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軍改革をめぐる憲法改正案で10日国民投票

国民投票の行方は? swissinfo.ch

「国際平和維持活動に参加するスイス兵の武装を認めるか。スイスのNATO(北大西洋条約機構)主導の軍事演習への参加を認めるか。」。10日スイス国民は軍の果たす役割の改革をめぐる2つの憲法改正案の可否を問う国民投票を行う。改正案は右派両勢力からのすさまじい反対にあっている。最新世論調査では、反対・支持各派の勢力は拮抗しているが支持派の方が少ない。

永世中立国スイスでは、軍の役割は国境侵犯に対する国土防衛に限定されてきた。男性国民は全員が兵役に就く義務があるが、スイス兵が国外で戦死するという状況は考えられないことだった。が、冷戦終結後10年あまり、外国のスイス軍事侵攻はあり得ないといってもよい情勢になってきた。スイス軍幹部の多数派は、軍の役割をよりフレキシブルなものに変革し、国際平和維持活動へ積極的に参加することに強い関心を示している。スイスはコソボの国際平和維持部隊KForに小規模の部隊を派遣しているが、スイス憲法により国外での武装が認められていないためオーストリア軍の保護を受けている。国防相は、この状況を遺憾とし改革を希望している。「国際平和維持活動に参加する我が軍が、他国の軍のお荷物になるべきではない。小規模ながらも有益な貢献をするため、スイス兵が義務を果たすには武装が必要だ。政治的に大変繊細な問題だが、あまりにも反論が多いことに私は驚いている。」と、クリスチャン・カトリナ国防相安全保障国防政策副局長は言う。一方、軍事演習への参加に関しては、カトリナ副局長は単に常識の問題だとし「スイス軍にも高度な演習が必要だ。今日、高度な演習とは他国軍との国際共同演習を意味する。国際共同演習によって我が国も世界に遅れないようにすることができる。」と述べた。

これに対し反対派の代表、「軍隊なきスイス」のニコ・ルッツさんは、スイスは違う方法によって平和のために貢献するべきだという。「憲法改正案は軍の希望通りのものだ。平和への貢献で軍にできることなどない。スイスはもっと国際貢献をするべきだが、軍ではなく文民による紛争解決への貢献をするべきだ。コソボをご覧なさい。98年秋OSCE(欧州安保協力機構)はコソボに派遣する十分な要員を確保できなかった。この時点で十分な要員を派遣していたら、流血を防ぐことができたかもしれない。」と、文民による国際貢献を強調する。ルッツさんのように左派の反対派がスイスから軍そのものをなくし、文民による国際紛争解決への貢献を強調するのに対し、右派の反対勢力は軍は無くすどころか強化する必要すらあるが国境内での活動に限定するべきだと主張する。スイス人民党のトーマス・フッチ氏は、武装であろうが非武装であろうがスイス部隊は国外で活動するべきではないというのが信条だ。「スイスは特殊な中立国だ。スイスの軍隊は防衛のためのものだ。国外ですることは何も無い。」と主張するフッチ氏は、右派勢力が作製した墓標の列とスイス国旗を並べスイス兵士が国外で死亡することを暗示した憲法改正反対のキャンペーン用ポスターに集まった非難に対して、謝罪の意思はまったくいないと断言した。「人々があのポスターを批判するのは、それが現実に起こり得ることだとわかっているからだ。スイスの若者達が国外で死ぬことを考えると、皆不愉快になるのだ。」。

さて、兵役に就く男性国民達自身はどう考えているのだろうか。平和維持活動への参加は志願によるもので、強制はない。マルティン・シュトゥッダー大尉は「右派の考えは現実に即していない。スイスだけが孤立を保つことはできない。問題のある所に救援に行くのはスイスの義務だ。義務を果たさないなら、スイスも問題の一部になってしまう。」と語る。核兵器と化学兵器の専門家であるシュトゥッダー大尉は、他国の軍との共同演習の機会を増加するという案に賛成だという。「私自身の国際共同演習に参加した経験から言えることだが、他国軍との共同演習で学ぶことは多い。貴重な学習経験だった。」。また、クリスチャン・ライツェ軍医は「正直なところ私はスイスにいたい。が、国際平和維持活動に積極的に参加したいと考えている人々もいる。平和維持活動は危険が伴うものだ。自衛のためには武器携帯が必要だ。」と武装許可案を支持する。

スイス軍の国外での活動が増加することは、スイスの永世中立政策を侵害するものだという論争もある。これについて、前述のカトリナ国防相安全保障国防政策副局長は、スイス国民にとって最も重要な中立政策は決して侵害されないとし次のように述べた。「多くのスイス国民は、この国を特殊な国だと思っている。我々も国民の意思を無視して外交政策や国防政策を決定することはできない。が、だからといって、平和維持活動を忘れてしまうことはできない。国際協力への参加、助けを必要とする人への救援、スイスにも関連のある地域での平和維持活動への参加はスイスの義務だ。」。

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SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

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