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スイスの民主主義で取り残された人たち

勝利を祝う女子400メートルリレーのスイス人選手
勝利を祝う女子400メートルリレーのスイス人選手アイラ・デルポンテ、サロメ・コーラ、サラー・アッチョ、ムジンガ・カンブンジ(左から)。外国にルーツを持つ若い女性の多くは、スイスの民主制度の中で忘れられた存在だ Ennio Leanza/Keystone

民主主義の根幹は、国民が政治的に適切に代表されることにある。この点に関して言えば、民主主義の模範国とされるスイスにも欠陥がある。女性や若者のほか、学歴と収入の低い人は政治的に代表されることが少なく、スイス人口の25%を占める外国人にいたっては投票権が認められていない。

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参政権は天から与えられるものではない。参政権とは、自分たちの政治的権利を求め、そして戦った勇気ある人たちがもたらした成果だ。

過去を振り返れば分かるように、スイスでも市民が平等を求めて戦ってきた。

今から約100年前のスイスは社会的にも政治的にも一触即発の状態だった。革命の機運が高まっていた。生活環境や労働状況に不満を持つ人は多く、特に工場労働者は、政治家は自分たちの問題を取り合ってくれないと感じていた。そのため社会主義を標榜する労働者運動は一時、大いに盛り上がりをみせ、スイスでも階級闘争が勃発した。労働者はストライキやデモ活動を組織して政治権力者を挑発し、譲歩を迫った。

画期的な比例代表制

要求の多くは実現しなかったが、画期的な成果がいくつか達成された。その一つが1919年に導入された比例代表制だ。これは極めて重要な制度改革だったと言える。なぜならスイス連邦議会の下院に当たる国民議会では、導入を機に議席が政党勢力に応じて配分されることになったからだ。

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左派は加わったが…

多数決制から方向転換したことで、建国を担った急進民主党は優位な立場を失い、社会民主党は議席を倍増させた。

こうして、多数決制の下で長年不利な立場にいたライバル政党は、得票率に応じた議席数を下院で確保できるようになった。そして政治的緊張は緩和されていった。

…女性は長い間のけ者に

そのほか、労働運動では女性参政権も要求されていたが、当時の権力者は全く関心を払わなかった。国民の半分を占める女性に男性がようやく参政権を認めたのは、1971年になってのことだ。

つまり女性は建国から123年の間、政治的に代表されないどころか、連邦レベルでは存在すらしていなかったのだ。

そして現代でも女性比率が著しく低い場合があることが、下のグラフから分かる。

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進む格差是正

女性参政権が約50年前に導入されて以来、女性代表者の割合はかなり改善し、政治機関における女性の割合は上昇を続けている。

しかし全ては相対的だ。今のスピードで女性代表者の割合が上がるとすれば、女性が人口の割合に応じて代表されるにはもう50年、つまりあと半世紀必要になる。

これを遅すぎると感じる人たちもいる。スイスの女性団体を統括するアリアンスFは昨年、7人の閣僚で構成される連邦内閣に女性枠を割り当てるよう要求。目的を「人口の半数が適切に代表されていると感じられるようにするため」とした。

クオータ制以外の解決策とは?

男女の機会および比率の不均衡を是正するための策に、クオータ制がある。クオータ制は効果的と評される一方、反対意見も多い。この制度では厳しい目標の下に女性の最低比率が定められ、その割合を下回った場合に罰則が科されるが、これにより政治選挙で二つの問題が生じる。一つ目は有権者の自由な意思が制限されること。二つ目は性別、年齢、職業など個人の特性と切り離して利益を代表することも可能であるにもかかわらず、厳格な割当制度ではその点が見落とされてしまうことだ。

その他の策には、例えばフランスのように、女性候補者を積極的に擁立する義務を政党に課す制度がある。スイスでそれを実現するには選挙制度の改正が必要だ。また、在留外国人が政治的に代表されるよう、スイスではすでにフランス語圏にある複数の州で外国人に参政権が認められている。マイノリティーを政治的に代表させる方法としては他にも教育対策がある。

この要求がそのまま実現されることはなかったが、連邦内閣の構成は昨年12月に行われた閣僚選出選挙でそれに近い形となった。これまで女性閣僚の数は2人だったのが新しく3人に増えたからだ。閣僚ポストの数が奇数のため、男女平等に閣僚ポストを分配することは計算上難しいが、女性閣僚の数はほぼ半数になったと言える。ちなみに、女性閣僚の割合ランキングで10位につけたスイスよりも上位の国は9カ国しかない。

ここでは「感じられる」という言葉が重要だ。なぜならこの問題は正義、平等、承認などの崇高な原則に関わることであり、当事者にはそれらがあまり顧慮されていないように感じているからだ。

スイスで政治的に過小代表されている社会層は女性だけではない。スイスの全人口の45%以上が40歳以下の人たちで占められるが、連邦議会ではこの年齢層の代表者はたった13%しかいない。

また、低技能で低賃金の職に就いている人たちも連邦議会で代表されることは滅多にない。

偶然ではない

このように過小代表されている社会層は投票率が低く、会社取締役会のメンバーになることは滅多になく、社会的にリーダーを担うことは例外でしかないが、それは偶然ではない。政治的、経済的、社会的な権力は密接なネットワークに集中しているからだ。権力と影響力は偶然または公平に社会で分配されているわけではなく、独自の論理に沿って分配されている。

全人口の約4分の1を占める外国人にいたっては、投票権と選挙権が全く認められていない。理由は帰化審査が厳しいためだ。3世代、4世代に渡ってスイスで暮らし、社会にうまく適応している家族のメンバーであっても、帰化のハードルが高いために政治に参加できないでいる。

社会政策上には様々な「理想」が掲げられているが、民主主義はこうした理想と同様に、その目指す姿に向かって少しずつ歩んでいかなければならない。しかしその歩みが遅いからといって、現状を受忍するしかできないわけではない。歴史を振り返れば、権力、共同決定権、権利はカーニバルのお菓子のように配られたものではなかった。そうではなく、たくさんの勇気、粘り強さ、強い論拠で勝ち取られ、実現されてきたのだ。

(独語からの翻訳・鹿島田芙美)

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