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責任ある行動が守る地球の命

2009年9月 ケニアの旱ばつ Keystone Archive

「気候変動枠組み条約第15回締約国会議」開催が1カ月後に迫り、すでに成果なしを危ぶむ声が囁かれ、スイスの開発援助団体「南同盟 ( Alliance Sud )」 がスイス政府に圧力をかけている。今になってもスイス政府はコペンハーゲンに派遣する代表団の委託権限内容を未決定のままとしている。

ローズマリー・ベール氏を代表とするこの非政府組織 ( NGO ) は先週末、スイス政府に要望書を提出した。「南同盟」の代表として気候変動の重責を担うベール氏が、見解を語る。

swissinfo.ch : 12月に開催される「気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)」において争点となる課題は何なのでしょうか。

ベール : COP15 の目的は、わたしたち人類共通の未来を守ることです。京都議定書第一約束期間が終わる2012年以降の気候変動に関する各国の同意を求める交渉は、2009年末までの合意が必要とされています。これは温室効果ガスの排出削減を各国に求める合意であり、気候変動によって人類の存続が脅 ( おびや ) かされる最悪の事態を回避する唯一の手段でもあります。

swissinfo.ch : この課題に対して、現在はどのような状況下に置かれているのでしょうか。

ベール : 現在のところ、事態は良くありません。各国間の事前の話し合いの段階では、全てが滞 ( とどこお ) っています。先進国は、途上国と新興国からまず今後の気候変動を食い止めるための対策を打ち出すことを求めています。

途上国は、気候変動は温室効果ガスを排出し続けた先進国のせいだと主張、「歴史的」な責任を負う先進国が温室効果ガスの削減を受け入れ、途上国への技術的および財政的な適応支援を行うことを求めています。

温室効果ガス排出大国であるアメリカは独自の立場に立ち、いかなる合意もしていません。COP15 での気候変動に関する重要な合意がなされるかどうかについては、悲観的な予想をしています。唯一合意に至ったのは、専門家が示す「+2℃」( 1850年比、地球の持続可能な限界ライン ) を避けること、これだけです。

swissinfo.ch : 制限された不確実な合意であっても、された方がよいのでしょうか。

ベール : 合意には強制力はなく、政府関係者の参加となる今回の会議では、むしろ共通の政治的な宣言が提唱されるのではないかと思います。「気温上昇+2℃の上限」「2020年に向けての温室ガス排出削除」「途上国への資金援助」がその中に盛り込まれるでしょう。

しかし、「各国がすべきことは何か」「どの国にどんな資金援助をするのか」といった具体的な決定については白紙のままです。これらの議題については次回の交渉となります。機会があれば、ですが。

しかしながら、気候変動は待ってくれません。スペシャリストの警告により、次世代までには脱化石燃料社会を実現させなければなりません。事態は悪いほうに急変しているのに、政治はゆっくりとしか動いていません。

swissinfo.ch : スイス政府に期待することは。

ベール : 温室効果ガス排出削減目標の大幅な引き上げです。2020年までに1990年比で20%の温室効果ガスの排出削減を目標としている一方、他国からのクレジットで10%以上の削減義務をオフセット ( 実質的削減の目減り ) することを打ち出していますが、それはわたしたちの責任の対価として、すべきこと、できることではありません。

2050年までの目標を政府が掲げていないことは、遺憾です。2050年には化石燃料社会からエコロジー燃料社会へと移行していなければなりません。連邦政府は途上国と貧民国への援助資金拠出の方法についても、全く触れていません。

スイスはコペンハーゲンで率先して次期枠組づくりに向けての主導権を発揮できると考えています。しかしそれは、国内での確固たる環境政策とエネルギー政策があっての上での話です。
しかし、政府は気候変動に向けての重要な政策を何も打ち出してはいません。銀行の救済、アメリカからの制裁からUBSを守ることには熱心ですが、人類の存続と生命の礎となる環境に対してわたしたちが行ったことの代償を払うことは、連邦議会の議題として取り上げられないのです。

swissinfo.ch : 政治の世界でも民間と同じように、このような警告を信じない人と、もっと早く対処すべきだと迫る人とがいるのではないでしょうか。スイスは折衷案を迫られているのではないでしょうか。

ベール : その通りです、それが難しいところです。しかし、全てにおいて、政府と政治の任務とは、必要とされることに実現の可能性を見出していくことです。「人間の共同生活が平和に営われる」という目的のために、国家が形成されました。気候変動は、世界平和を危機に巻き込んでいます。スイスは、折衷案を見出すために、コペンハーゲンでもっと主導権を行使し、そしてその成果をスイスで実践すべきです。最小の目標を掲げるのみでコペンハーゲンに乗り込むべきではありません。

swissinfo.ch : 中国やインドのような最近の発展の目覚ましい国も、温室効果ガス排出削減目標を掲げるべきだと思われますか。

ベール : 新興国の貢献なしでは、最悪の事態を避けることはできません。これらの国々では用意ができています。国家レベルのプログラムと研究は、わたしたちのそれよりも優っているほどです。しかし、先進国がまず責任を負うべきだと主張し、交渉は平行線をたどっています。

ピエール・フランソワ・ベッソン、swissinfo.ch 
( 仏語からの翻訳 魵澤利美 )

二酸化炭素 ( CO2 ) 排出規制の法律がスイスの気候変動政策の土台となる。この法律は、2012年以降見直し、改正。
スイス政府は2020年までに1990年比で20%の温室効果ガスの排出量削減を目標としている。
12月7~18日開催予定の「気候変動枠組み条約第15回締約国会議 ( COP15 )」の結果を受け、スイスは目標値を30%に引き上げる用意がある。
「健康的な気候のために ( pour un climat sain )」というスローガンの元、2020年までに30%削減の条文を憲法に組み入れようという国民発議が出された。2011年夏に国民投票が行われる。
長期の展望としては、「気候変動に関する政府間パネル( Intergovernmental Panel on Climate Change : IPCC )」の評価報告書に従い、2050年までに50%~85%の排出量削減を目標とする。

スイスにある6つの開発援助団体 ( スイスエイド: Swissaid、 アクション・ドゥ・カレーム:Action de Carême、 パン・プール・ル・プロシャン:pain pour le prochain、 エルヴェタス:Helvetas、 カリタス:Caritas、 エペール:Eper ) が形成するグループ。スイス政府に国際経済、税務訴訟、環境 ( 水、気候 ) などの分野での貧民国への援助を働きかけている。
南同盟は、スイス国内で2020年までに1990年比で40%、2050年までに90%の排出量削減を要求している。
さらに、スイスは温暖化による貧民国の被害に対し、迅速に技術支援を提供すべきだと提唱している。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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