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燃えて、飛んで、驚きの伝統!チューリヒの春祭り「セクセロイテン」

着火の数時間前、着々と準備が進められるベーグ swissinfo.ch

春を迎えたスイス各地では、色とりどりの花々が咲き始め、柔らかな日差しの中、人々の気持ちも明るく、これから先の新緑の季節と、それに続く夏を待ち望む気分も次第に高まってきた。

 春から初夏へと季節の移り変わりを迎える前の4月に、チューリヒ州では毎年行われる春の祭り「セクセロイテン(Sechseläuten)」という行事がある。これは長く厳しい冬に終わりを告げ、春の訪れを祝う、チューリヒ恒例の祭りである。

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 祭りのクライマックスには「ベーグ(Böögg)」という雪だるまのような形をした人形に火が放たれ、ベーグが完全に燃え尽きる時間によって、その年の夏がどんな夏になるのかを占うという、古くからの伝統が続いている。冬の象徴でもある「雪」(=雪だるま)を燃やすことによって、待ち望んだ春を迎えるという意味合いが込められているようだ。この様子は毎年、国内のテレビ放送でも生中継される。

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 セクセロイテンは毎年、4月の第3週目の日曜日と月曜日に行われ、150年以上も続く祭りである。今年2014年はイースター(復活祭)の休暇の時期と重なるため、第4週目の週末に開催される予定だ。この祭りの発端は中世の時代の「ツンフト(ギルド)」と呼ばれる商工業者たちの間で結成された職業別組合(=現代の工業組合や商工会議所などと類似した組織)だ。セクセロイテンとはドイツ語で、「セクス(Sechs=数字の6)」と、「ロイテン(Läuten=鐘の音)」の意味を持つ。かつて時計の無かった時代に、夏季の労働時間が夕方6時に鳴る教会の鐘の音を合図に仕事を終えていた事から、その名が付けられたのだそうだ。

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 現在ではこの祭りの際に、毎年国内の1カントン(州)をゲストとして招き、異なった地域の文化や郷土料理などを紹介する。こうした新しい試みは1991年から開始された。

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 初日の日曜日は午後になると、5〜15歳の2000人近くもの子供たちが楽隊を引き連れ、チューリヒの目抜き通りであるバーンホフシュトラッセをスタートし、街の中心部を大行進する。2日目の月曜日には、市内各地のツンフトハウス(ギルド会館)で舞踏会等が開催され、午後には中世時代のコスチュームや、職業別の衣装を身にまとった人々の盛大なパレードが始まり、再び町は賑わう。洋服の仕立屋である職人は大きなハサミを手に持ち、お肉屋さんであるらしい人は、数人がかりで本物に見える豚を大きな串に吊るし、ツンフトの長老たちは馬車に乗って通り過ぎて行く。中には馬に乗った騎士のような姿をした人たちもいる。パレードは町の中心からリマト川沿いにある、チューリヒの町で最も美しい建造物の一つでもある有名なツンフトハウス(現在はレストラン・集会ホールとして使用中)の前も通過し、悠然と行進して行く。今日、セクセロイテンには数十のツンフトが参加しているが、現在ではこの祭りに参加する事がその活動の目的となっているのだそうだ。

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 町に一斉に配備された、パレードの沿道に並ぶ長椅子は、その組合に属する人の縁者や家族たちの指定席で、それぞれに指定番号が付けられている。その背後には、パレードを一目見ようと立ち見の見物者や観光客たちであふれかえる。指定席に腰掛けた見学者たちは各々の家族や親類、知人などがパレードでやってくるのを待ち望み、お目当ての人たちが近づいてくると、花々を渡し抱擁し合う。パレードはただの祭りの行事ではなく、実際に町を行進する彼らやその家族たちにとっては代々続く、誇りある伝統の行事でもあるのだ。

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 ツンフトの盛大なパレードが終わりに近づき、夕刻6時を迎える頃に、祭りは最大のクライマックスを迎える。チューリヒのベルビュー地区に隣接するセクセロイテン広場では、高さ13mの薪の山の上にそびえ立つベーグに、6時の鐘の音『セクセロイテン』を合図に火を点けて燃やす儀式が行われる。一見雪だるまのように見える人形・ベーグの薪に火が放たれた後、何分で燃え尽きるかのカウントが始まり、身動きも出来ないほどの大観衆の中、燃え盛るベーグを指笛を鳴らし、歓声をあげながら眺める大勢の人々に圧倒される。一方、小さな子供たちは、激しい音を立てて爆発しながら、黒こげになってゆくベーグの様子があまりにもショックで、あちらこちらで泣き叫ぶ声が響き、大人の大歓声と子供たちの鳴き声で、辺りは騒然とした雰囲気に包まれる。ベーグは着火した体の下の部分から燃え始め、その後は胴体に火が回り、最終的にはパーンというものすごい音を立てて首と頭の部分が爆発し、頭部が首から離れて燃え尽きた時点で終了となる。大きな爆発音をたてて頭部が飛んだ瞬間、その場にいる人々の盛り上がりと大歓声は最大のピークに達する。正直なところ、昨年それを初めて目の前で眺めていた自分にとっては、予想以上に衝撃的な瞬間であった。

 ベーグの燃え尽きる時間によって、その年の夏の気象情報が占われるのが伝統で、それが早ければ早いほど、夏は美しく過ごしやすく、反対に長ければ、寒くて今ひとつの夏となると予想される。

 ちなみに昨年2013年のセクセロイテンの祭りでは、ベーグは35分11秒と、例年に比べるとかなり長い時間をかけて燃え尽き、占いではあまり期待の出来ない夏が予想されたが、実際のところ昨年は、青空の広がる快適な日々が長く続き、結果的にはとても美しく、過ごしやすい夏となった。

 さて、今年のベーグは何分で燃え尽きるのか?今年も待ち遠しいチューリヒの春祭り、セクセロイテンはもうすぐだ。

スミス 香

福岡生まれの福岡育ち。都内の大学へ進学、その後就職し、以降は東京で過ごす。スイス在住10年。現在はドイツ語圏のチューリヒ州で、日本文化をこよなく愛する英国人の夫と二人暮らし。日本・スイス・英国と3つの文化に囲まれながら、スイスでの生活は現在でもカルチャーショックを感じる日々。趣味は野球観戦、旅行、食べ歩き、美味しいワインを楽しむ事。自身では2009年より、美しいスイスの自然と季節の移り変わり、人々の生活風景を綴る、ブログ「スイスの街角から」をチューリヒ湖畔より毎日更新中。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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