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温室効果ガスの排出削減は温暖化防止のかなめ

現在排出されているCO2の1キログラムにつき200グラムは、1000年後にも大気中に残っているという Ex-press

気候変動研究で著名なスイス人科学者は、今月末にメキシコのカンクンで開かれる「気候変動枠組み条約第16回締約国会議」で温室効果ガス排出削減を最も重要な議題にするよう呼びかけている。

政治家はいまだに真正面からこの問題に取り組むことを嫌がっており、その間にも有害な二酸化炭素 ( CO2 ) は大気中で増え続け、何百年間も残存するだろうと科学者フォルトゥナ・ジョー氏は語る。

排出削減に重点を

 ベルンにある「気候変動研究所エシュガーセンター ( Oeschger Centre for Climate Change Research ) 」のセンター長を務めるジョー氏によれば、気候変動との闘いには早急な「ギアチェンジ」が必要だと言う。カンクン会議 ( COP 16 ) では温室効果ガスの排出削減、資金問題、京都議定書の今後を含めた対策が話し合われる予定だ。

swissinfo.ch : 気候変動に対する取り組みで主な障害は何だと思いますか?

フォルトゥナ・ジョー : 気候問題の解決には、今まさに燃えている化石燃料から出る温室効果ガスの量を大幅に削減することが求められるだろう。即時に行動し、排出量を削減することに対して、政治家や国民の間に意欲が感じられないようだ。最も大きな政党の中には、この方面での行動をまったく支持せず、わたしたち人類が抱える問題だと認めようとすらしない政党もある。ロビー団体は世論の混乱に非常に強い力を持っているように思う。

そもそも、人間とはそういうもので、習慣を変えることは非常に大変だ。

swissinfo.ch : 気候変動に関して十分な研究が行われていますか?

ジョー : 極めて基本的な事実の中には、何十年も何世紀も前から知られているものがある。その一方で、地球のシステムは非常に複雑だ。気候システムにおける相互作用やフィードバックの詳細や、CO2の排出に伴う海の酸性化がもたらす影響に関してはまだかなりの研究の余地がある。人びとがことさら関心を持っていること、そしていまだに科学者の課題でもあることは、地域レベル、個人レベルでの気候変動の影響を正確かつ量的に把握することだ。つまり、研究の必要性はまだある。

swissinfo.ch : 現在「スイス気候変動研究計画 ( National Climate Change Research / NCCR ) 」が進行中で、二つの研究所も設立されましたが、スイスはこの分野での学際的研究に大きな役割を果たしていますか?

ジョー : 昔も今も、スイスはまさに気候変動研究の中心地だ。スイスは国際的な取り組みに貢献し、新規プロジェクトにはコミュニティとして参加している。研究の質に関して言えば、わたしたちは高いレベルにいる。

しかし、それと同時に、慎重になる必要もあると思う。2013年にはNCCR計画が終了する予定だが、残念ながらこれに代わるほかの計画はない。これは憂慮すべきことだ。スイスにはチューリヒにある気候センターやここベルンにあるエシュガーセンターのような地域的な施設はあるが、気候変動研究を前進させるためにはスイスにある全組織の協調も必要だ。

swissinfo.ch : 世界規模で気候変動に取り組むにあたり、国連プロセスは貢献していますか?逆に、妨げになっていますか?

ジョー : 温室効果ガスの排出削減は当然、地域ごとに実施されなければならない。多くの刺激策や規制が地域社会、州、連邦政府といったさまざまなレベルから発せられなければならない。

ただ、「国連気候変動枠組み条約 ( UNFCCC ) 」は非常に力があり、わたしの考えでは、正しい目標と正しい方向性を設定している。この条約の主旨は温室効果ガスの排出レベルを安定させ、危険な気候変動を回避することにある。まだ実現は難しいが、この国連プロセス以外に世界規模の方策を知らない。しかし、これもまたさまざまなレベルで支持される必要がある。

swissinfo.ch : 国連プロセスが最終的には成功するという希望を持っていますか?

ジョー : もちろん成功すると思う。いろいろなことが正しい方向に転換する気配があり、より多くの人が気候変動問題の解決を好機と捉えるようになっている。普通、世論を変え、その変化を実際に行動に移せるようになるまでには何十年もかかる。この国連プロセスは1980年代、90年代に始まったので、まだ時間はかかる。

swissinfo.ch : わたしたちに時間は残されていますか?早急な行動が求められるような気がしますが・・・。

ジョー : 早急に行動を起こすべきだという意見には同感だ。気候システムには大規模な慣性がある。例えば、現在排出されているCO2の1キログラムにつき200グラムは、1000 年後にも大気中に残っている。この事実が早急なギアチェンジを迫まっている。トレンドの転換が必要で、それも今すぐにだ。もし転換をせず、高い排出量のままの現状を続けるなら、今世紀末までに気温が数度上昇するだろうと、わたしのセンターでは予測している。

swissinfo.ch : 長期的な共通ビジョン、温室効果ガスの排出量削減、気候変動への適応、資金問題、京都議定書の今後。これらがカンクン 会議で話し合われる予定ですが、この中でメインは何だと思いますか?

ジョー : 国際的なレベルで必要とされることは、基本的にCO2の排出削減に関する方策とCO2以外の温室効果ガスの削減を実行し強化することだ。そして、厳しい目標が設定されることだ。長期的共通ビジョンは、もちろん世界規模での温室効果ガスの削減を達成するためには必要だ。また、発展途上国が実際に対策措置を講じられるようにするためには財源確保も肝心で、それと同時に、現在進行中の気候変動に適応する必要もある。

わたしが強く望むことは、排出削減がそのうち定着することだ。ただ、個人的には、カンクンで具体的なことが起こるとは思えない。参加国は最後の最後まで合意を渋るからだ。京都議定書は2012年に期限を迎える。

swissinfo.ch : 気候変動の進行を懐疑的に見ている人たちに何か言うことはありますか?

ジョー : わたしたち人間は非常に激しいやり方で、かつ非常に速いテンポで気候システムを破壊している。これはわたしたち科学者のでっちあげではなく、さまざまな計測を行った結果分かることだ。わたしたち科学者には、温室効果ガスの濃度が上昇し、大気のエネルギー収支に変化が見られ、地球の温暖化が進行していることを立証するデータがある。何十万という計測結果から、海によるCO2吸収のタイムスケールや基本的な化学的性質が分かっている。気候変動は現実で、まさに今起きている。

ベルン大学気候変動研究所エシュガーセンター ( Oeschger Centre for Climate Change Research ) の現センター長。
また、ベルン大学の物理学研究所気候・環境物理学部門の教授でもあり、連邦気候変動研究プログラム ( National Climate Change Research / NCCR ) の第3段階に関わる。
主要研究分野は炭素循環、生物地球化学的循環、モデリング。
気候変動に関する論文約100本を共著。
気候変動に関する政府間パネル ( IPCC ) では第1作業部会の副議長を務め、気候変動に関する第3次評価報告書を準備した。IPCCの特別報告書の作成にも貢献。

2010年11月29日~12月10日にメキシコのカンクン ( Cancun ) で開催される。
気候変動に関する交渉プロセスは、「国連気候変動枠組み条約 ( UNFCCC )」 の締約国によるセッションを中心に展開する。COPは毎年開かれ、条約の履行具合を再検討する。
カンクン会議に先駆け、いくつかのテーマでは気候変動対策に向けた新たな合意に関する話し合いが進んだが、主催者が合意のチャンスを逃した。
COP16では、長期的共通ビジョン、気候変動への適応、温室効果ガスの排出削減、資金問題、京都議定書の今後が話し合われる。
また、国連とメキシコ政府によれば、途上国が気候変動に対処し、クリーンな発展をまかなうための財源確保の設定に進展があるという。そのほか、各国の温室効果ガス排出量の測定と検証という難しい問題にも進展が見られるが、京都議定書に代わる案はまだないという。
京都議定書は、国連にとって温室効果ガスの排出抑制を実現させるための手段。2012年末に期限を迎える。
昨年のコペンハーゲン会議 ( COP15 ) では、2012年以降の先進国による排出削減に関する話し合いは決裂した。コペンハーゲンでは、120カ国以上が世界の平均気温の上昇を摂氏2度以下に抑えるる方法を模索したが、この目標をどう達成するかという点で意見が分かれた。
国連主導の話し合いのペースが遅いことから、G20やアメリカ主導の主要経済国フォーラムが行動計画に合意を取り付けるための可能な手段として検討されている。しかし、こうした動きは、気候変動で最も打撃を受ける立場にある多くの小国や国連の反対を受けている。

( 英語からの翻訳 中村友紀 )

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