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スイスの列車事故 当時の豪雨の情報や警報システムは?気象庁に聞く

脱線した車両を斜面から引き上げる作業が、事故の翌日から開始した Keystone

スイス・グラウビュンデン州で13日午後に起きた列車の脱線事故。この事故では観光で有名な氷河特急と同じ路線に土砂が崩れ落ち3両が脱線。1両は斜面を滑り落ち木に引っかかって停止。日本人男性1人を含む5人の重傷者も出た。その事故から2週間。当時の豪雨の情報や警報システムはどうだったのか?今後のリスク回避のためにスイス気象庁に聞いた。

 電車は事故発生から3日後の16日に、運行が無事再開されている。だが、入院した5人の重傷者のうち、ルツェルン州出身のスイス人男性(85)が22日の朝、病院で亡くなった。鉄道会社(RhB)は深い遺憾の意を表明している。

 一方、腰の骨折で入院中の横浜市の日本人男性(70代)は、スイスの日本大使館によると、1週間前から軽い食事をとれるようになり、回復に向かっているという。

 日本でもゲリラ豪雨による土砂崩れ災害が起きている。スイスのこの事故当時の豪雨はどのようなものだったのか?どのような警報システムが作動したのか?

40ミリが6時間継続

 スイス気象庁「メテオスイス(meteosuisse)外部リンク」によれば、この事故のあった13日は40ミリの降水量が6時間続く記録的な豪雨だった。その量は、8月の平均降水量の約半分にあたり、またこれは10年に1回の例外的な降水量だった。

 土砂崩れに関しては、13日以前にすでに長期にわたり雨が降り続いており、地盤はかなり緩んでいたが、地中に含まれていた水量と土砂崩れが起きた因果関係については現在調査中だと、メテオスイスの広報担当、ベティナ・ガリカーさんは説明する。

 しかし、ガリカーさんによれば「メテオスイスが警報システムを使って出す情報は、天候(雷、強風、豪雨、豪雪など)に関することのみ。それによって起こりうる雪崩や土砂崩れのリスクに関しては、責任の主体が変わり州の担当になる」と言う。

列車事故の在スイス日本大使館による情報

渡航先に関し、豪雨や台風などのリスクで、特別な警告を出す場合があるのか?との質問に大使館側は、「外務省が出す渡航先の危険情報はテロなどに関するものが中心。スイスの鉄道は安全に力を入れている。また日本のように先進国でも列車事故は起こる。結論としては、自然災害が引き起こすリスクへの警告は出さない」と話す。

今回脱線事故に遭ったのは、横浜出身の2人の夫婦(70歳代の男性と60歳代の女性)と友人の女性(60歳代)の3人。個人での旅行中だった。負傷した夫婦のうち、女性の方は軽症だったので事故から数日で退院。男性は重傷で入院中。

こうした個人旅行の場合、大使館としては通常、入院費や保険関係などの手続きをサポートし、健康状態が落ち着くまで病院への見舞いを続けながら見守っていくと話している。

メテオスイスの警報システム

 まず、情報を得るのに今後参考になるものとして、メテオスイスが自慢する詳細な地域ごとの天気情報外部リンク(雷・豪雨・豪雪の危険を含む)がある。これは一般の人が簡単にアクセスできるウェブサイト上のもので、絶えず更新されている。

 また、一般にメテオスイスは、他にも可能な限りの警報システムを使っており、列車事故に関しては、その当日も関係の州(グラウビュンデン州)と自治体に豪雨の警報を出していたと話す。

 さらに、リスクのある天候が予想されるときに、州と自治体の警察、消防署はメテオスイスから情報を必ず受け取ることが保障されている。州と自治体のリスク管理部が、特別な情報を必要とする場合には、24時間体制でメテオスイスに問い合わすこともできる。

10年に一度の例外

 しかし、グラウビュンデン州警察は土砂崩れの可能性の認知度に関し、「どこで今回のような土砂崩れが起こるのかは予測がつかない。傾斜面の角度、地盤の緩み、降水量、地学的要素によって異なるためだ」との見解を現在のところ、発表している。

 総合的な事故調査は、政府の管轄下にある、スイス事故調査サービス(SUST/SESA)が行っており、最終報告は早くて半年後に出る。

 なおメテオスイスは、広島での土砂崩れが同じ時期に起きたように、今回の事故もエルニーニョ現象など、グローバルな気候変動に関わっているのかとの質問に対しては、以下のように返答している。「直接の因果関係は考えられない。こうした10年に一度の例外的な豪雨と気候変動全体を直接結び付けることはできない。それだけの研究材料が整っていない」

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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