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脱税恩赦に各州熱を上げる

今年はいくつかの州で、脱税恩赦に喜ぶ納税者が現れることになりそうだ Keystone

脱税恩赦はイタリア、フランスだけの専売特許ではない。今年、スイスでも脱税恩赦の施行が予定されている。一部の州ではへそくりまでも掘り出そうとしている。これを支持する専門家の声も聞かれる。

源泉徴収ではないスイスでは、住民一人一人が税を申告する。その季節を目前にして、各州当局は脱税者の威厳を再び回復させようとする動きに出ている。

魅力に欠ける恩赦

 これまで隠していた所得を明らかにすれば、滞納期間の利子を払うだけで、懲罰されないという脱税恩赦が2008年春の連邦議会で認められた。当時、脱税恩赦は詐欺師を優遇し「非道徳的」であると非難する声が出る一方で、税率が5%から15%であれば魅力があり、昨年認められた内容の恩赦では効果は出ないという声もあった。

 そのような意見を代表するのが、ティチーノ州の専門高等学校「SUPSI」の税制専門家マルコ・ベルナスコーニ教授だ。
「租税制度の簡単な改正があれば、恩赦はできた」
 と言う。ベルナスコーニ氏は以前から、租税制度の改正を訴えている。また、ルガーノ市で弁護士事務所を構えジュネーブで経済・銀行法を教えるアンリ・ペーター氏も最近になって、全般にわたる脱税恩赦で2000億フラン ( 約18兆円 ) の資産が明るみに出ると試算している。

 脱税恩赦による当局の負担は軽く、多くをもたらすというのが事実で、租税局のいくつかは、この事実に目覚めたようだ。イタリアは4月30日までの期限でペナルティーを5%から7%と定め、1250億ユーロ ( 約16兆3000億円 ) の新たなる申請と60億ユーロ ( 約7800億円 ) の収入が見込まれている。

ティチーノ州とフリブール州が検討

 スイスではジュラ州が、脱税者に対して脱税した資産の提示は求めるが、それを裏付ける書類の提出は義務付けないという、連邦の恩赦よりさらに進んだ内容の恩赦を施した。この措置で脱税の3分の1、およそ3億フラン ( 約270億円 ) が明るみに出ると見られている。財政困難にあるジュラ州にとって貴重な歩み寄りだが、恩赦による増収は来年以降に持ち越されることになる。

 昨年末、イタリアからの資産の撤退に打撃を受けたティチーノ州も同じような恩赦を検討中だ。フリブール/フリブルク州も恩赦が州議会で議題となっており、その決定は2月になるもようだ。脱税恩赦を支持する意見には、臨時収入をもたらすという利点の他に、マネーロンダリングによる違法資金の流入を防ぐ目的もあると主張する。

 しかし、こうした考え方は「間違っている」と指摘するのは、フリブール/フリブルク大学の経済学教授セルジョオ・ロッシ氏だ。
「失業者の増加に伴い、注意が必要だ。罪の意識のある納税者は持っている資産を金融商品や不動産に投資するようになり、消費財に金を使うことはない」
 さらに、ティチーノ州のような脱税恩赦は非建設的な効果しかないと指摘する。
 「恩赦は議論を間違った方向に持っていくだけで、租税制度についての必要な議論ができなくなる危険がある。特に、巨大化し、資産運用に業務が集中している各地の金融機関関係の租税制度については、討議が必要だ」

ポピュリズムに走った施策

 ロッシ氏は、他州の追従を懸念する。
「こうしたやり方はポピュリズム ( 大衆迎合 ) だ。有権者に対してその地方の政治家が、地元に経済的な貢献をしているとみせしめることができるからだ。真実は、制度の根本に影響を与えることのない、安易な解決策でしかない」
 と言う。
「脱税恩赦は、国民は信頼すべきものであるという基本を越えられない民主主義の弱い部分の現れだ」

 良し悪しはさておき、技術的な問題も多く残る。多くの州の納税課は税の平等の基本をどのように説明すればよいのかと頭を悩ませている。例えば、フリブール/フリブルク州の納税課長ラファエル・シャソ氏のように
「州行政は、納税者を正当に普遍的に扱うことができるのだろうか」
と問う担当者は多い。

 ほかの租税専門家もこうした恩赦が、連邦税、州税、地方税のうち一つだけに行われている現実から見ても、恩赦の持つ意味に疑問を持っている。

ニコル・デラ・ピエトラ、swissinfo.ch
( 佐藤夕美 翻訳 )

文化の崩壊か分解か。今まではカトリック系の州 ( ジュラ州、ティチーノ州、フリブール/フリブルク州のごく一部 ) がその施行に興味を示している。ジュラ州では、1年間で州に300万フラン ( 約2億7000万円 ) 、地方自治体に200万フラン ( 約1億8000万円 ) もたらすと試算されている。ティチーノ州では、近日中にこれに関する州民投票が行われる予定だ。
急進民主党 ( FDP/PLD ) 、キリスト教民主党 ( CVP/PDC ) 、レーガ党、国民党 ( SVP/UDC ) といった保守党などは動議で「州が脱税恩赦をすれば、10億フラン ( 約890億円 ) の隠し金が出てくる。連邦も6500万フラン ( 約5億6000万円 ) の歳入をもたらす」と主張する。1969年にも脱税恩赦はあり、その際連邦は115億フラン ( 約1兆170億円 ) の歳入があった。

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