に浮かんで遊ぶ人々の姿も目に映る。チューリヒ湖のゴールドコーストと呼ばれる沿岸には、ワインのためのブドウの木々が生い茂り、湖の青とブドウの葉の緑色のコントラストの美しさに目を見張る。

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 チューリヒ湖の船は近郊を周遊する遊覧船の他、夏場には街から街への定期路線も運行されている。チューリヒとラッパーズヴィール間、及びその航路の途中の街では、鉄道やバスと同様に、目的地まで有効な「ゾーンチケット」や「パス」などを所持していれば、そのまま乗船できる。すなわち湖を船で渡る事は、近隣の住民にとっては、バスや電車と同じ交通手段の一つとなっている。

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 スイスで 「バラの町」として知られているラッパーズヴィールには、3つのバラ園があり、毎年6月頃から9月まで無料で開放されている。園内には約600品種、1万5千株ものバラが植えられており、普段から見慣れたものから、珍しい色合いや形をしたものなど、様々な種類のバラの花が見事に咲き誇る。バラ園は1913年に、ラッパーズヴィールの都市計画のひとつとして造設された。それ以来毎年、夏になるとバラ園は地元の人たちや近郊からの観光客で賑わい、人々はバラの鑑賞をしながら、湖畔の散策を楽しむ。実際に訪れてみると、その年の天候や気候により、バラの開花状況も多少異なっている事に気づく。満開のバラを眺めるには、7月頃訪れてみるのがベストシースンかもしれない。

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 健脚者は丘の上にそびえるラッパーズヴィール城まで登り、高台の広場からチューリヒ湖と街を見下ろして、湖畔の絶景を堪能しながら、持ち寄りの昼食をとりながら、くつろぐ人々を目にする。まるで入場無料の特等席と化した城壁の上で、思い思いの時間を過ごすのも湖畔の楽しみ方。坂の下まで降りて、ちょっと高級なレストランで食事をするのも、カフェでお茶を楽しむのも素敵な時間ではあるが、ベーカリーで買い求めてきたサンドウィッチ一つが特別に美味しく感じられる、自然豊かなスイスでは、国内随所にこんな極上の場所が存在する。ちなみに筆者は決して健脚とは言えないが、ラッパーズヴィールを訪れると必ず頑張ってこの城壁までは登る事にしている。この場所から眺めるチューリヒ湖の夏の景色は美しく、自分にとってのとっておきの場所なのだ!

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 ラッパーズヴィールで忘れてはならないのが、お城やバラ園のあるエリアとは反対側に位置する湖岸だ。2001年にはラッパーズヴィールの対岸にあるフルデンに、全長841メートルの歩行者専用の木製の橋が架けられ、中世の巡礼の道が再現された。この橋は元々14世紀にハプスブルク家によって作られ、シュヴィーツ州アインジーデルンから、スペイン・サンチャゴ・デコンポステラに向かう巡礼者達が利用していた。橋は1878年まで約5世紀に渡り使用され、再び現代に甦った。

 近代的な造りに見える現在の橋は、巡礼者達が渡っていた頃の面影はあまり無いようにも思えるが、今では市民の散策コースになっている。ところどころにベンチが設置され、それに腰掛けて読書をする人や、長い橋を歩き疲れて座って一休みしている人もよく見かける。また橋の眼前に広がる湖岸には、野生の鳥が多く集まり、聞き馴れない水鳥たちの大合唱や、白鳥たちが勢い良く飛び立つ姿は、バラ園のあるエリアとは全く異なった雰囲気をかもし出している。

 豊かな自然に囲まれた街には、子供達が動物に乗ったり触ったりと身近に触れ合える子供動物園「Knies Kinderzoo」もあり、こちらもまた、家族連れに人気の場所。

 夏が過ぎ、秋を迎える頃には、湖畔の遊歩道は閑散として、少し寂しげにも映る。しかしクリスマスを迎える頃には、クリスマスマーケットが並び、街は再び活気を取り戻す。ラッパーズヴィールは年間を通して季節の移り変わりを感じる事のできる、チューリヒからも気軽に出かけられる、魅力的な街なのだ。

スミス 香

福岡生まれの福岡育ち。都内の大学へ進学、その後就職し、以降は東京で過ごす。スイス在住11年目。現在はドイツ語圏のチューリヒ州で、日本文化をこよなく愛する英国人の夫と二人暮らし。日本・スイス・英国と3つの文化に囲まれながら、スイスでの生活は現在でもカルチャーショックを感じる日々。趣味は野球観戦、旅行、食べ歩き、美味しいワインを楽しむ事。2014年初春から夏までの数ヶ月間は、夫の仕事の関係でスイスと日本を行ったり来たりの日々を送っています。2009年より個人のブログ 「スイスの街角から」 を更新中。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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