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異常気象「人間の影響なければ起こらなかった」 IPCC報告書

strada sommersa di acqua in città
2021年7月、独ラインラントプファルツ州のバートノイエナールアールヴァイラー市が洪水に見舞われ、全土で100人以上が死亡した Keystone / Thomas Frey

この夏、世界各地を襲った異常な熱波や大雨の原因は、地球温暖化であると、国連の気候レポートの最新版の執筆に関わったスイス人研究者ソニア・セネヴィラトネ氏は断言する。

カナダは50度近くを記録し、ドイツは前例のない大洪水、地中海東部では歴史的な熱波、スイスは記録的な降雨。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、7年ぶりとなる第6回報告書をこうした異常気象が相次ぐまたとない皮肉なタイミングで発表する。

「この夏に起こったことは衝撃だったが、驚くことではなかった。気候モデルで予測された通りのことが起こっている」。こう話すのは連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)のスイス人気候学者、ソニア・セネヴィラトネ外部リンク氏だ。IPCC報告書の共著者で、ロイター通信が選んだ「世界で最も影響力のある環境科学者1000人外部リンク」で上位10位に入っている。

swissinfo.ch:IPCCレポートの最新版の主な内容を教えてください。

ソニア・セネヴィラトネ:人為的に温暖化が進んでいるという証拠がさらにはっきりした。世界のすべての地域が温暖化の影響を受けている。

報告書は、平均気温の0.5度上昇で地球への影響に大きな違いが出ることを証明した。残念ながら、温度上昇を1.5度に抑えるという目標はますます達成から遠のいている。この基準値をわずかに超える可能性があるなら、すぐに行動しなければならない。

国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)外部リンクの第6回評価報告書は2021年8月9日から順次公開される。65カ国の200人以上の専門家が約1万4千点の科学論文を分析し、気候の変化と今後の予測に関する最新の知見をまとめている。

2022年2月には、気候変動の影響を評価し可能な適応策を提案する報告書第2部を発表予定。同3月に温室効果ガス削減策をまとめた第3部、9月に要約が発行される。

swissinfo.ch:2014年の前回報告書と比べて新しい点は?

セネヴィラトネ:産業革命前に進んだ温暖化の度合いは、前回の推計値よりも大きかった。2011~20年の間に約1.1度気温が上昇した。

また今回の重要な新事実は、近年起こった異常気象は、人間の影響による気候変動がなければ発生しなかった可能性が高いということだ。

swissinfo.ch:今回の報告書は色々な国で洪水や熱波、その他の前例のない異常気象に直面している中で発行される。このことは、気候変動について何を示唆するのか。

セネヴィラトネ:異常気象はあらゆる科学的予測を裏付けるものだ。私たちは2020年頃に異常気象や前例のない事態が発生することは分かっていた。憂慮すべき点は、こうした異常現象が「BAU(従来通り)シナリオ」で、つまり(温室効果ガス)排出削減策を取らなかった場合に想定されたことが起こっている。まるで気候変動に対して何も行動してこなかったかのようだ。シナリオを立てた当時、排出量を削減するので実際には起こらないと考えていた。だが我々は間違っていた。

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swissinfo.ch:今は猛烈で予測不可能とみられている現象は、私たちの子供や孫の世代には当たり前のことになるのか。

セネヴィラトネ:地球温暖化がさらに進んで状況はさらに悪化するので、何が「正常」になるのか言えない。温暖化が進む限り、異常気象はさらに深刻になることを認識しなければならない。排出量を削減しなければ、10年後には現在経験しているよりもはるかに深刻なことが起こる。

swissinfo.ch:異常気象はどの程度事前に予測できるのか?

セネヴィラトネ:我々は異常気象を誘発する仕組みに精通しているので、予測を改善することができる。

精度が上がると、異常気象をより正確に予測できるようになる。だが、それにより我々が災害を回避できるようになるかは分からない。温暖化は極めて速く進んでおり、対策が追いつくのは難しい。住宅を熱波や豪雨に強いものに替え、インフラを適応されるのに何年もかかる。我々にその時間は残されていない。

我々は、現在直面している全ての出来事に対応することはできないという事実を受け入れなければならない。例え介入しても、マイナスの影響が出る。地球温暖化に伴う被害が大きく増えるのを持続的に回避する唯一の方法は、適応ではなく、排出を止めることだ。

swissinfo.ch:報告書では異常気象の章のコーディネーターとして、何百点もの研究を精査した。分析中に最も印象に残ったことは?

セネヴィラトネ:1つ目は、繰り返しになるが、地球温暖化がなければ起こらなかっただろう現象に直面するようになったことだ。熱波や豪雨の頻度が増えるだけでなく、これまでになかった現象が発生している。

2つ目に、同じ地域で複数の事象が同時発生したり、または異なる地域で複合的な現象が起こったりしていることだ。スイスでも18年にそんなことがあった。深刻な熱波が到来したが、同時にヨーロッパ、アジア、北米の他の多くの国にも影響を及ぼした。この夏も、地球のさまざまな地域でほぼ同時に異常気象が複数発生した。

swissinfo:この報告書は、グラスゴー国際気候会議(COP26)の100日以内に発行され、重要な報告書だとされている。今後の見通しは。

セネヴィラトネ:COP26は物事の方向性を恒久的に変え、パリ協定の目的に従って地球温暖化を食い止められる最後のチャンスだ。今、初めて世界的に有利な政治体制になった。温暖化を抑えることができれば、被害も食い止められる。

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