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沖縄県民投票は「投票率・白票割合が重要」 高良倉吉・琉球大名誉教授

辺野古米軍基地建設地
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沖縄県は24日、米軍基地の辺野古移転問題をめぐり県民投票を実施する。元沖縄県副知事で、琉球史が専門で沖縄の対外関係にも詳しい高良倉吉・琉球大学名誉教授は、投票率や白票の割合に注目すべきだと考える。法的拘束力のない県民投票の意義や、投票結果が日本の国政や外交に及ぼす影響について話を聞いた。

辺野古米軍基地建設のための埋立て外部リンク」の賛否をめぐる県民投票

普天間飛行場の代替施設として日本政府が名護市辺野古に計画している米軍基地建設のための埋立てに対し、県民の意思を的確に反映させることを目的とする。沖縄県内に3カ月以上在住する日本国籍を有する18歳以上の115万3591人に投票資格がある。投票は「賛成」「反対」「どちらでもない」の三者択一で問われ、24日に実施される。投票で、賛成または反対で多かったほうの票数が投票資格者総数の4分の1である28万8397票に達した場合、知事はその結果を尊重し、安倍晋三首相とトランプ米大統領に結果を通知する。政府が推進する移設工事を止める権限を持たない沖縄県で住民投票が行われるため、工事を止める法的拘束力はない。沖縄で県民投票が行われるのは1996年に次いで2度目。法に基づき2018年12月からは辺野古沖の米軍基地建設予定区域ですでに土砂投入が始まり、計画進行中。

沖縄県民投票実施の経緯

2018年10月4日、米軍普天間飛行場の辺野古移設反対を掲げる玉城デニー氏が、沖縄知事に就任。26日、県議会で県民投票条例が成立した。ところが、宮古島市、宜野湾市、沖縄市、石垣市、うるま市の5市長が投票不参加を表明し、一時は沖縄全体での県民投票の実現が困難視された。しかし、今年1月29日、県議会で県民投票を定めた条例を改正し、「賛成」「反対」の選択肢に「どちらでもない」を加えた3択にしたことなどから、2月1日、全41市町村が参加の意思を表明し、全県実施が決定した。投開票は24日に行われる。

スイスインフォ:今回実施される県民投票は住民投票ですから、たとえ反対が多数を占めた場合でも、埋立て工事を止める強制力はありません。24日に実施される投票の意義は何でしょう?

高良倉吉教授:私自身は県民投票の実施について懐疑的な立場です。日本政府が進めるアメリカ軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設をめぐって、沖縄県民のあいだで世論を二分するような対立が存在し、「賛成」か「反対」かを明らかにする必要がある場合は、県民意思を確認するための投票が必要になります。しかし、過去5年間に行われた県知事選挙や国会議員選挙の結果を見ると、県民の多数意思は「反対」であることがすでに示されています。また、各メディアによる世論調査、県民意識調査においても、「反対」が多数を占めています。にもかかわらず、なぜ県民意思を確認するための投票が必要なのでしょうか。

私の理解では、「反対」の意思を日本政府やアメリカ政府、あるいは国内外の世論に対してアピールすることが目的だと思います。つまり、政治的なインパクト、メッセージとして利用することに主眼が置かれています。そして、力強く示されるはずのその結果を前面に押し出して、辺野古で進められている埋め立て工事を中断させる、あるいは遅らせることを期待しているのです。

しかし、大きな壁があることは無視できません。日本政府による埋め立て工事は法律に基づいて進められていることです。2013年に仲井眞弘多知事は法に基づいて埋め立て工事を承認しました。新しく知事になった翁長雄志知事はその承認を取り消しましたが、日本の最高裁判所は、翁長知事の行為を違法だと断定しました。法に基づく埋め立て工事の阻止が困難な状況において、「しかし、私たちは依然として反対だ」という意思を示すために県民投票が行われます。

スイスインフォ:条例が二択から三択に改正され、なぜ投票に「どちらでもない」が加わったのですか?

高良:県民投票を行うことは必要か否かをめぐって、沖縄県議会は紛糾しました。県民の反対を無視して辺野古の埋め立て工事を推進する安倍政権に対して、明確に「ノー」という強い意志を示すべきだという立場の議員が投票の実施に熱心でした。これに対し、県民の側には多様な意見があり、お金もかかる県民投票の意義を疑問視する立場の議員もいました。そして、この立場の議員は投票用紙に「賛成」と「反対」の二択を掲げることを主張する推進派に対し、それでは県民の多様な意見が反映されないと主張しました。しかし、推進派の議員は、県民意思を明快に、強く主張するためには二択方式が妥当だと反論しました。結果として、推進派の多数決によって二択方式の県民投票が実施されることになりました。

県民投票を実施するためには、県内の41市町村の協力が不可欠です。県議会において多数決で決定された県民投票に対し、沖縄市や宜野湾市、うるま市、宮古島市、石垣市などの市議会が投票に必要な予算案を否決し、議会の意見を重視する市長たちも投票事務は行わないという動きが広がりました。市長たちは、「賛成」「反対」の二択方式では市民の多様な意見が反映できないとコメントしました。その動きに危機感を懐いた推進派の人々は、すべての市町村の理解と協力を得るために、「どちらでもない」を加えた三択方式に転換しました。

県民投票については、それ以前にも様々な意見がありました。ある人々は、そのような悠長なことをしている間に辺野古の埋め立て工事は進んでしまう、工事を止める抜本的な措置を講ずるべきだと主張しました。また、別の人々は、県民意思を絶えず前面に押し出すことが辺野古の埋め立て工事を阻止する基盤になると主張しました。「どちらでもない」を加えたことは、県民投票推進派が譲歩したことを意味するのだと思います。

スイスインフォ:スイスの住民投票には法的拘束力があります。法を改正し、拘束力のある住民投票を実施すべきだという意見は沖縄でもありますか?

高良:一般論で言えば、日本は憲法を頂点とする議会制民主主義の国ですから、住民が選出した議員によって構成される議会において案件は議決されます。それとは異なる方式、例えば住民投票による拘束力を持つ決議を行うためには、法的な根拠が必要です。そして、それを可能とする法改正が求められるでしょう。

今回の県民投票をめぐる沖縄県議会の論議においては、拘束力を伴う投票にすべきだという意見はなかったと理解しています。また、市民運動においても、法改正を求める意見はなかったと思います。

高良倉吉
高良倉吉・琉球大学名誉教授(琉球史) ©Kurayoshi Takara

スイスインフォ:沖縄で初めて住民投票が実施された1996年9月8日は日米地位協定の見直しと基地の整理縮小の賛否が問われ、89%が賛成しました。この国内初の県民投票の結果は、どのような影響を及ぼしたと思いますか?

高良:1996年の県民投票は、沖縄に集中するアメリカ軍基地の整理縮小、県民負担の軽減を求める立場が支持されたこと、また、相次ぐ基地から派生する事件・事故を公平に処断するために日米地位協定の改定が必要なこと、以上の2点が県民の共通意思であることが確認されました。

しかし、その後、96年に投票を主導した革新系の大田知事は、98年に保守系の稲嶺知事に選挙で敗れ、現実的な基地政策をとる県政に変化し、事態は複雑になりました。

スイスインフォ:今月24日に行われる住民投票結果は、どのような影響が出ると解析しますか? 

高良:沖縄県全体の投票率はどのレベルになるか、当初は県民投票に参加しないと決めた沖縄市や宜野湾市などの投票率はどのレベルになるか、普天間飛行場の移設先である名護市の投票率はどのレベルになるかなど、投票率の結果に注目すべきです。また、投票した県民の中で、「賛成」「反対」「どちらでもない」、白票の割合はどうなるのかも注目すべきです。その結果によって、県民投票の政治的インパクトが左右されます。

私の理解では、今回の県民投票は1996年の県民投票に比べると、大きな盛り上がりに欠けていると思います。県民投票の実施をめぐる混迷が続いたこと、辺野古の海岸では埋め立て工事が着々と推進されていることなどがその原因です。したがって、投票結果の影響は限定的だと考えます。

スイスインフォ:県民投票の結果は、外交にはどのように影響すると考えますか?

高良:投票結果は、アメリカ軍の普天間飛行場を辺野古に移設する目的で行われている埋め立て工事に対する県民の意見を、ある程度は反映したものなるでしょう。そして、日本政府が推進する事業に対する評価が示されるはずです。その評価を安倍政権がどう受け取るかがポイントの一つになります。アメリカ政府は従来のスタンス、すなわち、その問題は日本の国内問題だとコメントすることでしょう。したがって、県民投票の結果が日米関係や日米安保体制に影響を与える可能性はきわめて限定的だと私は思います。

しかし、看過すべきではない重大な論点が存在します。市街地の真ん中に存在する危険な普天間飛行場の返還を実現し、市民が安心して生活できるようにするためにはどうすれば良いのかという課題です。この問題に対しては、日米両政府はもとより沖縄県民も責任を持つ当事者です。

高良倉吉(たから くらよし)略歴

1947年、沖縄県伊是名島生まれ。琉球大学名誉教授(文学博士・琉球史)

1994-2013年 琉球大学法文学部教授

2013-2014年 沖縄県副知事

主な著書:「『沖縄問題』とは何か」「琉球王国史の探求」「沖縄問題ーリアリズムの視点から」など。

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